Neetel Inside 文芸新都
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 ヒウロ達はラオール王の厚意により、宿屋に泊る事になった。そして、その日の夜。
「それじゃ、始めようか」
 ヒウロ達は宿のロビーに集まっていた。話し合いをするのだ。これからの事、全員の決意の確認、そして、エミリアの件。
 ロビーにはヒウロら以外に人は居なかった。すでに時間帯は深夜で、空では星達が輝いている。外からは人の話し声が聞こえていた。酒場からの声のようだ。ロビーには壁のロウソクが数本あるだけで、どこか薄暗い。
「……まずは、エミリア姫の件から」
 ヒウロが言った。エミリアはラオール王に向かって、魔界に行くと言っていた。これにはヒウロも驚いた。元々、エミリアはラオール王国を救う、という目的で、ヒウロ達に同行してきたのだ。そして、ラオールを救った後にルミナスへ戻る。これはルミナス王とも約束を交わした事でもあった。
「ラオール王に言った通りです。私もヒウロさん達と一緒に行きます」
「ですが、魔界ですよ」
 ヒウロが言う。メイジは目を瞑っていた。眉間にシワを寄せている。何か考え事をしているのか。オリアーとセシルは黙ったままだ。
「存じています。そして、覚悟も出来ています。それにメイジさんから聞いたのです。私の、私の力は、神器を扱うにふさわしい力であったかもしれない、と」
 ヒウロの眉が少し動いた。メイジの神器、神の杖・スペルエンペラーは、選ばれし者となる人間を二人としていた。負の力の持ち主と、正の力の持ち主の二人である。つまり、メイジとエミリアの二人だ。結果としてはメイジが選ばれたわけだが、もし状況が今と違っていれば、エミリアが選ばれていた可能性もあった。
「しかし、エミリア姫は王族です」
 ヒウロはこう言いつつも、本当はエミリアに来て欲しい。そう思っていた。魔界では、エミリアの治癒呪文が絶対に必要になるだろう。そして何より、エミリアの想いとヒウロ達の想いは一緒だった。
「私は王族である前に人間です」
 ヒウロが黙り込む。正論だった。
「……ヒウロ、エミリア姫がここまで言ってるんだ。旅に同行してもらおう」
 メイジが目を開けて言った。
「俺も止めようかと迷っていたが、やはりエミリア姫の力無しで魔族に勝てるとは思えない。それに何より、本人が俺達と一緒に行く事を望んでいる」
 メイジのこの言葉に、エミリアが強く頷いた。
「……分かりました。それじゃ、エミリア姫、よろしくお願いします」
 ヒウロが手を差し出した。握手である。
「えぇ、こちらこそ」
 エミリアが微笑み、ヒウロの手を握った。その顔をロウソクの火が照らす。
「あ、ヒウロさん、お願いがあります」
「? なんでしょう」
「これで私も皆さんのパーティの一員になれました。ですから、敬語をやめて頂きたいのです」
 ヒウロらが顔を見合わせた。エミリアの言い分も一理あるが、王族である。普通なら許される事では無かった。
「ま、まぁ、エミリア姫がそう言うのなら」
 ヒウロが言った。表情が硬い。
「姫、もやめて欲しいのです。エミリアと呼び捨てにしてください」
「は、はぁ」
 ヒウロが頭を掻いた。やりにくい。そう感じたのだ。
「あ、オリアーさんだけは構いませんよ。だって、普段から敬語ですものね」
 エミリアがクスクスと笑った。それを見たオリアーの顔が紅潮する。
「ちょっと。何、赤くなってんの」
 隣に座っているセシルが、オリアーを肘で小突いた。
「……オリアー、今の内に何とかしておいた方が良いぞ。今のままじゃ、結婚してからもカカア天下だ」
 メイジが二ヤけながら言う。
「ハハ、確かに。このままだと、セシルの尻に敷かれるのがオチだ」
 ヒウロのこの言葉に、メイジとエミリアがドッと吹き出した。オリアーとセシルは顔が真っ赤である。
 こんなに楽しい仲間に出会えた。そして、今まで旅を続ける事が出来た。ヒウロは、ふとそれを思った。その旅も、ついに終着点を迎えようとしている。魔族を、魔王を倒すのだ。そして、父のアレン。全ては明日だ。ヒウロはそんな決意を胸に、自らの心を奮い立たせていた。

       

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