Neetel Inside 文芸新都
表紙

和泉新斗物語
第九話「ある晴れた日に」

見開き   最大化      

八月二十日、快晴。
新都町から電車で約二時間。
トンネルをいくつも潜り、橋を渡る。
すると新都町とは別世界かと思う程の、都会に到着するのだ。
そう、ここは僕が以前に住んでいた別府街だ。

忙しく行き違う人々、渋滞を作る車の列とクラクションの音。
信号が青に変われば、待ってましたと多くの人々が一斉に歩き出す。
見渡す限りの高層ビル、綺麗に舗装されたアスファルトの道。

新都町とは、まるで違う世界。

「ふっふっふ・・。」

僕は堪えきれず、含み笑いをする。

「はっはっは!別府街よっ!私は帰ってきたのだッ!!」

僕は両手を天に掲げ、声を上げた。
あぁ、都会。
何と優雅な響きなのだろう。
新都町のような変人達に振り回されることも無く。
買い物や交通に不便することも無い。

「そう、ここはまさに楽園ッ!」

僕は今、この瞬間を生きている事に感謝していた。
もう、学園や家(新都町)には、帰りたくない!

僕が都会の地に舞い戻った幸せを噛み締めていると、背後から不吉な声が聞こえる。

「ほぇ~・・すっげぇ人の量だわ。」

春日翼はそこに居た。

「ぬ・・ぬ~。目が回ってしまいそうだす。」

朽木弥生もそこに居た。

「本当・・迷子になっちゃいそうですね・・。」

神無藍もそこに居た。

「全く・・どうしてこんなに人が多く居るのかしらねぇ。」

桜井明もそこに居た。

そう、新都町の変人達が、ここに居る。

「ノォォォォォッ!」

僕は頭を抱えて叫びを上げる。
そうだ、忘れていたのだ。
こいつらが一緒に居たということを!
こいつらは、僕のささやかな幸せすらも奪う!
悪魔だ!こいつらはまさに悪魔の申し子達なのだ!

「おい、和泉。」

春日に声を掛けられ、僕は我に帰る。

「はっ!な、何?ど、どうしたの?」
「お前、今日何かテンション変だぞ。」

都会に戻った幸せ。
だが変人達に付きまとわれた不幸。

「そりゃ、僕もおかしくなる日もあるさ。」
「・・あんたはいっつも変なのよ。」

明の突っ込みはスルーしておく。
変人のお前に言われたくは無いからな。
というか、都会に居るのにわざわざコイツらの相手はしていられないのだ!
もう少し待っててくれ、僕の都会よ。
もう少しで、僕は都会に溶け込むから!

「そもそも、何で皆が居るんだよ・・。」

僕が皆に向かって言い放った。

「何言ってんだよ。部活動の一部だぜ?都会を探検。」

そう。
そうなのだ。
ちょっとここで詳しく話そうか。
僕が夏休みを利用し、都会へ帰るということが決まったのは三日前。
当然、コイツらが付きまとってくることを計算し、新都町の皆には都会へ帰ることは内緒にしていた。
だが!
広報部、いや、もはや諜報部と呼びたい。
桜井明の陰湿なストーカー調査によって、僕が都会へ帰ろうとしていることは簡単にバレた。
その話は、たった数分で春日達の耳に届いた。
春日達に知られてしまえば、もう結末は見えたようなもんだ。

何とも厚かましいことに、僕の都会帰りに同行して来たのだ。
それも変人共が四人も。
もはや悪夢。
楽しいハズの一人旅が、こんな事になるなんて・・。
僕はとことん、ついていないようだ。

「何かへこんでるとこ悪いけどよ。」
「春日・・何?」
「せっかくだから都会案内してくれるんだろ?」

おいおい、一緒に行動かよ。
ふざけんなよ死ねよ。

「え、皆僕と一緒に別府街を見て周るつもりなの・・?」

一応聞いておく。

「ぬ~・・俺は、そうするつもりだっただす・・。」
「わ、私も・・。一人じゃどこへも行けそうにないですし・・。」
「そーね、和泉君がガイドしてくれりゃ楽よね。おいしい物食べた~い。」


誰かが言った。
神は死んだと。



「え~、皆様、右をご覧下さい・・。」

やる気のない声で、僕は皆に呼びかける。

「え~っと・・右に見えますのが、別府タワーで御座います。」

僕は右方向を指差し、田舎者共に都会の素晴らしさを教える。

「おぉ~!これが別府タワーかぁ!」
「す、すごいですね~!」
「確かに大きいだす・・。」
「う~ん、思ってた以上におっきいわね・・。」

田舎者共は別府タワーに興味津々だ。
田舎者共が。
そのまま驚いて驚いて驚きすぎて死ねば良い!

