Neetel Inside 文芸新都
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 ヒウロが剣を構える。その目は闘志で満ち溢れていた。
「小僧、まさか貴様がそんな力を隠し持っていたとは……!」
 アレンも剣を構えた。ヒウロの闘気がアレンの全身を刺激する。明らかにさっきまでは違う。アレンはそう思った。眠っていた力が呼び覚まされたのか。
「父さん、本当にダールに、魔族に屈したのか! 勇者アレクの子孫が、魔族に屈したのか!」
「屈した? 父さん? 何を言っている? 我は魔族だ。それに我には、血を分けた者など一人もおらぬわっ」
「……どうしても戦わなければならないと言うのなら」
「愚問を。少しばかり力に目覚めたぐらいで、良い気になるな」
 ヒウロが歯を食い縛った。剣を構え、駆ける。目の前の男は自分の父だ。だが、魔族に屈した。これはもう紛れもない事実だ。ヒウロの心情は変化を迎えようとしていた。今の今まで、ヒウロは現実をどこか信じ切れていなかったのだ。あの父が魔族に屈するはずがない。屈したと見せかけているだけだ。そんな有りもしない希望にすがっていた。だが、もうそれは違う。父は魔族に屈したのだ。そして、それを救う事が出来るのは。
「俺だけだっ」
 剣を振るう。アレンが剣で受け止めた。稲妻の剣の電撃が四散し、バチバチという音が耳を突く。尚も剣を振るう。アレンが受け止める。どちらも引かない。
「見事だ」
 アレンが剣を受けつつ言った。迷い、淀みが無い。ヒウロの剣。まさに稲妻のような清廉さだ。かつての勇者アレクの太刀筋、ヒウロの剣はそれを思わせた。
「だが、剣術だけでは我には勝てんっ」
 アレンがヒウロの剣を弾く。次いで、闇の闘気を放出させた。
「それは俺も分かってる……!」
 瞬間、ヒウロも闘気を放出させる。光の闘気だ。剣を突き上げる。
「む……!?」
 聖なる稲妻。ライデインを超える雷撃呪文。
「……小賢しいっ」
 アレンが剣を天に突き上げた。
「ジゴスパークッ」「ギガデインッ」
 轟音。鳴り響く。刹那、地獄の稲妻と光の稲妻がぶつかり合った。二つの対極する雷が、光を放出させつつせめぎ合う。
「ギ、ギガデイン……!? こ、この呪文は!」
 アレンが辛そうに片目を瞑った。頭痛だ。今までにない程の頭痛がアレンを襲っているのだ。それと同時に、心の奥底で何かが叫んでいる。救ってくれ。私を超えろ。そう叫んでいる。
「黙れぇっ」
 アレンが地獄の稲妻を押し込む。
「父さんっ」
 ヒウロも光の稲妻を押し込んだ。両者の稲妻が同時に消し飛ぶ。魔力の波動で風が吹き荒れた。
「な、何者だ。貴様は何者なんだ……!」
「……勇者アレクの子孫、ヒウロ」
 この言葉を聞いた瞬間、アレンは自身の身体がザワつくのを感じ取った。不快だ。アレンはそう思った。
 ヒウロがメイジ達に目をやる。全員、気を失っている。回復させなければ。次いで、自身の魔力を考えた。ギガデインを撃ち放った直後だが、余力はあるようだ。ライデインの時は一発撃っただけで気を失ったが、今回は違う。行ける。ヒウロはそう思った。
「……ヒウロさん」
 不意にヒウロの後ろから声が聞こえた。振り返る。
「エミリア姫」
 ヒウロが言った。関所内での兵の回復を終えたエミリアが、ヒウロらの心配をして後を追ってきたのだった。
「……これは」
 メイジらの姿を見たエミリアが声を漏らす。
「エミリア姫、メイジさん達の回復を頼めますか?」
「は、はい」
 エミリアが慌てて、メイジの傍に駆け寄った。
「この我を差し置いて、そんな勝手な事が出来るとでも」
 アレンが右手を突き出した。呪文の構えだ。次の瞬間、稲妻の剣が振りかかって来た。アレンが剣で受け止める。
「出来るさ。俺が居る」
 ヒウロだ。
「……貴様」

       

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