Neetel Inside 文芸新都
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Vania
ケース1「青山哲也」歩いてく

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 彼女の両親に挨拶を済ませ、僕は再び車に乗り込むと自宅へ向かって走らせ、道中ずっと考えていた。写真を撮ると言う大まかな目標は決めていたが、具体的な部分は決まっていなかったことに気づいたのだ。
 残りの人生を有意義にするために、僕は昔の目標を再び追いかけることにした。したし、ただここで写真ばかり撮っていていいものなのだろうか。もっと日ごろできなかったような、今だからこそ撮れる写真は無いのだろうか。
「わかんねえや」
 僕は家に戻るとすぐにカメラをさげて、写真を撮りに出かけた。この日は感動が少ない、あまり「最高の一瞬」に出会えない。いや、そう簡単に出会えるものではないのであるが……
 などと考えていると、美術館の前に来た。普段はあまり関心の無い場所であるが、今日は写真展をやっているらしく参考ばかりに入ってみることにした。
 中に入ってみると、僕の望んでいた写真展ではなかったことがわかった。この写真家は、戦場カメラマンだったのだ。グレネード弾で五体バラバラになった兵士や、行き過ぎた拷問を受けて殺された兵士。ヘリコプターにも、地上からの弾丸が襲ってくる。そんな写真ばかりあった。酷いものだ。この人達になんの罪があったと言うのだ。この人達にも当たり前に家族がいて、恋人もいて、友人もいた。この人達も、生きていたかったのだ。そう考えると、目頭が熱くなった。
 そのような写真が続き、次に見えたのは子供の写真だった。こんな地獄の中にいるのに、彼らは笑っていた。銃を持って、ナイフを持って、過酷な戦場に赴く少年兵。親が戦死して天涯孤独の身になった難民の少女。そんな、僕では想像もできない世界にいる彼らも、こんな顔で笑えるのだ。明日の死を覚悟している少年とはとても思えない、美しい笑顔だった。「この笑顔を撮りたい」と僕は強く思った。
 たしか、高校の修学旅行で中国に行ったよな。そのパスポートがあるはずだ、難民キャンプへ行こう。また新しい目標を見つけ、昂揚していた。


 航空券はあっさり手配できた。しかし金額は40万円、飛行時間は26時間だと言うじゃないか。向こうに着いたら僕の寿命は1日も無いと言うことだ。しかしもうそんなことは言ってられない。時間が無いのは最初からだ。それをどう使うかは僕次第なのだから……


 次の日、僕は空港に立っていた。目の前には旅客機、荷物は朝一で秋葉原で買ってきたポラロイドカメラのみである。ここで終わるのではない。此処から始まるのだ。 
 そうこころの中でつぶやくと、僕は果てしなく長い一歩を踏み出した。


 もし天国で君に会えたなら、なにから話そう。
 
 
「はい。お疲れ様でした。えー、青山哲也さん。彼は『vania』をとても平凡に終わらせましたね。しかし、平凡とは案外良いものだと私は思いますが。
 残りの寿命は1週間。昔諦めていた、忘れていた夢を再び追いかける。そうする方が一番多いのではないのでしょうか。
 さて、次の方はどのような1週間を見せてくれるのでしょうか。
 あっ、私?私はただの都庁職員でございます。
 では次にあなたと出会わぬよう、願っております。」


ケース1「青山哲也」


 

       

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