Neetel Inside 文芸新都
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「なかなかたいしたもんじゃないか」
 『ジャージハゲ』が、トイレから帰ってきた『ユニクロ君』を褒め称えた。
「撃とうと思えば撃てたんだね、立派立派」
 『ユニクロ君』が『赤メガネ』から奪った石は、『ジャージハゲ』の予想通り、赤だった。テーブルの上に、赤い石と青い石がひとつずつ置かれ、残りは赤い石が3つ、青い石が2つ。
「今、トイレでへばってる彼が自分の石と違う色を持ってるから撃ったのか、感情逆立てられて撃ったのか、どっちだい、『ユニクロ君』?」
 『ユニクロ君』は何も言わず、『赤メガネ』から浴びた血を必死に拭いていた。
「いくら拭いたって、そのユニクロの服に染み込んだ血は消えねえぞ」
 『ドクロ』がからかうように言った。
「学校でもいたなぁ、こういう奴。普段はおとなしくて何考えてんだかわからなくて、いきなりキレて暴れる奴って」
「…別に暴れたわけじゃありません。引き金をひいただけです」
「優等生な答えだね、『ユニクロ君』」
 『ジャージハゲ』は、テーブル上の赤い石と青い石を見ながら言った。
「互角、ではないな。まだ青のほうが不利だ」
 『青服』が淡々とした口調で話し出した。
「あえて赤と青を同じ数にしなかったのは、『マネージャー』がゲームをスムーズに進めるために考えたんでしょう。赤と青が最初から同じであれば、互いにけん制しあって、遅々として進まないでしょう」
「優等生が二人もいるとはね、こんな死体臭い部屋に」
 『ジャージハゲ』は楽しそうに笑った。『金ネクタイ』とは似ているようで似てない笑顔で。
 時刻は7時を回っていた。『金ネクタイ』は、時計を見ながらにやにやとして言った。
「『マネージャー』に言わせりゃ、『皆さん順調にゲームが進んでますね、私も嬉しい限りです』ってところかなぁ、この部屋のどこかにある監視カメラを観ながら」
「『マネージャー』だけではないでしょう」
 『青服』は、『金ネクタイ』に言った。
「このゲーム、きっと『マネージャー』1人が考えたものではない。日常に退屈している大金持ちたちが私達のいるこの部屋をワインでも飲みながら鑑賞してるんでしょう。普通のサッカー中継見ているよりよほどおもしろいでしょうからね」
「あんた、まじめだなぁ」
 『金ネクタイ』は、明らかに自分より年下と思われる『青服』に、軽い尊敬のまなざしで見た。
「あんた、実はこのゲームに違う形で絡んでいそうだねぇ。『マネージャー』の放った刺客ってやつかい?」
 『金ネクタイ』は金歯を見せて笑った。『青服』はいたって冷静だった。
「いいえ、私もあなたや他の皆さんと同じく、賞金をいただくために参加してるだけですよ」
 妙に説得力のある口調に、『金ネクタイ』は初めてにやけた顔をくずした。
「しかし、おもしろいゲームだね、こいつは。参加者がこうして何気ない会話をしている中で、誰が何色の石を持ってるか、皆探ってるんだろ?俺は何色だと思う?なぁ『ドクロ』?」
「なんで俺に話ふってくるんだよ」
 『金ネクタイ』の指名に、『ドクロ』は少し不愉快そうに言った。
「お前がこの中で1番頭が悪そうだからさ。その気味悪い服装とばかみたいな髪型で充分にわかる」
「てめえこそ、その汚い金歯と臭い口臭から、頭の悪さがうかがえるぜ」
「ははは!お前もトイレで撃たれたいかい?」
「てめえが先に行けよ。ぶっ殺したあとでその顔に小便かけてやるからよ」
「…ちっとは口を慎めねえか?」
 『金ネクタイ』が、『ドクロ』に銃口を向けた。『ドクロ』も反射的に『金ネクタイ』のひたいに照準を合わせた。
「落ち着けよ、二人とも。お前ら、同じ色なのかもしれんのだぞ」
 『ジャージハゲ』の言葉にも、二人はひかなかった。
「てめえが拳銃先に下ろせ。そうすれば俺も照準をてめえの頭からてめえの股間へと変えてやるからよ」
 『ドクロ』の口調には、明らかな殺意が宿っていた。『金ネクタイ』は、それまでのにやけ顔がすっかり消えて、静かな怒りを浮かべていた。
「お前が先に銃口を下げろ。別に『ユニクロちゃん』みたいにトイレで襲撃はやめてやるからさぁ」
「…僕をばかにしてるんですか?」
 『ユニクロ君』が、拳銃を『金ネクタイ』に向けると、『ジャージハゲ』と『青服』が『ユニクロ君』へ銃口を向けた。
「うはっ!全員撃つ準備完了ってか!なんか、こんな場面昔映画でみたっけなぁ」
「てめえが俺に拳銃向けたのが発端だぞ?なぁ皆、同時にこいつ殺さないか?」
「『ドクロ』さんや、そいつが何色か判明したかい?」
 『ドクロ』の提案にたいして『ジャージハゲ』が質問した。
「この金ネクタイの金歯野郎が俺と同じ色か、別の色かなんてどうでもいい。『ユニクロ君』が『赤メガネ』にそうしたように、こいつをぶち殺したい、ただそれだけだ」
「殺して、自分と同じ色だったら後悔するぞ」
「そんなこと百も承知だ」
 『ドクロ』は『ジャージハゲ』の言い分も聞かず、『金ネクタイ』への敵意、殺意をむきだしにした。
「なんで、僕を巻き込もうとするんですか、『青服』さん、『ジャージハゲ』さん」
「『ユニクロ君』よ、きみも人のこといえないよ。『金ネクタイ』への銃口を下げろ。君は人殺しに向いてないな」
「『ジャージハゲ』さん、僕はすでに1人殺したんですよ。正直怖かった。けれどいざ撃ってみると大してなんとも感じなかったです」
「1人殺せば2人殺そうと3人殺そうとおんなじってか」
 『ドクロ』はそう言って、『金ネクタイ』に向けた拳銃をじかにひたいに当てた。
「さあ、俺もやっちゃおうかな。この『距離』からよけれるか?」
「お前のような若造に俺様がやられると思うのかよ、ガキが」
 『ジャージハゲ』が、緊迫感の張り詰めた状況をなんとかしようと、しばらく考えを練った末、『ユニクロ君』への銃口を下げた。
「俺は撃つのをやめた。お前らも一回拳銃をしまえ。テレビでも観ないか?」
「たしかに、こんな形でゲームが終わってしまっては、『マネージャー』としても不服でしょうね」
 『青服』もそれにならって拳銃をしまった。続いて『ユニクロ君』も。
「…ふん」
 『ドクロ』はようやく『金ネクタイ』へ当てていた拳銃をおろした。
「感情的に誰かを撃つのではなく、会話や心理戦によってゲームを進めるのが、この室内でおこなわれているゲームの醍醐味でしょう」
 まるで、以前にも経験したかのように『青服』が言うと、『金ネクタイ』も拳銃をしまった。
「さて、テレビでも、観るとしようか」
 『ジャージハゲ』が、テレビの電源を入れると、突然テレビが光って『ジャージハゲ』の身体を電流で焼き尽くした。

 『ジャージハゲ』 ゲーム終了

       

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