~~そして、北へ~~
ぼくは昔から、ちょっとうかつな方だった。
しかしまったく、本当に、今回はうかつだった。
ここは隠れ家だ。ひとがあまり来ないような場所である、それは間違いない。
リュストくんについてここを出るときに、しばらくもどらないということは伝えてあった。だからアンディたちがここにくることもほとんどない、それは確かだ。
しかし、いくら森の奥だって、歩いて一日かからずに人里に出られるような距離。誰か来ることがないなんてことはいえない。
じっさい、ぼくはアリスを“食って”しまったのだし。
でも、ぼくたちふたりのしたいことは一緒だった。
――死ぬこと。
ソウルイーターとしての宿命から逃れるため、この生をおわらせること。
今度こそ誰も巻き添えにせず確実に。
ぼくたちは、ご先祖さまたちのいった道をたどり旅立った。
北の果て。神の棲む禁足地へと。
その道すがら(ただ黙っているのもなんだし)ぼくたちは話をした。
アリスというその少女も、ぼくとおなじような道をたどってきていた。
『やっともう、誰かのイノチを奪ってしまって生き残るなんてことなくなって。
痛い思いや苦しい思いいっぱいして、やっといやなこと全部なくなると思ったのにあれでしょ。もうあんたのこと絞め殺そうかと思った』
「ごめん。うかつだったよ」
『……
もうっ! そんなに素直に謝られるとチカラぬけるじゃない。
さっさと行こっ。お互い変な気起こしちゃう前に』
「そうだね。それがいい。
死ななくちゃね。今度こそ」
そのためには、ハンパな場所で倒れるわけにはいかない。
そんなことしたらまた誰かを“食って”しまう。
ぼくたちは、身体の調子を慎重に見ながら、北へ、北へと向かった。
森を抜け、野を越え、山に入った。
幸い、この地は北の果てに比較的近い場所だ。
この山をこえれば、輝ける神の禁足地だ。
禁足地へ。禁足地までいけば、余人を巻き込むことはない。
領域を汚された神様はぼくたちを殺す。けど、他の人はいないし、もちろん神様なんか“食える”わけもないから、ぼくたちは死ぬことができる。
それだけを念じて、深い深い山の中、ぼくたちはひたすらに歩を進めた――