Neetel Inside 文芸新都
表紙

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 残された人物は3人。派手な格好と髪型をした『ドクロ』、青いYシャツの静かな男『青服』、『赤メガネ』の血を浴びたあとが消えないままの『ユニクロ君』。時刻は9時をまわっていた。
 室内には仰向けになって倒れた太った男の死体。焼け焦げて死んだ初老の男の死体。鹿の面をかぶって、うつぶせになって倒れた男の死体。そしてトイレには、どこを撃たれたかわからないが、ともかく命を失った体が倒れている。
「なあ、”石探し係”」
 『ドクロ』が『青服』に言った。
「鹿の顔した奴、何色だったか探ってくれねえか」
「いつのまに、私がそんな役目になったんですか?」
「だって、お前が今まで率先してやってきたじゃねえか。別に俺でもいいけどよ」
「…わかりました」
 『青服』は立ち上がって、『鹿男』の死体から、石を探った。そして、見つけた石をテーブルに置いた。

 赤だった。

「これで、赤がひとつ、青がふたつ。逆転してしまいましたね」 
「へっ、まるで他人事だな」
 『ドクロ』は『鹿男』の石を見て言った。
「お前もゲーム参加者だ。そしてゲームは終わってない」
「当然です。どちらか一色になるまでゲーム終了しないという『マネージャー』からの説明がありましたからね。…しかし赤の人は完全に不利になりましたね。3人のうち、2人から狙われるというのは完全に窮地に立たされたわけだから」
 1人、うつむいている男がいる。『ユニクロ君』だ。
「もう、やめませんか?」
 2人は『ユニクロ君』に振り返った。
「何をいまさらいってんだ?」
「それは認められませんね。参加した以上、最後まで続けるべきです」
「…そうか、そうですよね」
 そのとき、テレビが突然映った。『ジャージハゲ』を焼いた、『マネージャー』の罠と思われていたものが。テレビは芸のないタレントたちが、身の上で起こったどうでもいい出来事を楽しそうに語る、トークバラエティ番組を放送していた。
 3人は、観る気がしなかったが、退屈そうに画面に視線を向けた。あるタレントが自分の失敗談を語り、ゲストが笑っている。本気でおもしろいのか、テレビディレクターに笑うように指示されているかはわからなかった。
 バラエティ番組が1時間流れている間、3人とも無口だった。その番組が終わると、今度はニュース番組に変わった。国内で起こった殺人事件についてニュースキャスターが語っていた。
「10時、か」
 『ドクロ』は時計を見た。古ぼけた壁時計の針が10時過ぎを指していた。
「照明終わるまで、あと2時間」
 3人の中で、ある男が考えた。照明が消えるまで、なんとか時間つぶしをしよう、と。
「ああ、そうだ」
 『ドクロ』はテレビそっちのけで、『鹿男』の死体に近づいた。そして、彼の持っていた拳銃を手にした。
「ジャーン、2丁拳銃」
 慌てた様子で、『ユニクロ君』も、焼け焦げた『ジャージハゲ』のところへ近寄り、その拳銃を入手した。
「ふふふ、『ドクロ』さん。あなたの手にしたもうひとつの拳銃、あと3発しか弾がないですよ。でも、僕のは残り5つ入ってる」
「おまえ、バカか?人間なんて、一発頭か心臓に撃てばそれで終わりじゃねえか。銃弾の数なんて関係ねえ」
「あなたが真っ先に、拳銃を2つ持つことにしたんじゃないですか」
「バカ、あくまで、”保険”だ」
 『青服』は二人の会話を聞いたあと、トイレへ行った。そして十数秒で戻ってきた。
「早いな。糞じゃなく小便か。…それから」
 『ドクロ』は『青服』のポケットのふくらみを見て皮肉っぽく言った。
「『赤メガネ』の拳銃ね。これで全員、2つ拳銃を持ったってわけだな」
 そう言って、両手に持った拳銃を、『青服』と『ユニクロ君』に向けた。
「1番先に考えたのは俺だぜ、バンバンバン!」
