Neetel Inside ニートノベル
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三十女とアホガキ共
三十女とアホガキ共

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昨日飲みすぎたせいか、今、とても頭が痛い。
目は覚めているけれど、体を起こしたくない。

だったらいっその事このまま昼まで寝てしまおう。
そうしたら頭痛もましになっているだろう、

私はそう考えると、もう一度目を閉じた。おやすみ、おやすみなさい…


…しかし、いきなり耳鳴りがするほどの、大きい音量でチャイムが鳴った。
ピンポーン、ピンポンピンポーン、と。


「…あぁ…」


五月蝿い、誰だ、私の睡眠を妨害するのは。






三十女とアホガキ共





若林忍、三十歳。一応女の体をしている。
職業は売れない小説家。いや、もうフリーターと言ってもいいかもしれない。

黒髪は鎖骨を過ぎると、毛先が分かれるようにボサボサになっていて、
目の下にはクマ。服装はほとんどスウェットかジャージ。
彼氏なんていない。結婚もしていないし、しようとも思わない。

勝ち組負け組みで考えると、私は負け組みなんだろうけれど、これはこれで良いと、割り切っている。



「…どちらさま?」


ガンガンと響く頭を押さえながら、広くない廊下を歩く。
私が住んでいるアパートは、家賃は安いけれど少し古い。まぁ汚くないから良いのだけれど。
上京したての頃は、綺麗なアパートしか住みたくないとか思っていたけれど、
実際小説家として上手くいけてないのだから、こんなアパートにしか住めないのだ。

まぁこれはこれで住みやすい、と割り切っている。


「…あぁ…大家さん」


ガチャ、と薄い扉を開けると、初老のおばさん…失礼、大家のおばさんがちょこんと立っていた。
大阪出身らしく、話のスピードがとても早くて、正直少し苦手だ。
私が独身である事を知っているから、作りすぎた煮物をおすそ分けしてくれるのは、とてもありがたいけれど。

しかし、こんな昼前に大家さんが何の用なのだろう。
手元を見ても、回覧板は持っていない。


「…何か、用ですか?…家賃ならちゃんと…」

「家賃ちゃうちゃう、ちょっと話があってきたんやけど」

「…はぁ…」

「上がらせてもらってええかな?」


ええかな?と言いながらもう足は玄関の中へ入っている。
私は断ることが出来ないまま、大家さんの部屋の中へ通した。…昨日部屋の掃除して良かったと心底思う。

そして私はテーブルにお茶を置き、座布団を敷いた。
お気遣い無くー、と大家さんは言っているけれど、本当は気遣いされて仕方ないんだろう、大阪人だから。

お茶は一昨日買った緑茶をコップに注ぎ込む。
お茶請けは何にも無かったから、用意は出来なかった。


「…で、話ってなんですか?」


自分の分のお茶を一口飲んで、大家さんを見る。
大家さんは座布団の上で正座しながら、ニコニコと笑っていた。
それがなぁー、ちょっと大変なことになってなぁーと、語尾を伸ばしながら、
ゆっくりゆっくり話し出す。

「…んー…若林さんに、ちょっと頼みたいねん」

「何をですか」

「来週からなぁ…このアパート、近くの私立高校の学生寮になるねんけどー…」

「あぁ、はぁ…そうなんですか……」


うつむき、もう一度お茶を飲んだ。
冷たい緑茶が喉を通っていく。そして頭の中で、もう一度大家さんの話をリピートしてみた。
すると、結構、いや、相当…驚きの内容が……学生寮…?え?来月から…?


「はぁ!?学生寮!?」

「そう!学生寮!」


大家さんは両手を突き上げて、ニカッと笑う。
歳のわりに少ないシワが引き上がり、口の中の銀歯がギラリと光った。


「きっ、聞いてませんよ!来週とか、引っ越すお金無いですし!」

「まぁまぁ落ち着き」

「落ち着いてられますか!ああもうどうすればいいですか!学生寮とか私住めないじゃないですか」


落ち着きって!と大家さんに腕を引っ張られ、無理矢理座り込む格好になってしまった。
頭の中はまだパニック中。脳が騒いでる。
話はそれだけじゃない、という大家さんの声が遠くに聞こえた。

だって、ただでさえ職業が安定していないのに、住む所まで無くなったら、
この歳で!女なのに!ホームレス決定じゃないか!
ホームレス小説家?話題になるかそんなもん!

実家に帰ろうか、両親になんて言えばいいのか、そんな事を考えていると、
大家さんのズズッとお茶を飲む音が聞こえた。
カンッ、と乱暴にコップを置くと、大家さんは私に向かって、低くてしゃがれた声で言った。


「学生寮の管理人になってくれれば、このアパートから出て行かんでいいねんで」

「…か、管理人?」

「そう、管理人。してくれる?他に頼む人見つからんくて…」



頭の中で考えた。
小説のあらすじを考える時よりも真剣に考えた。

このまま管理人をしないと、私はアパートを出て行かなくてはならない。
新しいアパートに引越しする資金は無い。イコール、ホームレス。
しかし、管理人をすると、私の嫌いなガキ共の世話をしなくてはならない。


住む所を取るか、ガキから逃げてホームレスになるか…


……




「住む所とるだろそりゃあ…!ねぇ…大家さん…!」



立ち上がって頭を抱える、頭を振る。黒髪が何本か口の中に入る。
私が普段使わない言動をしたせいか、大家さんはポカンと口を開いていた。
銀歯がまたチラリと見える。










       

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