Neetel Inside 文芸新都
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 アレンとヒウロ。両者がぶつかり合う度、大気が震えた。二人の勇者アレクの子孫が、雌雄を決しようとしているのだ。
「メイジさん、大丈夫ですか?」
 エミリアが回復を終え、メイジに話しかけた。
「エ、エミリア姫……助かりました。ですが、これは?」
 ヒウロとアレンがぶつかり合っている。互いの剣、呪文が乱舞しているのだ。
「分かりません。私が来た時には、もう」
 エミリアが困惑している。
「……姫、オリアーとセシルの回復も頼みます」
「はい」
 エミリアが走る。
 メイジはヒウロとアレンのぶつかり合いを見ながら、一つの事を思い出していた。獣の森での、ファネルとの戦いである。あの時、ヒウロはファネルの手によって気を失った後に、一つの力に目覚めた。ライデインだ。これは、あの時の出来ごとの再来なのか。メイジはそう思った。
 ヒウロは自身の強さにコンプレックスを抱いていた。それは仲間であるメイジにも分かった。だが、ヒウロは決して弱くない。潜在的な力、それはこのパーティの中でも頭抜けているのだ。
 すると、メイジの神器が輝き出した。そして、メイジの頭の中で声が響く。
「勇者アレクの子孫に、神器を感じる」
 メイジがハッとした。神器。それはヒウロが手に入れ損ねた神器なのか、もしくはこのパーティの中に使い手が存在しなかった神器なのか。
「……ヒウロとアレン、どっちだ?」
「分からぬ。両方にその力を感じるのだ」
 両方。メイジにはよく意味が分からなかった。
「どういう事だ?」
「……とにかく、今は目の前の男を倒すべきだ。そして、選ばれし者よ。そなたは自身の力を一刻も早く開花させねばならぬ。魔族との決戦の時は近い」
 この言葉を最後に、神器の輝きが消えた。
「自身の力? 開花? まだ俺は、魔法使いとしての力を余らせているのか?」
 メイジは疑問に思った。それもそのはずである。すでにメイジは上等級呪文を習得しているのだ。それは魔法使いとしての完成を意味する。だが、メイジは神器の言葉に対して、安堵に似た気持ちを持っている事に気付いた。まだ強くなれる。現時点では、アレンに敵わなかった。だが、まだ伸び白があると言うのなら、アレンに、魔族に追いつけるかもしれない。追い越せるかもしれない。メイジは神器の言葉から、自身の可能性を見出したのだった。
「エミリア姫、ありがとう」
 セシルが立ち上がる。エミリアがパーティメンバーの回復を終わらせたのだ。
「ぬぅ……っ」
 アレンが呻いた。形勢逆転である。
「この我が、貴様ら人間如きにここまで手こずる事になろうとは……!」
「父さん、俺が、俺が父さんを救ってみせる」
 ヒウロが稲妻の剣を握り締めた。場に緊張が走る。
 次の瞬間だった。上空に、空に、何か映像のような物が映し出された。一体、何だ。ヒウロらとアレンが空を見上げる。
「よぉ、クズども。元気にしてるかぁ?」
 映像から声が響いた。一人の魔族が映っている。宙に浮いているようだ。金髪のツンツン頭。つり上がった細い目。そして、異様に痩せている身体。
「俺様はビエル。魔王、ディスカル様の側近の一人だ」
 ヒウロがハッとした。側近。ダールの片割れだ。
「そのビエル様が、なんでクズどもの世界にやってきたか。それが分かるクズは居るかなぁ?」
 ビエルがニタリと笑った。いや、目は笑っていない。
「国を一つ滅ぼすのさ」
 ヒウロ達に戦慄が走った。

       

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