Neetel Inside 文芸新都
表紙

和泉新斗物語
第十六話「転校生」

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十月。
季節は、秋。
体育祭から約一ヶ月が経過したある日の朝。
僕はいつもと同じように、学園へ向かっている途中だった。
少しづつ涼しさが増し、僕はこの街へ転校して来て以来、初めてのブレザーに袖を通していた。
前の高校は学ランだったので、少し新鮮な気分になる。
そんな制服の効果もあるのか、今日は何かが起こりそうな予感がしていた。
出来れば良い事が起こると嬉しいのだが、僕に限ってそれはありえないだろう。
どうせ僕がこんな事を思っている以上、嬉しくない事が起こるに決まっているのである。
でもちょっとは良い事が起こるかも、とか心の奥の方では期待していた。
そうだな、しいて言えば、僕のクラスにとっても可愛い女の子が転校して来るとか。
しかもその女の子は、巨乳とロリの両方を合わせ持っているとか。
もしそんな事が起こったら、本当に初めての制服パワーに感謝感激なのだが。
僕は一人そんな馬鹿な事を妄想しつつ、学園へ歩く足を速めた。

校門をくぐり、下駄箱から上履きを取り出す。
そんないつもと同じ光景だが、やはり今日は何かが起こりそうな予感がする。

「あ、和泉君。おはよう。」

学園へ入った僕に一番に挨拶をしてきたのは、明だった。

「あぁ、おはよう。明も冬服だね。」
「まぁね。ちょっと早い気はするけど、朝と夜は冷えるから。」

まさか起こりそうな何かは、明が冬服を着てくるという事なのか?
いや、違う。
確かに明の冬服姿は似合っていて目の保養になるが、こんな程度のものでは無い気がする。
良くも悪くも、もっと驚くような事が起こる気がしてならないのだ。
例えば、廊下の角を曲がったところで、可愛い転校生にぶつかるとか。
しかもその女の子は、巨乳とロリの両方を合わせ持っているとか。
ついでに白いワンピースが似合うと僕のタイプだ。
そして家がお金持ちなお嬢様で、でも料理とか家事とかこなせる女の子で。
得意料理はオムライスだと嬉しいなぁ、でも手作りのハンバーグも嬉しいかもしれない。
休日のデートは彼女の手作りお弁当を持って、公園はどうだろう?
いやぁ、相手はお嬢様なんだから、遊園地とかの方が良いのかもしれない。
ちょっと待て待て、逆に考えてみろ、新斗。
その逆が良いんじゃないのか?あえて素朴に公園っていうのも悪くは無いぞ。
そしてベンチで二人でお弁当を食べて、散歩して、それから・・・。

「ねぇ、和泉君聞いてる?」
「はっ、何!?」

妄想の世界から僕を呼び戻したのは明の声だった。

「・・何だか遠い世界に逝っちゃってたみたいだったけど・・。」
「な、何を。そ、そんな事は無いよ!別に何も無いよ、うん、何も無い!」
「また馬鹿な事考えてたんじゃないの?まぁ、別に良いけどね。幸せそうだったし。」

現実に幸せを感じないから、妄想の世界へ逃げ出したくなるんだよ。

「とにかく、そろそろ教室行かないと遅刻するわよ?」
「えっ、もうそんな時間なの!?」
「あんた、何度呼んでも返事しないんだもん。」
「そ、そんなに長時間トリップしてたのか・・。」
「いいから、早く行くわよ!」
「あ、あぁ。」

明に急かされ、早歩きで教室を目指す。
階段を上がり、職員室の前を通り過ぎ、廊下の角を曲がる。
そして廊下の角を曲がった瞬間、僕の体に衝撃が走った。

「うわっ!」
「うみゅ!」

僕の声とは別に、何だか現実では考えられないセリフが聞こえた。
これが漫画や小説なら何ら違和感を感じないのだろうが、これはあくまでも現実である。
あまりにも現実離れしたセリフに戸惑いながらも、必死に状況を理解しようとした。
よく辺りを観察すると、自分の足元に少女が倒れていた。
恐らく廊下を曲がった瞬間に、この少女とぶつかったようだ。

「いたたたぁ・・。」

少女が腰を擦りながら、廊下にへたりこんでいた。
僕は現実離れしたセリフを発したであろう少女に、手を伸ばした。

「ご、ごめん急いでたもんで。大丈夫ですか?」
「う~・・。」

少女は僕の手を取る。

「あの・・大丈夫?」
「はにゃ~・・あはは。ぶつかっちゃいましたね~!」

また出たよ謎なセリフ。
一体この少女はどこのゲームの世界から飛び出して来たんだ?

