Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

 メイジが後退りする。アレンの圧倒的な闘気に向き合っていられないのだ。アレンが一歩ずつ、確実にメイジに向かって歩き出した。
「貴様のその杖……」
 アレンが呟いた。片目を辛そうにつむっている。頭痛だ。
「レオンの……! レオンの杖か……!」
 すると、アレンのこの言葉に反応するかのように、メイジの神器、スペルエンペラーが輝き出した。メイジに戦え、向き合えと言っている。
「こんな化け物と、どうやって戦えと言うんだ……!」
 言いつつ、両手に魔力を溜める。上等級呪文だ。いつでも放てるように備えておくのだ。するとアレンの後方でも何かが輝いた。気絶したオリアーからだ。いや、オリアーの神器、フェニックスソードが輝いている。
「ぐぬ……! あ、頭が痛い! 我にその杖を見せるなッ」
 アレンが駆ける。メイジが両手を突き出した。
「イオナズンッ」
 放つ。通用するのか。瞬間、大爆発が巻き起こった。
「間抜けが」
 腹。アレンの回し蹴りが叩きこまれた。メイジの身体が吹き飛ぶ。アレンはイオナズンをまともに食らった。だが、大したダメージは受けていない。メイジが全身を震わせながら立ち上がる。回し蹴りの一撃。あばらを何本か持っていかれている。呼吸する度、全身に激痛が走った。
「ちぃ……! やわな身体が災いしたか……!」
 両手に魔力を溜める。だが、アレンの突進。一気に距離を詰められ、頭を掴まれた。
「あぐっ」
「死ね」
 空中へ向けてメイジが投げ飛ばされる。そのメイジに向かって、アレンが右手を突き出した。
「メラゾーマ」
 巨大な熱球。螺旋を描いてメイジへとほとばしる。メイジが歯を食いしばった。そして両手を突き出す。
「メラゾーマッ」
 力の限りに放った。相殺を狙ったのだ。両者のメラゾーマがぶつかり合う。魔力の波動で風が吹き荒れた。
「いけぇっ」
 メイジが叫んだ。両手を押しこむ。瞬間、両者のメラゾーマが消し飛んだ。同時にメイジの身体が地面に叩きつけられる。メイジの息が荒い。勝負になっていない。だが、立ち上がる。メイジは勝ち目が無いのを悟っていた。それでも、立ち上がる。これは本能に近い。
「首を刎ねて殺す必要があるようだな」
 メイジの目が霞む。

 一方、ヒウロはうつ伏せのまま気絶していた。そのヒウロの全身が熱い。
「ヒウロ、ヒウロ、聞こえますか」
 気絶しているヒウロの頭の中で声が響いた。
 この声。聞いた事がある。ヒウロはそう思った。獣の森で聞いた、あの声だ。
「あなた達は今、全滅の危機を迎えています。レオンの力を受け継ぎし者が倒れた瞬間、世界は破滅を迎えてしまうでしょう。ヒウロ、目を覚ましなさい」
 レオンの力。メイジさんの事か。ヒウロが心の中で呟いた。しかし、目を覚ましてどうする。父、アレンは強すぎる。今の段階で出会うべき相手では無かった。
「アレンは勇者アレクの子孫。あなたと同じ血筋なのです。そして、あなたにはまだ多くの力が眠っています」
 ならば、その眠っている力を使いたい。俺は強くなりたい。ヒウロが心で叫んだ。それは悲痛な叫びだった。
「力を呼び覚まします。ライデインを超える聖なる雷撃呪文。そして、アレクの剣術」
 ギガ、デイン。
「ヒウロ、アレンを、アレンを助けてあげてください」

「とう……さん……!」
 ヒウロが剣を杖に立ち上がる。
「ヒ、ヒウロ……」
 メイジがかすれた声で呟く。アレンに頭を掴まれ、剣を喉元に突き付けられていた。
「フン、まだ生きていたのか、小僧」
 アレンがメイジの身体を放り投げる。その様は、まさにゴミを投げ捨てるかのようだった。
「俺は、俺は……!」
 ヒウロが剣を構えた。稲妻の剣が咆哮をあげる。ヒウロの全身が、黄金色に輝き出した。
「む……!?」
 アレンが思わず身構えた。ヒウロの闘気が、天を貫いていた。

       

表紙
Tweet

Neetsha