Neetel Inside ニートノベル
表紙

〜あなひだ・わたみぎ〜
Phase 2

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INSIDE(2)

『属性つきノベルジャンキーたちは明日を夢見ることができるか?』
 Act2. やっつけ仕事とガールズトーク


~アキラの場合~

 俺はいつもどおりに、ノートパソコンを開いた。
 そして、昼間練り上げておいた文章を打ち込んだ。
 投稿する。コメチェック。今日は来ていない。
 だが今は前ほどがっくりしない。俺にはまだMI/KAの小説がある。
 タイトルは『サスペンド・エンド』――はたして今日の分もアップされていた。
 ちょっと短い気がするが、読めた時点でほぼ満足した。
 人間いろいろと事情があるものだ。MI/KAもたまたま忙しかっただけかもしれない。
 明日はきっといつもの量に戻るだろう。それを期待して俺は、パソを閉じることにした。
 昨日割れていた親指の爪(だけ)は、割れた部分にあわせて短く切ってあった。
“姉さん”のヤツ、やっつけ仕事しやがって(笑)
 まあ、俺は男だし、人前に出ることもこの先ないだろう。
 だから気にすることもない。
 指は動けばそれでいいのだ――小説を書けて読めれば、それだけで。



~実加の場合 <火曜日>~

 翌日会社で最初にしたことは、右手親指の爪を切ることだった。
 シーツに爪が引っかかり、電車の中では文章打って、もう本格的に割れてしまったからだ。
(ネイルを塗ってくれた、同僚兼友人のヒナにはぶーぶー言われたが)補修するのもめんどうだ。わたしはその部分を短く切ることにした。
 他もあわせて切ろうかと思ったが、時間と労力がもったいないし、子供っぽくなるのでやめた。
 わたしは手が小さい。だから、爪をちょっとだけ長めにしてバランスを補ってるのだ。
 まあ、むなしい抵抗といえばむなしい抵抗だけれど。

 その日のランチタイムにヒナはこんなことを言ってきた。
「ていうかさー、ミカ最近やっつけ仕事おおくない?
 いや仕事じゃなくて自分のこと。
 ニュースとか見てる? 美容室ちゃんと行った?」
「………いや」
「もー、ニュースぐらい見れっていつも言ってんじゃん。オトナのオンナとしての自覚が足りんぞ!」
「……や、だって……
 なんでもないごめん」
「ほらまたやっつけ仕事。
 ちゃんと理由あるんでしょ? いってみそ?」
「言ったらヒナのお説教が三倍になるから……」
「…………!! まさか!!
 テレビも見れないほど熱い夜のせーかつを送ってるとかっっっ」
「え゛」
 自分で言って真っ赤になるヒナ。
「だっ、だめよ! い、いくら愛し合ってても、最低限おとなとしてのルールはあるんだからっ。そんな、すべてを捨ててあんなことこんなこと……もーミカったらあダメよキャー」
「キャーはわたしだ!!!!」
 くそ恥ずかしい、場をわきまえろ。一応ここ(=会社そばのイタリアンレストラン)は公共の場だぞ。
「で、で。相手はどんなヒトなの?!」
「いっとくけどゴカイだから。
 そういうオトコとかいないし」「じゃあやっぱり女の子っ」
 ヒナめ、ものごっつうれしそーに顔に手を当ててとんでもない方向に走りやがった。
「そのやっぱりってのは何なのやっぱりってのは!!
 そういう相手は男も女もニューハーフも含めていっさいないから!!」
「ちぇー。じゃあ何よう」
「…………説教したらちゃぶ台ひっくりかえすからね。
 小説書いてるの」
「! ! ! !」

 もともとその投稿小説サイト――『MeetNovel』を紹介してくれたのはヒナだった。
 学生時代からちまちま小説を書いてた、でも賞に応募なんかとってもできなかったわたしに、こんなんあるよと発表の場を教えてくれたのだ。
 もっともヒナはしばらくして飽きたらしく、その話題も出なくなったが。
「ほ、ほんとに?! いまも続けてんだ、投稿……」
 ヒナはわたしを驚きの目で見た。
「ていうかもう一年くらいなるでしょ。そんなにハマってんの?
 まさかそのツメも……!
 すごいわミカ。きなこダイエット三日続かなかったミカが……ペン習字も途中で投げたミカが……姉さん本当に驚いたわ!」
「誰が姉さんじゃい!」
「で、ファンとかついたのやっぱ?」
「いやぜんぜん」
「ぐはっ」
「コメとか、それは最初に比べてちょっとはもらえるようになったけどさ……多分固定客さんていないんじゃないかな。わたしに似ててわたしよりぜんぜん面白いひとがいるんだもん」
「だれそれ?」
「アキラってひと。
 もうなんていうか……緻密でさ。わたしのぶっこみケータイ小説なんかと全然ちがくて。
 コメ数は今んとこおなじくらいだけど明らかにわかるよ。あの人のがゼッタイうまい。
 なんかもう、ニュースとか見てる気分じゃなくなってさ………」
 なんだか、また苦しいものがこみ上げてきた。
「うらやましくて……自分がミジメで……もう、苦しく、て……」
 と、やわらかいものが目元を覆った。
「動かないでね。ハンカチ当ててるから。このまましてればメイクそんな崩れないから、好きなだけ泣いちゃいな。ね」
 いつのまにかヒナが、優しくわたしを抱きしめてる。
 けれどそんなことさせちゃだめだ。だってムダだから。
「いい、そんなの」
「よくないよ。友達じゃん」
「ちがう、そうじゃない。
 わたし今日リップ以外メイクしてないから」
「でえええ!!!!」

