「いらっしゃいませー!ってなんだ創ちゃんかー」
僕が喫茶店のドアを開けたとたん、マスターがそんな言葉を発してきた。
「なんだとはなんですか。コレでも立派な客ですよ」
毎度のやり取りをしながら、僕はいつものカウンター席へ座ると、
何かを作りながら「高校はどうだい?」とマスターは尋ねてきた。
マスター。本名は香取雄介。年齢は29歳だっけな。
放課後、この喫茶店に立ち寄るのが僕の日課になっていて、
中学校1年の時から、もう4年目に突入している。
「まー、いつもどおりですよ。特に変化もない日常って感じです」
「年寄りみたいなこといってんじゃないよー」
と、苦笑いしながらマスターは言った。
「ほい、いつものカフェ・ラテ」
頼んでもいないのに「いつもの」飲み物が目の前に置かれた。
前までは代金を請求されなかったのに、ある事柄以降は普通に請求される様になってしまったカフェ・ラテ。
「『いつもの』ありがとうございます」
そういいながら、カフェ・ラテを口につけ、ぼーっとしてると、
マスターが掌を向けて、右手を僕の前に出してきた。
「ほい、『いつもの』お仕事」
「また、ですか?最近多い気がするんですけど・・・・・」
「まー、そういうなって!俺よりお金稼げるんだからいいじゃないの!」
どうせ、スポンサーから儲けてるくせに・・・・・。
と言いたくなるのを押さえ、僕はマスターの右手に合わせるように左手を近づけ、
『ACCEPT』
と、頭の中で命令した。
その直後、僕の頭の中に情報が流れ込んでくる。
【海原香月、年齢17歳、私立海神高校3年、家族構成は、父親、海原文人、母親、海原恵子の3人家族】
【PS脳になったのは、5歳のとき。小学校へ入学するにあたり、必要を感じた両親によりインストール】
【PSへの適応率は高く、83%。適応率の高さのおかげか、成績は常に優秀。だが現在特定の彼氏なし】
・・・・・・相変わらず対象が女だと、彼氏の有無が情報についてくるのはマスターの趣味だ。
【『異変』が起こったのが3日前。学校での授業中倒れ、そのまま病院へ救急車にて搬送。現在も入院中】
【現在も、意識不明。医者曰く『過度適応』3%高い適応率が、脳へ負担をかけていると判断。他調査中】
「らしい」
と、最後は口でマスターが僕に告げ、手を下げた。
「で、症状は?」
「それがさ、まだ発症はしてないのよね」
「発症してないのに、仕事の依頼ですか?」
「んまー、念のためってところさ。俺は心配性だからねー」
「なら、僕の仕事かどうかはまだ判らないですね」
そういって、カフェ・ラテを飲み終え、席を立つ。
「ごちそうさまでしたー」
「ちょっと創ちゃん!代金!」
「さっきの共有のときに送ってますよ」
え?見たいな顔をするマスターをよそに、僕は店を後にした。