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新都社で人気作家になるための手引書
第七章「更新速度を保つために」NEW

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 お久しぶりです。もしくは初めまして。約13年ぶりの更新となります。前回の予告通り「更新速度を保つために」という文章を書いていきます。

 この13年の間に私的なことをいえば就職、結婚、子育て、離職、主夫、再就職、といったことがありました。創作活動でいえば、二人目の子どもがある程度大きくなるまではほとんど手をつけることが出来ませんでした。しかし子どもに少し手がかからなくなった頃、久しぶりに通い始めた図書館で、読書空白期間に発表された好きな作家の作品に触れることで創作意欲が復活し、ぼちぼち書き始めることが出来るようになりました。


 人はそれぞれ環境、置かれている立場、確保出来る時間が違いますので、「こうしてください」「こうするべきだ」といったことは私には書けません。それぞれにあったやり方を各人が模索しながら獲得してください。いくつかの例はあげますが、自分に合わない方法論を取り入れる必要はありません。


 更新速度を保つ=創作時間を確保する、ということでもあります。専業作家でない場合、安定した時間の確保は難しいものです。どうしても仕事が終わった後、夜中に作業するつもりが寝落ちしてしまった、という経験のある方も多いのではないでしょうか。


 いっそ早くに寝て朝に作業時間を持ってくる、というやり方があります。いわゆる「朝活」については様々なところで書かれているので興味のある方は調べてみてください。
 仕事の前に作業時間を持ってくるためには、就寝時間を早くしないといけません。私は過酷な前職時代に染み付いたショートスリーパー体質の影響か、約五時間半で勝手に目が覚めます。「六時間は寝ておかないと」と二度寝しがちです。夜10時から10時半頃に寝て、朝4時から6時頃に起床します。目覚まし時計はかけず、その日の疲労具合などで睡眠時間を調節しています。


 作業を夜にしてしまうと、どうしても睡眠時間を削って翌日のパフォーマンスに影響してしまいます。何かしらを完成させても、ライティングハイによるアドレナリンの分泌により頭が冴えてしまい、なかなか眠りにつけないこともあります。いろいろやるつもりが結局だらだらとスマホをいじってしまうこともあります。
 作業時間を朝にした場合、夜中なら2時間かけてしまったダラダラネットも、10分で済むことに気付いたりします。仮に寝過ごして早く起きれなかったとしても、たっぷり睡眠を取れたということで、心身にはプラス作用となります。


 起床から子どもたちが起きるまで。時間に区切りがあることで、活動できる内容は自然と限られてきます。夜ならば睡眠時間を犠牲にすることにより、まるで無限に思えた時間や可能性も、限りある時間の中では、できることの限度、自分の力量を把握しやすくなります。


 創作に当てられる時間も日によってはまちまちになるでしょう。この場合、「5分でも出来る作業」「ある程度まとまった時間が必要な作業」と、日によってタスク内容を変えれば、「今日は何も出来なかった」という後悔を避けられます。


「作業する態勢にはなったけど最初の一歩が踏み出せない」といったこともあります。仕事が定時で終わって早く帰れた、あるいは早起きしたのに結局だらだらしてしまった、など。かつて新都社でも小説を連載して現在は商業デビューもしたある方は、「とりあえず『うんこ』と打ってみる。すると『これはひどすぎる』というわけで、違う文章が出てくる」といったことを書いておられます。やる気スイッチ、スモールステップは各自で探してください。私の場合は「とりあえず人間椅子(日本のハードロックバンド)の曲を聴くか」だったりします。


 漫画にしろ小説にしろ、いきなり作品に取り組む必要もありません。とりあえずのメモで構いません。題名だけ思いついた話、ある一場面だけ浮かんだ話を記しておくのもいいです。
 私の場合「題名(仮)」「登場人物」「舞台」「起」「承」「転」「結」といった区切りをつけたフォーマットを作り、別に空白があってもいいからとりあえずメモしています。ある程度書く内容が定まっているものの地図としても使えます。一編書き上げてから「やっぱりボツだな」となった場合、時間と労力を浪費しますが、企画段階で判断すると無駄が省けます。編集者的視点も鍛えることも出来ます。以下、ボツネタの例です。


題名(仮):「人間椅子学園」
登場人物:江戸川乱歩好きの文学少年、人間椅子好きのメタル少女。
舞台:ねぷたのもんどり高校(人間椅子の楽曲「ねぷたのもんどりこ」から)。
起:少年と少女が出会う。
承:反発する、分かり合う。
転:その他の生徒との絡み。X JAPAN男子や筋肉少女帯女子など
結:文化祭でなんやかんや。