 かくしてヒナのお説教は四倍になった。

 けれど最後にヒナはこういってくれた。
「ねえ、今度一緒に飲もう?
 どっか行くのがヤならさ、あたしがミカんち行く。ご飯とお酒用意してさ、小説読んでる間はジャマしないからさ、そのあと愚痴って飲み明かそ。
 ミカ、このままひとりでいちゃダメだよ。そんな気がする」
「ヒナ…………」
 これが男と女なら、まるっきりプロポーズだよ。そんなことを心の片隅で思いつつ、心のほとんどは親友の優しさがうれしくて、感謝感激でいっぱいだった。
「ありがと。それじゃ今週の金曜とかどう?」
「もち! DVDとかももってくよん。PS2まだうっぱらってないでしょ」
「うん。まだ動くから大丈夫」
「あ、ひとつお願い。
 ――食べるとこと寝るとこの掃除はしといてよ。
 まあゴミ屋敷特集は大っ嫌いなミカのことだから大丈夫とは思うけど」
「はいはい」
 その点は大丈夫。ちゃんと週に一度は掃除機かけてるし布団も干してる。
 基本怠惰なわたしだが、カビとゴミ屋敷だけはゼッタイゼッタイ嫌だから。

 そんなわけで少しだけ気分が持ち直したわたしだが、肝心の小説のことについては何一つ変わらないのだ。
 電車に乗ってケータイを開いてからわたしは、そのことに気がついた。
 気分が一気に落ち込んで、なんだかいつもより筆が進まない。
 やっとのことで投稿すると、わたしはよろよろと電車を降りた。
 そうして、落ち込むのはわかってるくせに、休みもせずにウチへとむかった。


     

OUTSIDE(2)

***アキノ:@自宅パソ前 なう***

 ヒカリとの連絡用掲示板に書き込まれていた文章は相当の量だった。
 少し多いかとも思ったが、まあ許容範囲内だろう。
 というか、けずってしまうのが惜しく思われた。
 こいつら、こんな風に会話していたのか――
(いや、脚色はあるのだろうが)
 今回分にすこし問題があるとすれば、やや分量の差が大きいことだ。
 俺のほうの分量を増やしてあわせることも考えたが、そうするとあきらかに多すぎだ。
 それにかえって不自然になりそうだ。
 俺は自分で言うのもなんだが、基本無愛想無関心キャラだ。俺の分身であるアキラも、ならばそうでなければならない。不必要に文章量は増やせない。
 まあ、俺自身のキャパ(持ち時間)の少ないことも、要因であることは否めないのだが。

 とりあえず、採用報告だ。俺は隠しチャットにログインした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アキノ がログインしました。


ピカりん☆: まってたよん♪ どないですかダンナ?

アキノ: 今回もまんま採用。すげー量だな。マジ乙

ピカりん☆: マジですか?! やったー☆

アキノ: ただ、次回は2ターンだから、分量気をつけてくれ
お前ならやれると思うけど

ピカりん☆: おまかせおまかせ♪
ああもーアキノちゃんがそんなにホメるからピカまた小説かこっかなーとか血迷いそう♪

アキノ: 俺に見せるならガチは勘弁

ピカりん☆: うんv もちろんおにーさんがやさしくてほどき(ry

アキノ: ここで書くな(泣)!!!

ピカりん☆: はいはい(笑)

アキノ: つわけで投稿してくるわ

ピカりん☆: 乙ー♪


 アキノ がログアウトしました。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 昨日同様、さくさくと手順を踏んで投稿を終える。
 さっそくもらえたコメ(もしかして合作ですか? という指摘もあった。鋭い。ノーコメントとさせていただきますごめんなさいと答えたが……)へのレスをアップ。
 そして急いで、ミサキの作品を読みに行った。
(一応恋人の欲目をさしひいても)ミサキの変化は明らかだった。
 まったく、ひとりファンがついたというだけで、これほどに変わるものなのか。
 ミサキの筆のすべりはとどまることを知らない。そのせいか、コメ数も順調に伸びている。
 まあ、俺が入れてるからもあるんだけど……
 俺はのろけにならないように気をつけてコメを入れた。
 そしてすかさずミサキとの会話用掲示板へ。
 俺は“ほとんど一日全身不随”の身の上なので、話せることなんかほとんどない。
 それでも、いま順調らしいミサキのうれしそうな言葉を読むと、素直に嬉しくてよかったな、よかったなと馬鹿律儀にレスしてしまう。
 こんな時間がいつまでも続けばいい。でも、それはかなわないことを俺はもう知っている。
 ここにはまだ書かれていないが、ミサキは俺と直接会うことを、泣きたいほどに望んでいるのだから。

 ――そろそろ、ミサキも気づくかもしれない。この物語が何を暗示しているのかを。
 そして、詰めてくるかもしれない。
 そうしたら俺はなんと答えよう。
 とりあえず最後まで読んでくれ。そう言おう。他に選択の余地はない。
 振り切るように俺は、次回分の執筆に取り掛かった。


       

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Neetsha