 『青服』は相変わらず落ち着いたまま、『ユニクロ君』は、びくっとして思わず避けようとした。
「冗談はやめてくださいよ」
「冗談もくそもあるか。あと1人、赤を殺すか、それとも、赤が青二人を始末しなきゃ、ゲームは終わらないんだからな」
「…僕は、何でこんなことになってしまったんだろう」
 ユニクロ服の青年は、まじめな表情で語りだした。
「こうみえても、国内有数の名門大学に合格して、その大学へ通ってたんですよ。必死に勉強したかいあって、難関だった試験を突破した。学校へ通うようになってからも、順調に勉強を続け、一流企業の会社員を目指していた」
 ひとつため息をついて、彼は続けた。
「すべてはギャンブルが原因でした。スロットにはまったせいで、450万もの借金を背負ってしまった。勉強どころじゃなくなって受験のとき以上にバイトに精を尽くした。…でも、とても返せる額じゃなかった」
「こんなこといっちゃ悪いけどよ」
 と、『ドクロ』が話した。
「自業自得ってやつだろ、それってよ。自分の責任なのに、まるで誰かによって罠にはめられたようなこと言いやがってよ。それで、貧乏になってユニクロか」
「…はい、あなたの言うとおり自業自得ですね。…『ドクロ』さん、あなたはなぜここへ?」
「こう見えても、俺は社長だったんだよ」
 『ユニクロ君』『青服』とも、その言葉に耳を疑った。
「社長といっても、まあちっぽけな音楽スタジオの管理人さ。プロを目指す自称ミュージシャンどもに、スタジオを貸してたんだよ。最初はそれなりに稼げたが、どいつもこいつも、自分に才能にないってことに気づいたんだな。客は次第に減り、会社は倒産、俺には700万の負債が残った」
「なるほど、あなたの格好はそのときの名残りということでしょうか」
「まあ、そんなとこだよ。それで、お前がここにいる理由はなんだ、『青服』さんよ」
 『青服』は、そっけなく言った。
「私に借金はありません。まじめにこつこつ働いて、普通の生活ができる程度の金を稼ぐよりも、ほんの6時間で1000万円もらえるって話にのっただけです」
「なるほどね、それでこの殺人ゲームに参加か。お前の命は1000万円の価値があるんだな?」
「そう捉えてもらってもかまいません」
 テレビはいつのまにかニュース番組が終わり、またうそ臭い笑い声ばかりの深夜のバラエティ番組に変わった。若手芸人を、先輩芸人がからかって楽しんでいる。時刻は11時。
「あと、1時間」
 『ドクロ』にとって、あるいはその場の全員にとって、テレビは観るためでなく、時刻を知らせるためだけに放送されていた。時計は一刻一刻、時を刻んでいる。いつの間にか、それまでの緊張感が消え、3人はぼんやりとテレビを観ていた。
 ゲームを進めるのが怖いためか、あるいは時間が過ぎるのを狙っているのか。
「テレビっていつのまに、こんなくだらないものになっちゃったんだろうな。このくらいの時間なら、昔はエロい番組がばんばん放送してたのにな」
「下品な番組は淘汰されて当然です」
「今やってる、この番組は上品だってのか?」
 『青服』は、珍しくわずかに動揺をみせた。たいして思考の回らないと思っていた男から意外な発言を受けたためか。
 時刻は11時半を過ぎた。3人とも無言だった。さらに10分経過。20分経過。時計の針はあと10分で12時を指そうとしている。
「さあて、と」
 『ドクロ』は立ち上がった。そして、右手の拳銃を『ユニクロ君』へ、左手の拳銃を『青服』へ向けた。それに呼応するかのように、残りの二人も、生き残っている男たちへ拳銃を差し向けた。
「かっこいいトライアングルができたな」
 まるで他人事のように『ドクロ』が言った。午前0時まで、あと4分。
「さあ、終わるか」
「これで終わりだ!」
「死にたくない!」

2発の銃声が室内に響き渡った。

       

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