Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 ヒウロ達はルミナスの空き家で消沈していた。アレンの件である。もし、あの魔族がダールだとしたら。そして、アレンがダールに屈してしまったとしたら。そんな事を考えていたのである。
「しかし、俺達の目的はあくまで魔族を倒す事だ」
 メイジが言った。そしてそれは、正論だった。魔族を倒すために、ヒウロ達はここまで来たのだ。そのために神器を手に入れ、自身らの実力も上げてきた。アレンの件は確かに気掛かりだが、旅は続けなければならない。
「ヒウロ、気休めかもしれないけれど……あなたのお父さんなら、きっと大丈夫よ」
 セシルが言った。セシル自身も闇の力に支配された。だからではないが、見える事実、わかる事実がある。真に自分の意志を持っていれば、闇の力に打ち勝つ事が出来るかもしれない。セシルはそう思った。だが、キッカケが必要だ。闇の力によって、人間である自分は封じ込められてしまうのだ。それを呼び覚ますには、何らかのキッカケが必要だった。そしてセシルは、ライデイン・オリアー・エクスカリバー等がキッカケとなった。
「ヒウロさん、あなたのお父様も私の力で」
 エミリアが控えめな口調で言った。先述のキッカケの件も重要だが、最終的にはエミリアの力が確実だった。聖なる力によって、闇の力を除去するのだ。だが、エミリアはルミナスの第一王女だった。ルミナスから出る事はもちろん、魔族を倒す旅に加わるのは難しい事だろう。
「みんな、ありがとう。大丈夫。俺はそこまで、気落ちしてないよ」
 ヒウロはそう言いつつ、笑顔を作った。しかし、内心は言葉通りでは無かった。アレンの件もそうだが、ヒウロは神器を手に入れる事が出来なかったのである。メイジやオリアーは、神器を手に入れた事に加え、実力も大幅に上げて帰って来た。所が、ヒウロはそうではない。この事実が、ヒウロを苦しめていた。自身の強さにコンプレックスを抱いているヒウロにとって、今の状況はとても平静でいられるようなものではなかった。
 ふと、外がガヤガヤと騒がしい事に気が付いた。人の声である。不審に思ったメイジが窓を開け、外に目をやった。人だかりが出来ている。
「ル、ルミナス王に、あ、会わせてくれ……っ」
 人だかりの中心で、傷だらけの兵士が呻いていた。兵装から見て、他国の兵のようだ。ただ事ではない。ヒウロ達はそう思った。
「外に出るぞ」
 メイジがそう言い、ヒウロ達も頷いた。外に出る。
「た、頼む!」
 兵が息を荒げながら呻く。ヒウロ達が人ゴミの中を進み、兵の傍に寄った。
「大丈夫ですか」
 エミリアが慌てて回復呪文をかける。
「あ、あなたはルミナス王国の第一王女の……」
「エミリアです。どうされたのです?」
「私はラオール王国第一師団所属の兵士です。姫、ルミナス王に会わせて下さい」
 ラオール王国。この世界は、三つの大陸によって形成されていた。その大陸とはすなわち、ラウ大陸、ディ大陸、ロス大陸の三つだ。各大陸には首都があり、ルミナス王国はラウ大陸の首都だった。ルミナスは強大な武力や魔法などの英知には乏しいが、富と情報が溢れ、各王国の中でもトップクラスの治安を誇っていた。
 一方のこの兵士の国であるラオールは、ディ大陸の首都だった。ラオール王国は世界最大の軍事国家として謳われ、勇者アレクの時代にもその力で魔族とも長く抗戦をしたと言う。そして、もう一つはロス大陸のファルス王国だ。この国の歴史は古く、魔法大国として名を馳せていた。
「ディ大陸に、魔族が襲撃してきたのです」
 兵が言った。ヒウロ達に緊張が走る。
「ラオールは魔族を迎え撃っています。現在、ラオール王国の南の関所にて魔族と交戦していますが、状況は芳しくありません」
 エミリアが立ち上がる。回復が終わったのだ。
「願わくば、ラオールに救援を! このお願いのため、私は戦線離脱して参ったのです!」
 兵がその場で平伏した。
「……魔族の数と、その指揮者の特徴は?」
 メイジが言った。口調は冷静だ。
「およそ二百。ですが、これはあくまで先鋒でしょう。後詰にもっと多くの魔族が控えていると予想されます。指揮者の特徴は、鼻の下と顎に髭を蓄え、黒いマントを羽織っておりました。……変な事を言うとお思いかもしれませんが、私には魔族というより人間に見えました」
 ヒウロの心臓の鼓動が高鳴った。父、アレンの特徴とそっくりだ。
「……ヒウロ」
 メイジがヒウロの目を見た。
「父さん……父さんかもしれない」
 ヒウロの声は震えていた。

       

表紙
Tweet

Neetsha