Neetel Inside 文芸新都
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「ぬぅ……」
 ルミナス王が唸っていた。ラオール王国に魔族が襲撃してきている件だ。ラオールの兵が援軍を求めているのである。だが、ルミナスには援軍を送る余裕が無かった。魔族ファネルの襲撃、ダールとセシルの戦闘などによって、ルミナスは半壊状態になっているのだ。この状態で兵を出してしまうと、自国の防衛すらままならない。
「俺達が行きます」
 ヒウロが前に出て、王の前で跪いた。
「ルミナスには援軍を送る余裕がないはず。それなら、俺達がラオール王国を救いに行きます」
 ヒウロがハッキリと言った。そして、これが最も理にかなっていた。ルミナスの兵はラオール王国の兵に比べると、戦闘能力は高くはない。援軍に出たとしても、戦況をひっくり返す要素にはなりにくいのだ。しかし、ヒウロ達は違う。ライデインのような魔族に対する絶対的な武器に加え、神器もあるのだ。そして何より、ヒウロはアレンの事が気掛かりだった。ラオールを襲撃している魔族の指揮者の特徴が、アレンにそっくりなのである。
「……ぬぅ。……正直、ルミナスからの援軍は難しい。ヒウロ殿、その申し出に甘えてもよろしいか?」
 ルミナス王が心苦しそうに言った。本来ならば、ヒウロ達は民間人なのだ。その民間人に頼らなければならない。ルミナス王は一国の王として、それを恥じた。
「はい。……では」
 ヒウロが立ち上がった。メイジ、オリアー、セシルの三人も立ち上がる。
「それでは、私のルーラで」
 ラオールの兵が言った。その時だった。
「お待ちください、私も、私も行きます」
 王座の脇で控えていたエミリアが言った。真剣な表情だ。
「な、何を言っておる?」
 ルミナス王の声が裏返る。
「お父様、私は癒しの力を持っています。ラオール王国の兵士は傷ついているはず。私の力は無駄にはならないはずです」
「バカな事を言うな!」
 王が怒鳴った。しかし、エミリアは表情を変えない。
「お前は一国の王女だ。ルミナスから出る事は許さん。ただでさえ、先日に戦闘の場に出たのだぞ。王女の自覚を持て」
「お父様、今は王族の事など気にしている時ではないはずです。それにヒウロさん達だって、無敵ではありません。私の癒しの力が必要になるはずです」
「エミリア」
「私は、皆様のお役に立ちたいのです」
 エミリアが王の目をジッと見つめた。その眼差しは強い。
「……もう、何を言っても聞かぬだろうな」
 王がため息をついた。
「わかった。ただし、条件がある。危なくなったら、すぐに逃げる事。ラオール王国を救ったら、すぐに帰ってくる事。この二つが条件だ」
 エミリアが頷いた。
「ありがとうございます、お父様」
 エミリアが王座から離れ、王に向かってお辞儀をした。
「さぁ、皆さん、行きましょう」
 エミリアのこの言葉に、ヒウロらが頷く。
「では、私につかまってください」
 ラオール兵が言った。
「行きますよ。ルーラ!」
 瞬間移動呪文。ヒウロ達は淡い光に包まれ、風と共に空の彼方へと飛んで行った。
「……エミリアのあの芯の強さ。お前譲りだな」
 歴代王妃の肖像画を見ながら、王は呟いていた。

       

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