Neetel Inside 文芸新都
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「ヒャハハハハッ」
 ビエルの甲高い笑い声が、映像越しでこだましていた。その背後で、大きなきのこ雲が天を貫いている。ファルス王国が消し飛んだのだ。
「……あいつ、あいつだけはッ」
 メイジが杖を握り締めた。全身が熱い。怒りで気が狂いそうだ。ファルスは魔人レオンの故郷だ。そして、メイジはレオンの後継者だった。だから、こんなにも怒りが沸いてくるのか。いや、違う。目の前であれ程の事をされたのだ。自身の正義が、人間としての自尊心が、怒りとして沸き出てきている。メイジはそう思った。
「クズどもぉ。俺様はこーんなに簡単に、国を滅ぼせるんだぜぇ? すげぇだろ? 怖いだろ?」
 ビエルが舌を出した。
「だからよぉ、これから次々と町やら城やらをぶっ壊しに行ってやるよ。ヒヒヒ! ヒャハハハッ」
 ビエルが顔をあげて笑った。それを見たヒウロが唇を噛む。グズグズしている暇は無い。早く、早く魔族を倒さなければ。でなければ、犠牲は増える一方だ。
「それとアレクの子孫ども」
 ビエルの言葉。ヒウロらが上空を強く睨みつける。
「とっとと魔界に来いよぉ。……いや、もうアレンにやられちまったか? アレンは強いからなぁ」
「……ちっ」
 アレンが舌打ちをした。ただの煽りにしか聞こえなかったのだ。
「アレクの子孫ども、お前らが魔界に来る日が遅くなれば遅くなるほど、人間どもが消し飛ぶ、と考えておけ。俺様は特に気が短いんだ。一分間隔で殺戮しちゃうかもねぇ~? んじゃ、待ってるよ~ん」
 ――映像が消えた。
「ふざけやがってッ」
 メイジが吐き捨てるように言った。目は闘志と怒りで満ち溢れている。オリアーやセシル、温厚なエミリアでさえ、怒りを顔に表していた。それ程の出来事だった。完全にナメている。ヒウロ達を、人間を。五人の心は燃え盛っていた。
「父さん……あなたはあの魔族を、ビエルを仲間として認めるのかッ」
 ヒウロが声をあげる。
「……奴は魔族の中でも異端だ」
「父さん……!」
「くどい。我は魔族であり、血を分けた者など一人もおらん」
 言いつつ、アレンが剣を鞘に収めた。ヒウロらが困惑する。
「興がそがれた。……ヒウロと言ったな、魔界で待っている」
 アレンが暗黒のゲートを開いた。魔界と人間界を繋ぐゲートだ。
「逃がすものかっ」
 メイジが魔力を溜める。両手だ。次の瞬間、メイジの両手が跳ね上げられた。爆発。アレンのイオだった。
「ちぃっ」
 メイジの舌打ちと同時に、アレンはゲートの中に入り、魔界へと姿を消した。
 風。荒野の砂が巻き上げられる。戦闘の形跡で、瓦礫の山がいくつも築き上げられていた。死闘。こう表現するにふさわしかった。だが、何を得たのか。そして、何を失ったのか。ヒウロらは言葉は発しなかった。しかし、その心は、すでに一つとなっていた。

       

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