「よいしょ・・っと!」

少女はピョンっと軽くジャンプ混じりに立ち上がる。
そしてその瞬間、僕は我が目を疑ったのだ。

目の前に居る少女は、まるで芸能人かと思える程の美形である。
幼さを残しつつ、だが整った顔立ちだ。
そして金髪を頭上で二つに結び、俗に言うツインテールならぬ髪形。
おまけに上半身を観察すると、そこには巨乳・・いや爆乳ッ!
僕の隣に居る明の胸が小さく思える程の爆乳である。
ロリ属性+巨乳属性だ!
最後に下半身を観察すると、ニーソックスッ!
スカートとソックスの間に垣間見える白い太ももは凶悪な萌えを醸し出している。
まさに、僕のストライクゾーンど真ん中ッ!!

「だ、だだだっ、大丈夫でしたか!?お、おおおお、お怪我はっ!?」

あまりに完璧すぎる美貌を持つ少女を前に、僕はややビビりながら声をしぼり出す。

「はぁい~、大丈夫ですよっ!」
「だだだ大丈夫ですか!そ、そそそそれは良かった!」
「大丈夫ですよっ。前見てなくって・・・すいませんでしたっ!」
「いやいやいやいやいやいや、ぼ、ぼぼぼ僕が悪いんでせうよ!」
「いえいえ~、大丈夫ですっ!お気になさらないで下さいねっ!」

何とも言えないおしとやかなその仕草。
少し鼻にかかるその甘い声・・。
あぁ、ビバ曲がり角!
この廊下を早歩きで通って本当に良かったッ!
こんな可憐な少女との出会いが僕に訪れるとは思いもしなかった!
妄想の世界でしかないと思っていたのだが!

「・・和泉君・・。」
「はい!?」

明に不意に声を掛けられ、思わずハッとしてしまう。
目の前の可憐な少女に見惚れたあまり、明の存在を完全に忘れていた。

「何だか運命的な出会いを果たしてるとこ悪いけど、遅刻するわよ?」
「げっ!そ、そうだったね。」

冷静な明の冷たい視線を全身に浴びながら、僕は教室へ向かおうとする。
だが、そんな僕は少女に呼び止められる。

「あ、あの~。」
「は、はい!?ど、どどどどうしたの!?」
「良かったら、お名前教えてもらえませんか~?」
「え、僕の名前?」
「はい~。きっとこれも何かの縁ですしぃ~。」

廊下でぶつかる縁。
そして名前を聞かれる。
これは立派なフラグではないだろうか?
あれ・・フラグって何だっけ?
朽木がフラグとか前に言ってた気がするが・・まぁ良いだろう。
個人情報に細かい世の中だが、こんな美少女になら何を知られても構わないね。

「え、えと、2年B組、和泉新斗です!十七歳の牡牛座で、趣味は・・!」
「あはは~・・も、もう良いですよっ・・。」
「は・・そ、そうだよね・・。あははは・・。」

見事な空回りだ。

「新斗さんですね~、覚えておきますっ。」
「え?あぁ、はい。」
「またどこかで会ったら、是非お話して下さいねっ。」
「も、もちろん!是非お話しましょう!」
「じゃあ、私急いでるんで、これで失礼しますねっ。」
「あ、はい!さ、さようなら!」

美少女は僕に手を振ると、小さなお尻をプリプリさせながら視界から消えて行った。
いやぁ、朝から幸せな体験をさせてもらったものだ。
まさに僕の良い事が起きそうな予感はちょっと的中した。
後はあの子が転校生だったりしたら、まさにビバ僕の妄想である。

