Neetel Inside 文芸新都
表紙

ドラゴンクエストオリジナル
ラオール王国・南の関所〜

見開き   最大化      

「退け、退けぇ!」
 ラオール王国の南の関所。ラオール王国第一師団の軍団長が叫んでいた。すでに関所の高台の弓・魔法兵の多くが傷つき、歩兵も残りわずかとなっていた。人間と魔族の力の差が歴然なのである。いや、正確には一人の男が強すぎたのだ。その男の手によって、ラオール王国第一師団は壊滅状態に陥っていた。
「先ほどのマントの男、一体、何者だ……!」
 軍団長が呟く。その時、空の彼方が光った。ルーラの光だ。
「き、来たか!」
 ヒウロらが地に降り立つ。
「軍団長、遅れて申し訳ありませぬ!」
「うむ。しかし、よく戻って来た。だが、もうこの関所は終わりだ。ラオール王国の手前の山間まで退く」
「……いや、その判断は間違っている」
 メイジが言った。それを聞いた軍団長が不満そうな顔でメイジを睨みつける。
「素人は黙っていて貰おうか」
「関所で踏ん張るべきだ。山間では魔族の方が有利だろう。奴らに天然の要塞は通用しない」
 魔族には空を飛べる者、地を凄まじい速さで駆ける者など、様々な特性を持つ者が居るのだ。人間にとって山間は有利な場所とは言えない。足場が良ければまだマシだが、そうでない場合は魔族に山間の地の利を逆に取られてしまう。それなら、関所という人間の手で造られた戦闘場所を有効活用する方が良い。
「しかし、関所はもう」
「俺達に任せろ。セシル、やれるか」
 メイジが言った。セシルが頷く。そして、魔法剣を作り出した。エメラルド色に輝いている。
「よし、空中の敵は俺が全て片付ける。セシルは地上だ。ヒウロ、オリアーはセシルが討ち損ねた敵を倒せ。エミリア姫はラオール兵の治癒を」
 メイジには呪文があり、セシルには魔法剣技がある。今回のような大人数戦の場合、一度に広範囲・大勢の敵を攻撃できる者が主軸となる。すなわち、メイジとセシルだ。
「ラオール兵を下がらせろ。巻き添えを食うぞ」
 メイジが軍団長に言った。言葉遣いが気に入らないのか、軍団長は不満そうだ。しかし、旗を振らせる。後退の合図だ。後退してくる兵らと入れ換わるように、ヒウロ達が前に出る。
 ヒウロはアレンを探していた。魔族の総指揮者だ。だが、この場には居ないようだ。ならば、進むまで。
「行くぞ。神器、力を貸してくれ」
 神の杖・スペルエンペラーが光り輝いた。魔族が空中で羽ばたいている。戦闘態勢だ。
「来いっ」
 瞬間、魔族の群れが突っ込んできた。それをメイジが睨みつける。両手。魔力を灯らせた。
「イオナズンッ」
 空中に向けて放つ。次の瞬間、大爆発。轟音。空が黄色く染まった。爆発の波動が陽炎のように揺らめき、旋風が巻き起こる。魔族の群れが一瞬にして消し炭と化した。神器の力でメイジの魔力が上がっているのだ。
「上は空いた。行けっ」
 ヒウロ、オリアー、セシルの三人が駆ける。セシルを中央に据え、ヒウロとオリアーがその左右に付いた。関所の中に入った。魔族は居ない。だが、傷ついた多くの兵が喘いでいた。
 関所を抜ける。荒野。両脇に岩壁がそそり立っている。瞬間、魔族の群れが目に飛び込んできた。
「神器よ、僕に力を!」
 神剣・フェニックスソードが光輝く。
「僕とヒウロが出来るだけ、魔族を固めます。セシルさんは魔法剣技を!」
 オリアーが剣を振りながら言う。神器の力なのか、身体を斬られた魔族は、傷口から光を放出しながら煙と化していた。オリアーの一振りで魔族が倒されていく。だが、数が違いすぎる。関所を背に、ヒウロとオリアーの間合いが狭まって来た。その間、セシルが魔法剣を頭上に掲げ、機会を窺う。
「今ですっ」
 ヒウロとオリアーが道を空けた。魔族の群れが一直線に連なっている。先頭の魔族がセシルに向かって飛び込んだ。次の瞬間。
「エアロブレイドッ」
 エメラルド色の衝撃波。ほとばしる。先頭の魔族が消し飛び、後続の魔族も次々と衝撃波に飲み込まれていった。だが、まだ奥に魔族の群れがうごめいている。
「……行こう」
 ヒウロが言った。二人が頷く。この先に魔族の総指揮者が居るはずだ。父なのか。アレンなのか。ヒウロは心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。

       

表紙
Tweet

Neetsha