Neetel Inside ニートノベル
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~~相棒とマドンナ~~

 そのときどこからか声がした。
 それはなぜかロビンの声に聞こえた。ああ、ついにぼくは頭がおかしくなっちゃったのか。そうだ、こんなのヘンだもの。頭がおかしいんじゃなくちゃおかしい。
『おい落ち着けクレフ。俺もわけわかんないけど、とにかくお前が生きている、そのことは事実なんだから』
 ロビンの声が聞こえた。今度ははっきりと。しかもなんだかふつうにしゃべってる。
 ああ、人間の妄想力(?)ってすごいな。死んだヒトの言葉をこんなにはっきり聞けるなんて。でもだったらもういいや、きいてみよっと。
「きみはロビンなの? 一体どこから話してるの? なんでいきてるみたくハナシできるの? て言うか、死んでなかったの?」
『一個ずつきけ一個ずつ!!!』
 ぼくが四ついっぺんに質問すると、ロビンの声はぷちキレた。その様子はまさしくロビンだ。
「えっと……
 ひとつめはもうわかったからいいとして(おいなんだよそれとロビンはぶーたれた)、一体どこから話してるの? もしかしてカベ?」
 そう、ぼくがカベに頭をうちつけたとき、ロビンの声が聞こえたのだ。
 ということは、ロビンはカベになってしまったのか。
『いや、それは違うっぽい。なんていうかな、俺からはお前の手とか見えるし、さっきガンってやったアタマとか痛いし……多分だけど、お前のなか、なんだと思う』
「ぼくの、なか……」
 ぼくは壁にかかった鏡の前で大きく口を開けてみた。見えない。
『やると思ったわ。』
 ロビンは苦笑した。うん、これはやっぱりロビンだ。
 なんだか心強くなったぼくはとりあえずベッドに腰掛けて、ロビンとの話を進めることにした。
「うん、じゃあとりあえずどっか“なか”ってことにしといて、次いくね。」
『なんで生きてるみたく話できるのか、そもそも死んでなかったのか、か……。
 それは俺もわかんない。一番考えられるのは、死んでユウレイになって、お前に取り付いてるってトコかな』
「……ロビン。
 ぼくのこと、恨んでるの?」
『………………いや。
 今いっしょけんめ考えてみたけど、恨まなくちゃいけないコトないわ。
 お前みたいなおひとよし、恨み方わかんないし。
 ……自分は死んでもいいからなんて、恋敵のことたすけようとするなんてさ。
 いまお前の中にいるからわかる。お前マジに俺とリアナのこと応援しようとしてくれてた。俺を消せば、なんてことは微塵も考えてなんかいなかった』
「……うん」
『思えばあのとき、なんか奇妙な感覚がしたんだよな。
 お前に突き飛ばされて道端にとっこんでさ。そのときなんかショックとともにお前の方に引っ張られたような、そんな気がする』
 わからない。これはまったくわけわからない。
『まあ……。それはそのうち賢者様に聞いてみるか』
「そうだね。それじゃとりあえず、……」
 そのとき、窓の外から声がしてきた。
「リアナ、リアナ! しっかりおし!! ちょっと誰か、手伝っておくれ、リアナが!!」
 窓を開けるとすぐ真下、玄関先のポーチに、リアナのおばさんと、おばさんに抱き起こされてぐったりしているリアナの姿が見えた。
 リアナはぼくを気遣って追っかけてきてくれたのだ。それを悟ったぼくは、痛みも忘れてリアナをお医者様のうちへ運んだ。

 リアナはしばらくして意識を取り戻し、そのままうちへ帰っていった。
 しかしその晩、ぼくが彼女のご両親から聞かされたのは、こんな言葉だった。

「あの子は実は、もう長くないんだ。
 うまれつき、長くは生きられない身体で。おそらくもってあと数年。
 しかしだからこそ、残った日々はせめて愛するひとのそばで、しあわせに過ごさせてやりたいのだ。
 クレフ君。君を男と見込んで頼みがある。
 リアナを幸せにしてやってくれないか」
 真剣なお持ちでおじさんが言う。
 いつも陽気なおばさんも真剣そのものだ。
「ほんの数年間だけ、なんて酷なハナシだけれど……
 ほかにもう、あの子を託せるひとはいないんだよ。
 あの子はね、あんたとロビンを大好きだった。この村で一番こころがきれいなのはあんたたちふたりだって、よくいってたものだ。
 でもあの子は自分の体のことを知っていた。もし結婚なんかしようとすれば、ほんの短い間しかそばにいられずに、悲しい想いをさせるだけと、どちらにも恋をしないよう、キモチを閉じ込めていたんだよ。
 それを知ったロビンは、ならば自分からプロポーズをして、押し切ってでも結婚して、しばらくの間だけでもあの子を幸せにしてやろうとしてくれた。
 でもロビンは、神様に召されてしまった。
 クレフ。あたしからも頼むよ。リアナを、あんたの花嫁にしてあげて。一生のお願いだ」
 驚くぼくの口から飛び出した言葉は。
『はい!
 俺がかならずリアナを、幸せな花嫁にします!!』
 だった。


「どうして?!」
 気がつくとぼくは、ひとりうちの寝室に立っていた。
 記憶は微妙におぼろげだ。
 ぼくはご両親に思いっきり抱きつかれてありがとうと何度も言われていた。
 それからとりあえず時間も遅いし、明日、ロビンの指輪をとってきてプロポーズする、という段取りがばたばた決定し、で、うちにもどってきたというわけで。
「ぼく、なんで……」
 いや、それは確かに、ぼくもそういうことならそうしようとは思った。でもそれは、ご両親に抱きしめられながらのことで、つまりぼくは、自分で返事しようとする前に返事してしまっていたということで。
『ごめんクレフ。反射的に言っちまった』
「ロビンなの?!」
『だって俺、こんなんなっちまって、まさかリアナと結婚できるなんて思ってなかったし。だってのにこれだろ。ホントに瞬間反射でさ』
「……ロビンらしいや」
 ぼくはというと、なんだか笑いがこみ上げてきた。
「そうだ、こういうのどうだろう。
 今みたくしてさ。ロビンがリアナと結婚するんだよ。
 ぼくは、ぼくじゃなくてロビンが動かしてさ、まあ最低限ぼくっぽくしたりはしてさ。
 まあちょっとおかしくても頭打ったからってことにしとけば。」
『お前ときどきえっらい策士だな……
 でもいいのか? お前だってリアナをすきなんだろ。だってのに、自分の身体つかって他の男が……』
「いいんだよ。
 多分きみのことは、ぼくがミスって死なせてしまったんだ。死ぬはずのぼくのかわりにさ。
 それに、あしたリアナに渡す指輪は、きみががんばって買ったものだ。ぼくが横取りするなんてできないよ」
『クレフ……!』
 ぼくの両手が、いや、実質ロビンの両手が、ぎゅっとぼくを抱きしめた。
「ありがとう。一生恩に着る。今度生まれ変わったら、絶対絶対恩返しするからな」


 そうして、その翌日。
 ロビンはリアナにプロポーズした。
 リアナは可憐に頬を染めて、はい、とうなずいてくれた。


       

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