「・・ねぇ?」
「な、何?」
「早くしないと遅刻するってこと、忘れてるの?」
「く、そうだった・・!」
「早く行くわよ!」
「あ、ああ。待ってよ!」

呆れた表情の明の後を追うように、僕は教室へ走った。


「おはよー。」
「おっは~!」
「昨日のテレビ見たー?」

朝の挨拶が飛び交う教室。
何故だろうか、今日はいつもよりも騒がしい気がする。
僕は教室に違和感を感じながらも、自分の席に着いた。

「よう、和泉。」

例によって春日に声を掛けられる。
登校→春日登場、というこのパターンは避けられないのだろうか。
いい加減、飽き飽きしてきているのだが。

「ああ、おはよう。」
「なぁ、和泉。知ってるか?」
「何の事かも言わずに、知ってる訳無いだろ。」
「そ、そうだな、悪い。何でも今日ウチのクラスに転校生が来るらしいぜ?」
「こんな中途半端な時期に転校生が?怪しい話だな~。」
「梅雨明けに転校して来たお前が言うなよな。」
「・・そうだったね。」

何事も無かったかのように話が終わろうとした次の瞬間。
僕はとてつもなく、そりゃあもう何よりも大事な事に気づいた。

「春日、今転校生が来るって言ったか!?」
「あぁ、言ったけど・・どうしたよ?」
「どうしたじゃないよ!転校生だよ!外の人だよ!」
「外の人・・って何言ってるんだ、お前・・。」

そう、外の人だ。
この新都町の外の人がここへ来るのだ!
ここから導き出される結論はひとつ。

変人じゃない人間が、ここへ来る!

「うおおぉぉ!やったぁぁぁ!」
「い、和泉、落ち着け!落ち着け!」
「何を!これが落ち着いていられるかぁぁッ!」

ついに、ついに!
新都町に引っ越して以来、変人に囲まれた生活に苦しめられて来たものだ。
生徒の行動から学園行事まで、全て脅威する事ばかりだった。
だが、ついに僕と同じように外の人間がここへ来る!
何と素晴らしい事なのだろう。
きっとその転校生も、変人達に苦労するのだろう。
やっと僕の悩みをわかってくれる人間が現れるのだ。
あぁ、ものすごく転校生と友達になりたい。

「あ、和泉君、おはようございます。」

ハイテンションな僕に声を掛けてきたのは、猫少女ならぬ神無さんだった。

「神無さん、おはよう。ねぇ、聞いた?転校生が来るらしいよ!」

体育祭以降、当然気まずい雰囲気も解消されていた僕らだ。
転校生の話があまりに嬉しく、ついつい登校直後の神無さんにまで報告してしまったぞ畜生。
いきなりハイテンションな僕を前に、神無さんは目をキョトンとさせていた。

「そ、そうなんですか~。和泉君、随分嬉しそうですね。」
「そう?まぁね~。そりゃ転校生だしさ~、あははははは!」

物語開始後、おそらく一番ハイテンションだと思う。
そりゃあ第一話から体育祭が終わるまで、無駄に馬鹿馬鹿しい苦労をして来たのだ。
ここらで僕の喜ぶ展開が来ても悪くはないだろう。
というか、ずっと僕が振り回されるだけだと、皆きっと飽きてしまうさ!
僕が一人馬鹿みたいにワクテカしていると、ついに担任の先生が現れた。
そう、ここでひとつ思い出したのだが。
どうやら神無さん曰く、この先生の名前は栗原悠。
学校一の美人教師で、生徒の間でファンクラブまで出来ているらしい。
これも眼鏡の力なのだろうか?
本当はもっとこの美人眼鏡教師について語りたいのだが、それはまた今度にしておこう。
今大事なのは、転校生なのだ。

「皆、おはよ~。席についてくれる?」

転校生はまだか!
ワクワク、テカテカ!

「え~っと、今日はうちのクラスに転校生が来ることになりました。
 まずは転校生さんから、皆に挨拶をしてもらいますね。
 夕凪さん、入って来て~。」

そういえば僕も梅雨明けには、こういうシチュエーションを経験したっけ。
まぁ、もう昔の事だ。
今はそんなことより、一秒でも早く転校生を拝見したい!