「・・和泉君?」
「は、はいっ!?」

しまった。
トリップしていて、明の呼びかけを無視していたようだ。
まぁどうでも良いけど。

「で、そろそろお昼にしたいんだけどさ?」
「あ、あぁ、はい。」
「どっかおいしいトコ、連れてってくれるんでしょ?」

僕が?
いや、当たり前だよな。

「あぁ、いいよ。じゃあ皆お昼にしようか。」
「ぬ・・お、俺、中華はダメなんだすよ。」
「そうなの?じゃあ中華は外して、おいしいとこ連れて行くよ。」

中華に揉まれて死ね朽木!
中華料理人達に呪い殺されろっ!


扉を開けると、綺麗な鐘の音が鳴り響く。
すると、可愛い店員さんが近寄ってくる。

「いらっしゃいませ~!何名様で御座いますか?」
「一人・・じゃなくて、五人です・・。」
「お煙草は吸われますか?」
「いや、吸いません。」
「では、お席へご案内します。こちらへどうぞ~。」

正直な話をする。
僕はこの街で十数年間生きてきたのだ。
当然、おいしい店なんてたくさん知っている。
だが、今日僕はあえておいしい店を外した。
何故かって?
それは実に簡単なことだ。

こいつら田舎者共に対する、ささやかな復讐だ!!

近所でも評判の悪いフランス料理店。
さぁ、田舎者共よ。
高い金払って不味い物を食すが良いわ!

「ここ、高くない?」

明がメニューを見ながら、不満を吐く。

「確かに・・。ちょっと高過ぎるよな。」

春日、財布と相談。
ふふ、田舎者の貧乏人よ。
ここはお前には相応しくない土地なのだよ。

「そんなことないよ。別府街だと、これぐらいの値段が普通なんだよ。」

もちろん嘘である。
都会に住んでいた僕でも、この店は格段にボッタクリなのは知っているのだ。
僕自身ダメージを受ける値段だが、復讐のために身を削るのだと自分に言い聞かせる。

「い、和泉君、か、格好良いですね~。」

神無さん可愛いよ。
どうしてか君だけは憎めないよ。

「ご注文はお決まりになりましたか?」

フリフリのメイド風な衣装を身にまとった店員さんが現れる。
見る見るうちに、朽木の態度が豹変する。

「ぬ・・ぬ~。
 こ、この"今日のお勧めランチセットA"と、"卵とじネギスープ"と、"特製ハンバーグランチ"と、
 "パワフルサラダ"と、"ジューシーチキンピラフ"と、"抹茶アイス"下さいだす・・。」

食いすぎだ馬鹿。
可愛い店員さんを目の前にして興奮したのは解る。
でも、だからって注文しすぎだって。
まぁこいつもどうでも良いけどね。

「ぬふふ・・」

幸せそうに店員さんを見つめて微笑む朽木。
お前は何て幸せな奴なんだろう。
僕の幸せを奪っているのに・・。
これ以上考えると本当に殺意が芽生えそうなので、考えるのは止めて食事を取ることにした。


「あ~、食った食ったぁ!」
「ほ、本当。お腹一杯ですね~。」
「あんまり美味しくなかったわね。都会のクセに。」
「ぬ~・・ぬぼぼぼ・・。苦しいだす。」
「だ、大丈夫ですか?朽木君・・。」

昼食を終えた僕らは、地下鉄に揺られていた。
朽木にまで優しい神無さん、君は天使なのかい?エンジェルなんだね?

