Neetel Inside ニートノベル
表紙

ひつまぶし短編集
「まるちぶ!」

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「さて、諸君」
 赤崎灯火(あかさきとうか)は考える。
「今月はどうしようか?」
 現在この部屋には高校生が三名。女子二名、残りは男子。
 一人は赤崎であり、赤毛の長い髪を探せばそれが彼女である。それに釣り目長身細身の三点セットがそろえれば断定だ。残りは元気なボブカットの茶髪少女と、目が隠れる程度の長さの黒髪をうざったそうにいじりながら本を読んでいる少年。
 そんな三人が部室と呼ばれる空間に三すくみのように、あるいは三角形を描くようにして丸いテーブルに座っている。
「何をですかー? 先輩?」
 初島晴香(ういしまはるか)はピンと手を天に突いて質問する。
「今月は何部にしようかと。そういう話だ、初島。というか万歳するな」
 初島の両手は真っすぐぴんと伸びていた。
「何部にするってここマルチ部でしょう、先輩。ならばマルチしましょうよ、マルチ」
「悪徳商法しに行ってどうする! だから、この部は皆で月一で“部”の付くテーマを決めて一ヶ月間そのテーマに則り活動する部活だ。あらゆる部活になれるからマルチ部だ。いい加減、覚えてくれ」
「あいあいさー」
 といって敬礼する。しかし両手なので三角形を作るような形になった。ドラゴンボールで言えば太陽拳が出せそうである。
「でも、きっと来月になったら忘れているのだろうな……」
 赤崎は顔を手で覆ってはぁ、と溜息をついて首を振る。
「ふぁあ……」
 そこでけだるそうにしている粗方小唄(あらかたこうた)は大きなあくびをひとつかく。
「おい、粗方。部長が困っていると言うのになんだそのやる気の無さは」
「いやぁねぇ、先輩。だっていつもの話でしょう。初島は頭のメモリー許容量がむっさ少ないから忘れちゃってるかも知んないけども、流石に入部して半年ともなればこの部活がどんな所なのかわかりますよ」
「なら一層、なぜそんなにやる気がないか疑問なんだが」
「やる気が無いのが俺なんですよ。あいでんててー」
「アイデンティティだろう」
「そんな厳密な発音を日本人に要求しちゃあいけませんぜ」
「しかし、それならばお前らはなぜ我が部に入部したのだ」
「いや、だってねぇ。うちの学校は入部必須じゃないっすか? んで、マルチ部ってのをみつけてですねぇ。活動内容見たら、好きなことを内容問わず思いっきりするって書いてあるじゃないですか。これはもう入部して思いっきりだらけることにしたわけですよ」
「お前……」
 そこ初島が手を上げた。
「あー私もそんな感じです、多分」
「初島もか……ていうか多分て」
「尤も、私の場合は思いっきり女の子といちゃこらするためだったんですがね。入ってみたら居たのは、年増とブタって話ですよ」
「おい初島、ブタってまさか俺のことじゃないだろうな?」
「まごうことなく寸分たがわず君ですが何か?」
「いやいや。全力を持って否定させてもらうぞ。全く太ってねぇし」
 全力という割には身体は微動だにせずただ口だけが動いていて、粗方はとてもめんどくさそうに棒読みの調子で話す。
「ああ、いや、そういうわけではないですよ。男全般がブタなんですよ?」
「お前は一体どういう偏見にまみれて生きてきたんだよ……」
「いえいえ。男という生き物は女に貢いてあくせく働く。それはまるで働きアリのように! なにもおかしくない常識の真っただ中で生きてきましたよ。誤審しようもないストライクのようにど真ん中です。流石にアリでは可哀想なので慈悲に慈悲を重ねて家畜まで昇格させてあげたのですよ。むしろ感謝してください」
「感謝すんのは真性の変態ぐらいだ。ていうか、その常識と俺の言う偏見は同義語だから。多分お前にとってのストライクゾーンは背中にある。まぁ、居たのが年増って言うのには賛成だがな」
「でしょう?」
 そして粗方はちらりと右の方を、初島は左の方を見る。
 二人の視線の交点には赤崎が居た。そのことに気付き自分を指さして驚く。
「私のことか?!」
「「他に誰が居るんです?」」
 初島と粗方は声をそろえた。
「私はてっきり顧問のことだとばかり。いや、それでも自身をブタだと思っていたわけではないが。私はお前たちよりたったひとつ上なだけなのだぞ?」
「「十分年増じゃないですか」」
「確かに年は一年増してはいるがな、お前たちだって来年になればその“年増”の歳になるんだぞ?」
「「いえいえ。自分より年上なのが年増なだけです。つまり、部長は永遠に年増というわけで」」
「親にとって子供はいつまでも子供みたいなノリで言うな!」
「「おお、良い例えですね。先輩はいつまでも年増ですよ」」
「うるさい! ていうかさっきから何ハモってるんだ!」
「「ハモってないです。同じことを言ってるだけです」」
 はつらつとした声と、けだるそうな声が気持ちの悪いハーモニーを奏でている。
「それをハモると言うんだ!」
「「偶然の産物という奴でしょう。何事も、可能性は零じゃない限りありえることですよ。たまたま、それこそジャンボ宝くじが当たるような確率でも同じことを言うことは可能性が零とは言えませんよ」」
「ない! 零だ! 単語レベルか定型句ならまだしも、そんなセリフを一文字たがわず口調も違わないなんてありえないだろう! お前ら……もしかして台本とかあるのか? 計画的犯行で私に無礼を働いているのか?!」
「「ないですよ」」
「だとしたら、なお心に来るものがあるんだが。ステレオはモノラルよりも心に響くんだぞ!」」
「「確かに、映画でも迫力が違いますよね。けど、事実ですからねぇ」」
「おいおい、お前らいい加減にしろよ。いい加減にしないと……」
「「はいはい、なんでしょう」」
 赤崎はわなわなと身体を震わせて、カッと目を見開いた。
「泣くぞ?」
「「は?」」
「私はな、お前たちが思っているよりはるかに泣き虫だ。現時点で悲しみポイントは優に号泣できるレベルまでに達しているんだ」
「「リミットブレイク! って、どこのRPGですか。そんなトンデモスキルを有していたとは、やはり年増は恐ろしい」」
「そろそろわざと年増って入れてきているだろう。いいか、“先輩だから威厳が”と考えていたがもうそんなの知らん。本気になったらすごいぞ、引くぞ?」
 そんなことを言われたら引くのが普通かもしれないが、生憎この二人は加虐心に火がついた変人二人である。
 引くどころか、むしろ押す。
「「どうぞどうぞ」」
「うわあぁぁぁぁん!」
 そうしてとうとう赤崎は思い切り泣きだした。
 まるで幼い子供のように外聞も気にせず大きな声で手で顔を隠すことなく泣きわめく。
「「どうどうどう」」
「ここまでしてまだハモるのか?!」
「「泣いている人がいたら誰だってあやすでしょう」」
「くそう。お前ら、そんなにハモりたいなら合唱部に行けよ!」
「「ああ、じゃあ今月は合唱部でいきますか」」
「勝手にしろよ……」
「「勝手にしますよ、年増さん」」
「うわぁああん!」
 そんなわけで、今月のテーマは合唱部に決定した。

       

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Neetsha