教室のドアがゆっくり開くと、一人の美少女が教室へと姿を現した。
僕はその少女を見て、驚いた。
芸能人かと思える程の整った顔立ち、金髪のツインテール。
胸の辺りに視線を送ると、そこには爆乳。
下半身で目につくのはニーソックス・・・・って、あれ?
どこかで見たようなルックスだが・・さていつだっただろうか?

美少女はゆっくり歩き、教卓に立つと、クラス全体を見渡した。
そして少し照れくさそうな表情をした後、その小さな口を開いた。

「え~っと・・皆さん、初めましてっ。
 寺笑洲から引っ越して来ました、夕凪女衣(ゆうなぎ めい)と言いますっ。
 え~っと・・ど、どうぞよろしくお願いしますっ!」

少し鼻にかかるような甘い声で挨拶を終える。
何だかすっごく最近、この子を見た事あるような気がするのだが。
全く思い出せない・・僕の海馬は大丈夫だろうか。

「すいませーん!質問して良いですか?」

静かな教室に突然響き渡ったのは、他ならぬ桜井明さんの声でした。
何だか前にもこんな事があったような気がする。
とてつもなく嫌な予感がするのは僕だけだろうか?


「えと、夕凪さんは処女ですか?非処女ですか?」


静かな教室はさらなる静けさに包まれた。
やはり僕の予感は的中した。
というか、明は僕に童貞かどうかを聞いてきたが、まさか女の子相手にまでこんな事を聞くとは。

「え・・え・・?」

夕凪さんは思いっきり戸惑っていた。
そりゃあそうだろう、転校初日の挨拶で急に処女かどうかなんて普通は聞かれない。

「う~ん、別に恥ずかしがる事じゃないと思うんで、答えてもらえませんかー?」

笑顔でそんなヒドイ質問をする明を、どうしても僕は許せなかった。
何故、このクラスの奴は誰も明を注意しようと思わないのだろう。
まぁ良い、誰も明に注意しないなら僕がしてやる。
一般人の常識を思い知れ!

「明!」
「な、何よ!?」

僕が叫びながら立ち上がると、明は驚いた表情で振り返る。
いや、何よ!?じゃねえよ。

「転校して来たばかりの人にそんな質問、失礼だとは思わないのか!?」
「な・・何を!べ、別にあんたには関係無いじゃないのよ!」
「関係あろうが無かろうが、そんな失礼な質問してる明が許せないんだよ!」
「う~・・べ、別にあんたに許して欲しいなんて思ってないんだからね!」

そういえば、僕の転校初日は明と春日が喧嘩していたっけ・・。
そしてその光景を見て、変な奴らだなぁ、なんて思っていたのに。
まさか自分がそのポジションに来ることになるなんて、思いもしなかった。


「は・・はにゃ・・」


僕と明の口論に驚いたのか、転校生は突如謎な声を上げた。
はにゃ・・?どこかで聞いたセリフだが、はてどこだったかな。

「あの、新斗さん~・・お気持ちは嬉しいのですが・・。」

何故か僕の名を呼ぶ転校生。
僕はもう一度、美少女転校生に視線を送る。
そして彼女の姿をゆっくり確認すると、僕はひとつのことを思い出した。

朝に廊下でぶつかった少女である。

ビバ、僕の妄想!
まさか朝の妄想が現実のものになるなんて。
あぁ、これも制服パワーなのかい?
神様、ありがとう!!

「あ、今朝の・・。」
「そうですよぅ~。同じクラスみたいですねっ!」
「はは・・あはは。そ、そうみたいだね、え~っと、夕凪さん。」

夕凪さん可愛いよ夕凪さん。
こんな可愛い夕凪さんを苛める明が、とことん許せない。

「はいはい、静かに!」

突如声をあげる栗原先生。
まぁ、流石に教室をまとめたくなる気持ちも僕はわかりますよ。

「これ以上ホームルームを長引かせる訳にはいかないから、夕凪さん。軽く自己紹介でもして終わっちゃって。」
「あ、はぁい~。了解しましたですっ!」

さぁ、一般人の自己紹介が聞けるのだ。
僕は期待に胸を躍らせながら、自己紹介に耳を傾けていた。

「え~っと、さっきの続きですねっ。
 名前は夕凪女衣で、え~っと、寺笑洲出身の十七歳ですっ。
 それから~、趣味は漫画にアニメにゲーム、あと、絵を描くことですっ!
 好きなアニメは~、涼宮ハ○ヒの憂鬱、ぱに○にだっしゅとかが大好きですっ。
 好きなキャラだと・・、やっぱりベ○キーとか、キ○ンの妹とかが好きですっ!」