「ぬ、ぬぼぼぼ・・。大丈夫だすよ・・。」

苦しそうな朽木を陥れるかのように、地下鉄が揺れを増しながら走行する。
良い気味だ、朽木弥生。
そのまま死ね。


地下鉄が駅に到着すると、僕らはショッピングモールへと向かう。
本来僕の都会帰りの目的は買い物だったし、皆も買い物したいと言うので丁度良い。

「うわぁ~・・すっごく広いわね・・。」

明が辺りを見回し、声を上げる。

「うん、まぁ。ここら辺じゃぁ、一番大きいショッピングモールだからね。」
「ほ~・・。探検しがいがありそうだな。」

春日、頼むから迷子にはならないでくれよ?

「ぬ!」

突然、朽木が汚い声を張り上げる。

「ど、どうしたの?朽木君?」
「和泉君、あ、あれを見るだす!」

朽木の指差した方向には、小さなホビーショップ。
そのガラスケースの中には、あからさまな美少女フィギュアが展示されていた。

「あ、あれは"メモリードキドキプルルン"のヒロイン萌子ちゃんの予約限定フィギュアだすよ!」
「へ、へぇ~・・。」
「朽木君、あんなの欲しいの?キモイわよ?」
「さ、桜井さん・・。ダメですよ、キモイなんて言っちゃ・・。」

いや、言って良いだろ。

「おいおい、朽木。お前アレ買う気か?」
「ぬ、春日君も買う気だすか?」
「ば、馬鹿言ってんじゃねーよ!あんな馬鹿高い物を、本当に買う気かなって思って聞いただけだ。」

馬鹿高い?
よく値段を見てみた。
そこには五万円という、限定物ならでは?の素敵なお値段が書かれていた。

「あ、アレが五万円なら、か、買う価値はあるだすよ!ぬぼぼぼぼ!」

もう着いていけない。
興奮する朽木をその場に放置し、僕ら四人も買い物をしようとホビーショップを後にした。

僕らが次に向かったのは、お土産が多く売られている店だ。
都会に旅行に来た田舎者が、買って帰るに丁度良いだろう。

「わぁ!こ、これ可愛い~。」

神無さんが手に取ったのは、可愛らしい猫のキーホルダーだった。
今時キーホルダーなんて本気でいらないと思うのだが、可愛いのでまぁ良いだろう。

「これも良いじゃん。和泉、この店イカしてるじゃねえか。」

春日も大喜びでお土産を物色している。
全く、子供っぽいというか何というか。
春日達の買い物はさて置き、僕自身も自分の買い物をすることにしよう。
そのために、わざわざ都会へ帰って来たのだから。

僕はお土産を物色する三人を置き去りにし、一人でショッピングモールの屋上へと向かう。
そう、僕にはどうしても買いたい物があったのだ。

「あれかな・・。」

ショッピングモールの屋上には、やけに多くの人だかりが出来ている。
あそこに、僕の求める物があるのだ。

「いらっしゃいませー!本日限りの大安売りですよー!」

黄色いチョッキを着た店員が、大声で宣伝している。
僕はその声に吸い寄せられるように、人だかりを手で押しのけ前進した。
人だかりをすり抜ける途中で、お尻の辺りに変な感触がした。
痴女?
全く、僕は罪作りな男なのだろうか。
何て馬鹿な事を考えながら、僕は人だかりを抜け切り店員に声を掛けた。

「あ、すいません。ひとつ買います。」
「あいよー。お一つですね!」

僕の前に、商品が置かれる。
商品の名は、"電撃目覚ましオキラレール君"だ。
まぁ、何とも詐欺臭い名前なのは解っている。
だがコレは、超音波も顔負けの音程だか音域だか解らない物で、熟睡中の人間をたたき起こせるという優れものなのだ。
俄かには信じがたい物なのだが、某巨大掲示板サイトや、某オープンソースの情報サイトなどでも評判は良い。
寝起きの悪い僕にとって、まさに神様の思し召しかと思う程の偉大な目覚まし時計である。

「え~、お一つで五千八百円になります!」
「あ、はい。」

目覚まし時計で五千円は高い気もするのだが、この場合は仕方ない。
僕はズボンの後ろポケットに手を入れ、財布を取り出す。

財布を取り出す・・?

