Neetel Inside 文芸新都
表紙

万物一空
炉火純青

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 「私立海が見える丘高等学校」と言う、学校名に動詞が入っているという珍しい学校がある。 
 数年前に設立したばかりで校舎も新しく、清潔で近代的、そしてやや高貴な印象を周囲に与えていた。
 そして生徒会に所属している月上 美人(つきがみ みと)は、そんな学校の象徴のような存在と言えよう。
 その名に負けない端整な顔立ち、すらりと長い背と絹のように柔らかい長髪。
 時折見せる物鬱気な表情は見た者の心を掬う程の、芸術の域まで達していた。
 勤勉で礼儀正しく、自分に妥協しない彼女は、男子のみならず女子からも人気がある。
 何をさせてもそつなくこなし、生徒の中心人物である彼女。
 そんな彼女を妬む輩も当然少なからず存在したが、誰に対しても公平に振舞い慈愛を以て他人と接する彼女を見ていると、少しでも利口な者は理解する。
 醜い妬み嫉みを向けるよりも、ほんの少しでも彼女を見習った方がよっぽど己の為になると。
 気品を漂わせながらも近づき難い雰囲気を見せない彼女。正に学校の顔であり、華であるのだ。

 部活動はバレーボール部に在籍。
 部長として、またリーダーとして、部を上手く纏め上げている。
 サイドアタッカーとしての実力は確かなものがあり、県内でも有名な選手だ。
 IH出場は惜しくも逃したものの、県大会準優勝の快挙は彼女の奮闘によるものが大きい。
 後輩からのウケも良く、理想の先輩像として認識されているのは間違いないだろう。
 
 彼女が付き合いたいタイプを聞かれると、
 「一つのことに一生懸命になれる人」
 と、毎回決まってそう答えた。
 彼女曰く、「どんなことにもへこたれない、強い意志を持ってる人は素敵だと思う」との事。
 友人が「自分の事かよ、このナルシストめ」とからかうと、彼女は笑って「私はそんな立派な人じゃあないよ」と言う。
 謙遜とも嫌味ともとれるその台詞は、彼女が言うから本心なのだとみんな理解しているに違いない。
 
 そんな彼女、これまでに20回を超える人数から告白されるはずだった。
 されるはずだったと言うのは、体育館裏まで呼び出されたは良いものの、いくら待てども呼び出した当人がやってこないのだ。
 男子から人気の無い所に呼び出される理由。それがわからぬほど彼女は鈍感ではない。
 しかし、呼び出しておいて自分は来ない男子の思考回路には理解が及ばなかった。
 一応30分ほど待ち続けて、仕方なく家に帰るのが毎度の事であった。
 いたずらも大概にしてほしいなぁ、と思っているであろう彼女は知らない。
 呼び出した男子達がどうなったか、など。

 身長は171,2cm、体重は60,3kg。女子にしては長身でやや痩せ型。
 1992年5月8日生まれの牡牛座。宮城県仙台市泉区で生まれる。
 出生時の体重は3.15kg。あまり泣かない子で両親を心配させたらしい。
 血液型はO型、スリーサイズは上から86,60,87。
 趣味は映画鑑賞で、特にSFと恋愛物が大好き。月に二回は映画館へ赴き、気に入った映画を見つけてはその監督の作品を調べるのが癖になっている。
 料理を得意としていて、和食洋食中華に民族料理もこしらえる。腕も中々のもので「いいお嫁さんになるよ」と褒められるほど。
 4歳の頃に車に撥ねられ足に大怪我を負うも、順調に回復し後遺症や障害などは残っていない。
 彼氏がいた経験はゼロ。間違いなく処女だ。
 現在は駅前の高層マンションで父、母、妹、それに犬と暮らしている。
 犬の名前はトト。犬種はアイリッシュ・テリアのオスで3歳。
 僕によく懐く、可愛い犬だ。
 
 その彼女は今、自分の部屋で寝る前のストレッチを行っている所だ。
 まだ少し湿り気を残した長い髪が、前屈運動に合わせて、揺れて流れる。
 こちらに背を向けてる彼女は知らない。
 クローゼットに僕が潜んでいることを。
 僕が荒息を抑えながら彼女の肢体を凝視していることを。
 気づく素振りなど微塵も見せないで、無防備にストレッチに勤しんでいる。
 僕がこんなに近くに居るのに、君は気づかない。
 こんなにも君に一生懸命なのに、君は気づいてくれない。

 今すぐここから飛び出して彼女の柔軟運動を手伝ってあげたい。
 体中のありとあらゆる体液を交換して二人で分かち合いたい。
 ふとしたきっかけで僕の事を思い出して夜も眠れない体にしてあげたい。
 彼女の思考を視界を記憶を心を僕一人が占有したい。

 どうしようもなく、
 みとが、
 ほしい。

 来る日も来る日も毎日毎日この場所から眺めていたが、今日と言う今日は我慢の限界だ。
 もうこの溢れ出る感情を、情欲を、興奮を、理性が抑えていられない。
 幾度と無く開閉してきたクローゼットを、音が鳴らないように、開く。
 細心の注意を払って、這うナメクジのように、ゆっくりと、じっくりと。

 気配を感じ取る隙さえ与えず、僕は彼女に抱きつく。覆いかぶさる。
 
 
 「だぁれだ?」






 

 「あのねぇ麗人、あんた次やったら本気で殴るわよ」
 「はい。反省してます。申し訳ございませんでした」
 「今度30センチのパフェ驕ること。いいね」
 「はい。喜んで驕らせてもらいます」
 「そんな事やってるから彼氏ができないのよ。とっとと寝なさい」
 「はい。お休みなさいませお姉様」

 体に密着できたし、柔らかい胸も堪能できたし、可愛い悲鳴も聞けたし、気合のこもった張り手も貰ったし、デートの約束までしてしまった。
 今日は眠れそうもない。


 

       

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