Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 ヒウロ達が遮二無二、進んでいた。関所から魔族を退けるのだ。メイジの上等級呪文で空中の敵を倒し、セシルの魔法剣技で地上の敵を倒していく。次第に魔族がその気勢に圧され始めたのか、ヒウロ達に向かってくる者が減って来た。遠巻きに睨みつけるだけなのである。
 一方、エミリアは関所内で傷ついた兵達の治癒にあたっていた。数多くの兵が傷を負っており、すでに息絶えている者まで居る。
「皆さん、大丈夫ですか」
 エミリアが両手をかざし、回復呪文を唱えた。淡く白い光が、兵の傷を塞いでいく。
「た、助かりました……。ですが、もうラオールは終わりです」
 兵の声色が弱い。
「何を言っているのです。気を強く持ってください」
「……あなたは見ていないから言えるのです。あの男の強さを」
 兵の目に恐怖が浮かんでいる。エミリアはそれを感じ取った。
「あの男の強さは、異常だ……。もうラオールは、人間は終わりだ」
 この兵の言葉に対して、エミリアは何も言えなかった。ラオール王国の兵は勇猛果敢・質実剛健として名を馳せているのだ。そのラオール兵が嘆いている。兵の言う男とは、一体何者なのか。本当にヒウロの父親なのか。エミリアはそう思った。そして、エミリアが関所の外に目をやる。
「ヒウロさん……」
 無事で居てください。エミリアは心の中でそう呟いた。

 その頃、ヒウロ達は魔族の群れと睨みあっていた。向かってくる魔族を倒し続けた結果、ついにどの魔族も動かなくなったのである。
「親玉を出せ、お前達では話にならん」
 メイジが言った。魔族の総指揮者を引きずり出す。これが真の目的なのだ。
「ケケケ、後悔すんじゃねぇぞぉ? 闇の勇者様にかかれば、お前達なんざ」
 瞬間、言葉を喋っていた魔族の身体が真っ二つになった。ヒウロ達に緊張が走る。
「我が魔族軍の大将だ」
 ヒウロ達の前に立ちはだかる。黒いマント、鼻の下と顎に髭を蓄えた男。
「……父さん、そんな……そんな」
 ヒウロが力無く呟いた。そして、ヒウロの中にあった僅かな希望が消え去った。アレンはダールに屈したのだ。つまり、このアレンはダールの手によって魔族に変えられてしまっている。
 そんなヒウロの様子を、メイジはしっかりと見ていた。やはり。メイジはそう思った。こうなってしまった以上、アレンとの戦闘は避けられない。どれほどの力の持ち主なのか。そして、闇の力による影響は。セシルのケースから考えて、魔族化した場合、その力は人間の時よりも強くなっているはずなのだ。
「我は闇の勇者アレン。貴様らを血祭りにあげてくれる」
 瞬間、アレンの全身から邪気が溢れ出す。
「な、なんて禍々しさなの……!」
 セシルが思わず口をついた。アレンの足元、地に亀裂が入る。その亀裂から、さらに邪気が溢れ出す。
「……みんな、全力でやれ。でなければ、死ぬぞ」
 メイジが杖を構えた。
「ヒウロ、しっかりしろ! お前がしっかりしなくては、助けられるものも助けられないぞ!」
 メイジの叫びにヒウロがハッとした。すぐに剣を構える。
「無駄だ。……我の力の前にひれ伏せッ」
 アレンが剣を抜く。そして、闇の闘気が天を貫いた。

       

表紙
Tweet

Neetsha