Neetel Inside 文芸新都
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「待ってくれよ、こんな話聞いてないよ!」
ランニングシャツの太った男が、スピーカーに向けてわめいた。
「なあ、『マネージャー』さん、話が違うぞ!簡単に短時間で金になる方法があるっていうからここに来たのに、こんなことやらされるなんてことは聞かされてないじゃないか!」
「うるせえよ」
 赤いメガネの中年男性が、ランニング男を黙らせるよう促した。
「『簡単』で、『短時間』で金が入るってことは間違ってないじゃねえか。そんな話だったら、大抵こんなことやらされるぐらいの覚悟しとけや」
「これ、殺し合いだよ!おれたちに鉄砲持たせて撃ち合いさせるだなんて法律違反だ!こんな部屋出てやる!」
「…静かにしなさい」
初老の、ジャージ姿の男が言った。
「勝てばいい。そうすれば『マネージャー』のいうとおり、1人1千万円もらえるんだろう?最初から負けを認めてどうすんだい?」
 それでも騒ぐランニング男に、赤メガネは強引に怒鳴りつけた。
「黙ってろ!」
水をうったように、その場に静寂がおとずれた。
「とりあえず、名前を名乗らないか、みんな。…まあ、実名は無理だろうから、あだ名だな」
初老の男が賛同した。
「そうだね、それがいい。あんたは『赤メガネ』でいいかね?」
「ああ、かまわんよ、『ジャージハゲ』」
派手な格好の若者が言った。
「呼びやすい名前をつけるか。ええと、お前は…」
そういって、青いYシャツの痩せた男を指さした。
「『青服』でいいか?」
指名された男は、無言でうなづいた。
『赤メガネ』が言った。
「お前はなんて呼ぼうか?『ハードロッカー』?『ツンツン頭』?」
「どっちも勘弁だ」
「呼びやすい名前をつけるって今、提案したのはお前じゃねえか」
「もうちょっとセンスのいい名前にしてくれよ」
「『ドクロ』でどうだね?」
『ジャージハゲ』が、若者の着ている黒いTシャツにプリントされたドクロマークを指して言った。
「ああ、そっちのがましだ。俺は『ドクロ』ね。はい、他の奴は?」
さっきからにやにやとしている黒いスーツの男を見やった。
「あんたは『金ネクタイ』か、『にやにやマン』だな」
男は答えた。
「前者を採用だ、ヒヒヒ」
『金ネクタイ』が歯をむき出して笑うと、前歯まで金色だった。『金ネクタイ』は、向かいに座っている7人で1番怯えている男を見た。
「なあ、まだゲーム始まったばっかだぜ、兄さん。まだ死ぬかどうかわかんねえんだし、シャキっとしねえか?あんたの名前は『おどおど君』か、『ユニクロ君』だな」
指名された男は、うつむいて拳銃をぎゅっと握りしめながら言った。
「僕は…なんでもいいです」
「じゃあ、『ユニクロ君』にしよう。そっちのが愛着がわく」
『赤メガネ』が、名前を与えられた男たちをざっと眺めた。
「ふむ、『ドクロ』『ジャージハゲ』『青服』『金ネクタイ』『ユニクロ君』そして俺が『赤メガネ』と。あとは…」
といいかけて、『赤メガネ』の目つきが細くなった。ランニング男が立ち上がり、銃口を向けていたのだ。
「お前らおかしいよ…異常だ…狂ってる…俺は生き延びたい…全員殺してやる!」
その手は震えていた。男は『赤メガネ』に向けて引き金をひいた。

カチッ。カチッ。カチッ。
その拳銃に銃弾は入ってなかった。

5発の銃弾が、ランニング男に向けて放たれた。5発の鉛を食らって、男は後方へふっとんで息絶えた。


『ランニングデブ』(仮名)ゲーム終了

       

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