 形にならなかったアイデアも、一部はその後活かすことが出来るかもしれませんし、どうしようもないアイデアを埋葬する墓場としても機能しています。


 別に物語に限らず、何かの紹介記事だとか企画の案としても使えます。「起承転結」は文字通りの意味として捉えなくとも「1、2、3、4」といった流れのメモと考えても構いません。もちろん序破急、三幕構成など、人によって、ジャンルによって、いろいろ試してみても良いでしょう。自身のメモを見返すと「結」は空白のものが多いです。「起」「承」「転」までは構想しておき「後は流れで」という感じです。結末を先に考えておくと、そこに至るまでの作業的感覚になってやる気が持続しなくなるためです。


 ある程度創作時間を確保しても、目的がなくては持続しません。発表する場所があっても反応が薄ければ継続意欲も萎えてしまうでしょう。ですから、「更新速度を保つ」のに最も有効な環境は、原稿料と責任が発生する「プロになること」なのかもしれません。しかし仮にプロになったとしても、「プロであることを維持」するのはとても困難なことです。もちろん私はプロではないので、プロになる方法などを指南出来るはずもありません。現在一線級で活躍しているプロの方々までが「専業でやっていくのは難しい世の中になる」と悲鳴をあげています。プロを目指すにも兼業で考えた方が現実的でしょう。結局は「創作にあてられる時間をどう作るか」「限られた時間をいかに有効活用するか」「創作習慣をいかに持続するか」ということになります。


 創作関連のコミュニティに入り、与えられたお題で作品を作るのも一つの案です。自分一人で、自分の中から出てくるものだけで創作をしていると、なかなか新しいアイデアが湧いてこないものです。
 たとえば「自分の創作のベストは暗くて重いこの形だ」と思っていたとしても、周囲から見れば「この間書いてた、軽くて明るい作風の作品すごく良かったのに」ということがあったりします。どうしても、自分が触れてきた、好んできた作品の作風に引きずられがちですが、固執せずに幅を広げることで、自身も他人も満足できるものが書けるかもしれません。


 一つ注意事項を書いておきます。無事時間を確保し、毎日何かしらの創作活動を行えるようになったとしても、「毎日すること」自体を目的化しないように、ということです。毎日少しずつでも何かを積み重ねることはとても素晴らしいことですが、自身や家族の体調不良、親類の不幸など、どうしても活動できない日が出てきます。その際に「毎日継続」が目的化していた場合、一日途切れてしまったことでモチベーションが激減し、せっかく手に入れていた習慣を失うこともあります。やむにやまれぬ事情以外でも、単純に二度寝とか疲れとかで、機会を逸することもあるでしょう。その場合も自己嫌悪などには陥らず、休憩日と割り切って休めばいいのです。実作から離れても、自然と創作について考えてしまうと思います。そこでこれまで思いつかなかったアイデアや、違った方法論が浮かぶかもしれません。休憩を取ること、距離を置くことは決して悪いことではありません。


 過去作の整理などして自作を見直してみるのもいいでしょう。私自身、「15年前に書いた掌編小説の内容が思い出せない」というだけの内容の掌編小説で、小規模の私設コンテストですが賞をいただいたこともあります。これまで積み上げてきた物はそれだけで財産となります。

 以上のような方法論で、私は週一ペースで
・好きな曲についての掌編小説/エッセイ的な文章
・毎週のお題に沿った掌編小説/エッセイ
・ごく短い評伝集
・子どもとの遊びをテーマにした詩
 などを書き続けています。中には単発のつもりで書いたものがシリーズ化しているものもあります。賞への投稿などを考える人ならば、一日あるいは毎週少しずつ、長編を進めていくのもいいかもしれません。

 時間をどのように確保するか。どの時間帯に書くか。どのようなスタイルで書くか。どこに投稿するか。それは各自で判断して構築してください。ここでは「このようなスタイルもあるよ」と書くに留めておきます。

 ではこれまで書いたことをまとめておきます。

 

・人間椅子は2023年現在でバンド結成36年になる
・一度も解散することなく活動を続けている
・世界的なハードロック/ヘヴィメタルイベント「オズフェスト」に出演したのは2013年
・「無情のスキャット」で世界的にブレイクしたのは2019年
・2023年、23枚目のアルバム「色即是空」をリリース
・ギター/ボーカルの和嶋慎治氏は極貧時代を経験し、「ももいろクローバーZ」の楽曲へのギター演奏提供の話が来た時も、壁の薄いアパート住まいだったため、近所の公演の樹の下でギターの練習をしていた。

 以上、「人間椅子のように長く活動を続けるためには」でした。
 次回最終回「創作活動の未来」(内容もタイトルも予告なく変更になる場合があります)。

       

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