「あっ、あれ?」

ズボンの後ろポケットに入れていたハズの、財布が無い。
まさか落としたとでも言うのだろうか?
ポケットに穴は開いていないし、財布を落としそうな場面なんて無かった気がする。
地下鉄に乗る時にはちゃんと持っていたのに。

僕はしばらく財布の行方を考え、一つの結論に至った。

「・・掏られた。」

さっき人だかりを切り抜ける中で、お尻の辺りに感じた感触。
あれは決して僕のお尻を触るものではなく、後ろポケットに入れていた財布を盗むためだったのだ。
久々に都会に戻って来て、財布を掏られるなんて勘弁してくれ。
いくら何でも、流石にこの展開は酷過ぎるんじゃないのか?
僕は目覚まし時計を買うために来たのに、お目当ての物も買えないまま帰るのか?
いや待てよ、帰りの交通費すらねぇよ!

「お客さん・・?五千八百円になりますが?」
「あ・・いや、その。あははは。」

財布掏られたので買えません、なんて言えない。
だからって買うことも出来ないので、僕は笑って誤魔化した。
いや、どうしよう・・。
僕が半ば諦めながら、店員に断りを入れようと口を開いた。

「あ、あの。」

だがその時、僕の後ろから、

「五千八百円ね、じゃあこれで。」

という声と、差し出される福沢諭吉。
全く展開が読めない僕は、とっさに後ろを振り返って驚いた。

「あ、明!?」

僕の後ろには、呆れ顔で僕を見つめている明が居た。

「財布無くすなんて、とことん馬鹿ね。」
「え、いや!無くしたんじゃなくて掏られたんだよ!」
「ま、そんな事どうでも良いわよ。」

僕が明に言い訳をしている間に、包装された目覚まし時計と代金のお釣りが明に手渡される。

「はい、商品とお釣りです。」
「どうもありがと。」

明はそれを受け取ると、自然な動作でそれを僕に差し出して来た。

「はい。」
「え?いや、はいって?」

何が起こったのか全く理解出来ず、困惑している僕に明は言った。

「何よ、要らないの?」
「いや、要らないとかじゃなくて、それ明が買ったんでしょ?」
「あんた馬鹿?あたしこんな時計要らないんだけど。」
「じゃあ何で買うんだよ?」

明はため息をつきながら、少し不機嫌そうな表情になる。

「あんたこれ欲しかったんじゃないの?」
「あ、ああ、そりゃ欲しかったけど。財布無くして買えなかったんだよ。」
「だから、これはあんたのなのよ。」
「ぼ、僕の?」
「・・まだ解らないの?あんたに買ってあげたんじゃない。」

明が僕に買ってくれた?
僕は自分の耳を疑い、とっさに明に聞き返した。

「ぼ、僕に買ってくれたって・・?」
「そのままの意味よ。財布無くして買えないんじゃ可哀想だから、あたしが代わりに買ったの。」
「僕にくれるってこと・・?」
「そうよ。」

一体どういう風の吹き回しなのだろう?
あの桜井明が、いくら財布を無くした僕が可哀想だとしても、代わりに買ってくれるなんてことありえない。
何か裏でもあるのだろうか・・。

「え、いや悪いよ・・。そんなの貰えないよ。」
「悪くないわよ。あたしが勝手に買って、あんたにあげるって言ってるんだから。」
「それは嬉しいけど、でもさ・・。」
「はぁ・・遠慮でもしてんの?」
「当たり前だろ?理由も無しに、こんな高いもの買ってもらうなんて。」
「理由があったら素直に受け取るの?」
「え・・まぁ、いや、別にそういう訳じゃないけどさ。」
「どうなのよ?」
「そ、そりゃ理由があったら・・」

本来理由があっても、こんなもの貰う訳にはいかないのだが。

「・・理由ねぇ。」

明は少し悩んだ表情をする。
そして数秒考えた後、何かを思いついたのだろうか。
僕の瞳を見つめると、

「じゃあ、都会案内してくれたお礼ってことにしておこうかな。」

さらっとそう言うと、笑ってみせた。

「え・・お礼って・・。」

明の笑顔があまりにも可愛かったせいか。
僕は頭が回らず、そんな言葉しか言えなかった。
戸惑う僕に気づいたのか気づかないのか、

「あ、そろそろ良い時間よ。皆のとこ戻りましょうよ。」
「・・え?」
「何ボサっとしてんの?そろそろ帰り始めないと、夜になっちゃうわよ?」
「あ、ああ。そ、そうだね。」

