Neetel Inside ニートノベル
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最後のきらめきみたいなもの
最初

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 1

 午前二時、パソコンの前でぼーっとしていた私は、とりあえず泣いてみた。
 電源が入っていない黒いディスプレイから映し出される、少女の泣く姿、つまりは
私の泣く姿は私がディスプレイから見る「限り」ではそれなりに「絵」になっていた。

 しかし忘れてはならなかった。今にも机から落ちそうな不安定な学生鞄。
そこからひょっこりと首をだす黒い、うさぎのぬいぐるみが私に「それ」を思い出させる
。 
 「それ」はある日にとっては希望ないし楽しみであると思う。
 しかし「それ」を避けようとして幾人もの魂がこの世を去ったのは事実だ。

 マンデー……。



 学校が怖かった。



 2

 朝目が覚めて、目覚まし時計を見る。八時三十分であった。明らかにもう一限目には
間に合わない。しかし二限目には間に合うだろう。私はそそくさと支度をはじめ……
ようとしたが、いかんせん体が言うことを効かない。私の体は布団に留まる指令を出して
いる。
「体の指令に従わないのはナンセンスよね」
そうつぶやき、私は起こした上半身を再び寝かした。小麦色の毛布は柔らかくて気持ち良い。
 しかしその気持ちよさは長くは続かない。母親の罵声が聞こえてくる。
「早く起きなさい! 」
はーい、と私は生返事をする。その返事は私が今から大急ぎで準備をするというサインだった。

 ふと、充電器に差しっぱなしだった白い携帯電話を見る。新着メッセージは一件あり。
タイトルを見てみると、案の定メールは怪しいサイトからだった。昨日寝る前に間違えて
広告をクリックしてしまったのが原因かもしれない……。
 黒いうさぎのぬいぐるみが私を見ているような気がしたので、私は彼の頭をなでる。
なでられた彼はどこか嬉しそうにみえた。感情なんてないのに。
 
 ぬいぐるみの彼を椅子に寝かせたあと、私は布団をタンスへ上げた。
ひどく汗をかいた。そしてようやく四季の存在に気付く。
 
―――そうか、今日は夏休み前なのだな。

 夏休み前の登校だと思うと何だか楽になってきた。だからといって、学校に行く怖さが
変わるわけでもなかった。学校のことを思うと、なんだかお腹の調子が悪くなるような
気がしてきて、夜更かしのせいかお腹のあたりがなんだか熱い。
熱い、といっても熱を帯びているというよりはお腹の内側に炎症が起きているみたいだ。

 そして朝食の時間。少し焦げた食パンに薄くマーガリンを塗って食べる。
マーガリンの量は多すぎでも少なすぎてもいけない。いつもの適量がベスト。
飲み物には少し温めた牛乳。若干少なめ。冷たい牛乳を飲んではならない。
腹を下す確率が高いからだ。だから朝起きて口の中がカレーを食べ終えたときのように
からからになっていても、冷たい牛乳を飲んではならないのだ。
……まさしく今がそうだけど。

 すべての支度をいつもの二割増しの早さで終えたあと、お腹の調子を気にしながら
私は家を出た。いつもの自転車に乗りながら私はいつものようにぼんやりと考える。
今日の授業のこと、夏休みの予定、そして少し好きなあの人のこと、友人のこと。

 七月の日差しを受けた草木は生き生きと生い茂り、ごくたまに吹く生温い風に
草木は揺れていた。
 汗をぬぐって自転車をこいでいる私。その姿は想像するだけでもちっぽけで、愚かで
どこか幼げにみえた。

       

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