Neetel Inside 文芸新都
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私とお酒の日々
2010/07/25/8:57(日)「寝ている彼」

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 おはようございます。
 千世子です。
 
 
 昨日は山崎くんが私の家に遊びに来ました。
 山崎くんは今、寝ています。私はついさっき起きて、こうしてブログを書いています。
 
 2人で、一夜を過ごしたわけですが……はぁ。
 
 ……昨日のこと、聞いてください。
 
 
 
 前に山崎くんの家にお呼ばれしたので、今週は私の家に誘いました。
 以前、付き合ってから向こう3ヶ月は家に入れないと書いていましたが、礼儀的なことを考えて、この自分ルールは除外してもいいかなーという結論に至りました。……考えを曲げることは今に始まったことではないので、気にしないでください。
 
 平日のうちに食材やお酒を少しずつ買い揃え、保存できるものはあらかじめ作っておきました。金曜日には、念のためっ、歯ブラシと家族計画も購入しました。
 そして当日、駅まで迎えに行く3時間前。ここから招待の準備が始まります。
 
 準備できるものはあらかじめやっておいて。
 冷やしておいしいお酒は冷やしておく。
 お部屋を片付けて、来客用に模様替えをして。
「今日はちょっと違う?」と思わせるような服を選んで。
 念のためっ、勝負下着を選別。
 
 あれこれしているうちに3時間はあっという間に過ぎて、駅まで迎えに行きました。
 
「ごめんね、待った?」
「いえ、大丈夫ですよ」
 
 山崎くんは時間にタイトなので、何かと私があとに到着することが多いのです。
 私の見知ったところを紹介しつつ、徐々に私の家に近づいていきます。もう、心臓はどっきどきでした。
 
 家に着いて、まだ晩ご飯には早い時間だったので、ぽつぽつとおしゃべりをしました。恥ずかしい話ですが、先週から抵抗がなくなったのか、隣に座ってずっとくっついていました。
 勝手知ったる自分の部屋だったので、気持ちが開放的になっていたのかもしれませんね。
 
 ちょうど良い時間になり、私はちょっと気合を入れてエプロンを着けました。さて、『居酒屋ちよこ』の開店ですっ。
 
「まずはこれねー」
 
 まずは瓶ビールと鴨ロースの薄切り。この鴨ロースこそ真空パック詰めのものですが、たまねぎおろし(大根おろしの代わりに玉ねぎを擦ったものです)とだし醤油を合わせた千世子流おつまみの1つです。
 嫌がる山崎くんを押しのけお酌をして、準備万端っ。
 
「では、かんぱーい」
「かんぱいー」
 
 ごくごくごく、ぱくりっ。
 
「ん~、この味わいっ」
 
 自分で作ったものにこれほど満足を感じられるというのは、すごく幸せなことかもしれませんね。
 
 次は吟醸酒の冷やとせせり七味(せせりを塩焼きして黒七味をまぶしたもの)。山崎くんは基本はビールですが、好き嫌いはないそうです。
 
「じゃ、かんぱーい」
「かんぱい」
 
 きゅぴっ。はむっ。
 
「んん、きくぅ」
 
 せせりのジューシーさと黒七味のぴりりとした味、吟醸酒の細やかなのどごし。ぴったりすぎて困っちゃいますっ。
 
 いよいよメイン料理……ですが、まだご飯が炊けていなかったので、焼酎と卵焼き(しょうがと醤油でいただきます)で場を繋ぎます。
 
「3回目だけど、かんぱーい」
「かんぱぃ」
 
 こく、ぱく。
 
「……くぅ」
 
 ほっくりした卵焼きとしょうが。このパンチの効いたものには焼酎が最適です。
 
「最近、忙しすぎない?」
 
 弾んでいた会話が途切れたとき、程良いタイミングと思ってずっと訊きたかったことを訊きました。
 私は最近と言いましたが、最近のことではありません。ずっとずっと、付き合い始めたころから忙しくしているような印象がありました。
 
「そうでもないですよ。案外、余裕ですよ」
「でも、休みの日まで仕事とかしてるし……」
 
 研修出張とかもしています。
 健康面も心配ですが、物理的な距離が離れると、すごく、すごくすごく不安になります。
 ずっと近くにいてほしいのですが、下手にお願いすると、それは単なるワガママです。相手を困らせてまで通したいことでもありません。
 ……でも。
 
「隣に、座っていい?」
 
 不安を埋めるために、距離を縮めました。
 
「手、繋いでいい?」
 
 相手のぬくもりを感じたくて、肌に触れました。
 
「くっついて、いい?」
 
 彼の体がすっごく温かくって、ずっとくっついていたいなぁと思いましたが、まだ晩ご飯中でした。しばらくして台所へ戻りました。
 メイン料理は野菜たくさん甘口カレーですっ。山崎くんにそれとなく好物を訊いたら『辛くないカレー』だったのです。このカレーの良いところは、ビールでもハイボールでも合うということ。私たちにぴったりなカレーですっ。
 
「それじゃ、いただきまーす」
「いただきます」
 
 さすがに乾杯はしませんでした(汗)。
 
 
 
 晩ご飯も終わり、片づけもして。ちびちび呑みながらテレビを見ているとき、でした。
 
 小さく深呼吸をして、今からのこと、これからのことを、自分なりにいろいろ、たくさん考えて、一言、つぶやきました。
 
「今日、ずっといっしょにいたいな」
 
 許可と共に、私のお願いでもありました。
 それが、お互いの理性を崩す言葉だったのかもしれません。彼の腕の中に飛び込んで、力いっぱい抱きつき、ぎゅっと抱き合って、どちらからともなく目を閉じ、キスをして……一度したあとは、貪るように唇を奪い合って……
 優しく寝かされて、私は彼の忙しなく動く手に触れられ、何度も体を震わせました。
 
 さて、本題はここからです。
 
 服に手がかかったところで止めてもらい、シャワーを浴びに行きました(さすがに別々です)。……まあ、熱くなりすぎた頭を冷やすにもいいタイミングでした。
 手早く、けれど丁寧にシャワーを浴びて、選別しておいた勝負下着を履いて、パジャマ(これもちょっと勝負パジャマでした)を着て、戻ったら……
 
 
 山崎くん、寝ていました。
 
 
 しかも、酔いつぶれ系の、深い深い、眠りでした。
 ええ、たしかに結構お酒の勧めていましたね。ひさしぶりに、他人の限界を考えていませんでした。
 
 さすがにテンション下がりっぱなしでした。予備の布団をひいて、転がして(蹴飛ばして)運びました。
 そして私は、高まった気分のまま、眠りについたのです。当然、しっかりと眠れなくて寝不足です。……思い出し怒りしてきました。
 
 
 
 ……まだ山崎くんが起きません。
 たしかに、一夜を共にしました。いっしょにいれました。
 
 これは、怒ってもいいところですよねっ……?
 

       

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