確かにそろそろ新都町に戻ることを考えなければならない時間になっていた。

「さ、早く行くわよ!」

明はそれだけ言うと、僕に背を向けショッピングモールの中へ戻っていく。

「ちょ、待ってよ!」

僕は慌てて明の後を追う。
だが、ここで僕は財布を無くしている事を思い出す。

「げ・・帰りの交通費無いじゃん・・。」

僕がボソっと呟くと、明が振り返って僕に言った。

「帰りの交通費ぐらい、貸してあげるわよ。」
「ほ、ほんと!?」
「そんな嘘つかないわよ。でも、交通費は貸しだからねー。」
「わ、解ってるよ!そんなこと!」

今日の明は何て良い奴なんだろう。
何か良いことでもあったんだろうか?
何とも素直に喜べない優しさだが、本当は良い奴だったのかもしれない。

そんな事を考えながら歩いていると、

「お、戻って来たな~!こっちだぜー!」
「ぬ、お、おかえりだす。」
「・・・・おかえりなさい。」

僕と明を待ってくれていた三人が、僕らに声を掛ける。
何だか神無さんの元気が無いようだが、疲れているんだろうか。
か弱い娘である。

「ごめんねー、皆!和泉君がとろくってさー。」
「は!?そんな事ないだろ!」
「はいはい、喧嘩は後にしな。そろそろ帰らないと、日が暮れちまうぜ!」
「そ、それもそうだな・・。」

春日に場を仕切られるのはどうも納得いかないが、珍しく正しいことを言っているようだ。
僕は惜しみながらも、心の中で都会に別れを告げる。

「じゃ、そろそろ帰るとしますか。」

僕は皆にそう言うと、駅のホームを目指し先頭を歩く。
そして、ここで重要な事を思い出し、人ごみの中明に声を掛ける。

「あ、明。」
「何よ?」
「今日はありがとな。」
「・・良いわよ、別に。」

明はそっけない顔でそっけない返事をする。
まぁ、明らしいと言えば明らしいのだけど。

僕らは駅に到着すると、新都町行きの切符を買い、電車に乗り込んだ。
電車に乗り込み席に着くと、僕は今日一日の疲れのためか眠気に襲われる。
新都町までの道のりは約二時間。
眠ったとして、到着すれば誰かが起こしてくれるだろうか?
いや、ここで"電撃目覚ましオキラレール君"の出番なのか?
そんな不安に駆られていると、

「眠いんでしょ?」
「え、あぁ・・。」
「寝ときなさいよ。着いたら起こしてあげるから。」
「良いの?」
「良いから言ってるのよ。」
「・・じゃ、お言葉に甘えて。」

明の優しさに甘え、僕は瞳を閉じる。
すると、すぐに眠気は頂点に達し、僕は眠りに着いた。

それから電車にしばらく揺られ、新都町に到着。
僕らは改札を抜けると、互いに別れを告げ岐路についた。
こうして、僕らの一日都会探検は幕を閉じたのだ。

最初は乗り気じゃなかった友人達との都会探検も、終わってみれば楽しかった。
あいつらと一緒に居ると、疲れるけど楽しいことも事実である。
きっといつも起こるハプニングも、僕の青春の一部に過ぎないんだろう。
後何年もすれば、この町で過ごした楽しいことも、嫌なことも、全てが大切な思い出になるハズだ。
この何気ない毎日を大切にしようと、僕は思った。


だが、僕は都会探検の一週間後にある事に気づく。
この日から、既に予兆は見えていたのに。
僕は、それに気づけずに居た。
いや、気づかない振りをしていたのかもしれない。
どうして、彼女の寂しそうな横顔に気づいてあげることが出来なかったんだろう。

この時の僕は、まだこれから起ころうとしている苦い事件なんて、知る由も無かった。

       

表紙
Tweet

Neetsha