・・ぁ?
え、何言ってるのこの人?
ついに僕は耳までおかしくなったのかな?
夕凪さんの言っている事が全く理解できないんですけど。

困惑している僕を尻目に、朽木が勢いよく立ち上がった。

「ぐ、偶然だすね、夕凪さん!お、俺もハ○ヒとか、ぱに○にとか大好きなんだすよ!!」
「はにゃ~、そうなんですかぁ?すっごく気が合いますねっ!」
「そ、そうだすね!気が合うだすよ!お、俺は朽木弥生って言うだす!」

朽木、何故か猛烈にアピール。
朽木が自分から女の子に話しかけるなんて・・。
まさか・・。
僕の脳裏を、最悪の事態が過ぎる。

「うみゅ~、朽木君のその持ってるタオル、ネ○まですね~!」
「ぬ、そ、そうだすよ。ゆ、夕凪さん知ってるんだすか?」
「知ってるもなにも、私も大好きなんですよぅ~。とくにア○ナちゃんがっ!」
「む、また気が合うだすね!お、俺もア○ナが一番好きなんだすよ!」

夕凪さんと朽木、意気投合。
もはや間違いない・・。


転校生、夕凪女衣はオタクであるッ!


オタクではない一般人が、これ程の濃い会話が出来るとは思えない。
そもそも一般人なら、朽木の強烈なインパクトに少しぐらい戸惑っても普通なのに。
彼女は戸惑うどころか、笑顔で会話に花を咲かせているではないか。
これではもう、疑いようもない。

「腐女子か・・。」

春日の口から思いもよらない言葉が聞こえた。

「春日、やっぱりそう思うか?」
「そりゃお前、他にどうも思えないだろ?ありゃ間違いなく腐女子だな。」
「・・そうだよな・・。」
「ま、俺は腐女子だろうが何だろうが、おもしろい奴なら問題無いと思うけどな。」
「・・はぁ~。」

思わずため息がこぼれた。
これで、ようやくあの変な口調にも納得がいく。
どうせ何かアニメやゲームの、キャラの影響なのだろう。

「はい、じゃあもう良いわね。夕凪さん、席に着いてくれる?」
「あ、は~いぃ。」
「夕凪さんの席は~・・そうね、和泉君の前が空いてるみたいだから、あそこね。」
「了解しましたですぅ~。」

ちょっと待て。
僕の席は窓際の一番後ろなんだが、どうして僕の前の席が空いている?
誰も転校して行ったりはしていないのに、僕の前の席が空く訳ないじゃないか!!

「諦めろ、和泉。」
「春日・・?」
「物語に合わせて、席は空いたりするものだ・・。」
「また意味不明な事を・・。」

というか、だいたい春日の席は廊下側の列だったはずだ。
どうして今僕の斜め前に居るんだ?
もう無茶苦茶じゃないかッ!

「新斗さん、よろしくお願いしますね~。」

気がつくと僕の目の前には、転校生夕凪女衣、以後腐女子が立ちはだかっていた。

「あぁ、うん。よろしくね。」
「はぁ~いっ。」

腐女子は信じられない程可愛い笑顔で一礼し、席についた。
どうしてこの子は腐女子なんかになってしまったのだろう?
そんなに可愛いのに、実にもったいない。

「じゃあ、授業始めるわよ~。」

授業が始まると、僕は突如とてつもない脱力感に襲われた。
楽しみにしていた転校生は、やっぱり変人だったのだ。
世の中、僕の思うようには行かないみたいだ。
あれだけ期待させといて、この結果はひどいんじゃないのか。
神様、あんたを恨む。

「フンフンフンフン~、あ・い・し・て~るぅ~。」

一人暗いムードになっている僕の耳に聞こえたのは、腐女子が口ずさむアク○リオンの主題歌だった・・。

       

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