Neetel Inside 文芸新都
表紙

和泉新斗物語
第十四話「戦う者達と、散る命」

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僕は、戦場に居る。
広いグラウンドと言う名の戦場にだ。

「うぎゃぁぁぁぁ!!」
「あひぃぃぃぃぃ!!」

様々な叫び声が、断末魔が辺りに響き渡る。
そう、それはしっぽと呼ばれる命を失った者達の悲鳴だ。

新都学園体育祭、しっぽ取り。
それはまさに、地獄と呼ぶのに相応しいものだった。
しっぽを抜かれた生徒は悲鳴をあげ、その場に倒れこむ。
体中を流れる電気ショックは予想以上に高電圧のようだ。

「くっ!」

僕は敵に背後を取られぬよう、青色以外のしっぽを探す。
そしてその対象が男子であろうが、女子であろうが構わない。
自分の命を守るため、我らを勝利に導くためだ。
僕は目の前を泳ぐ黄色いしっぽを─────。

抜く!

相手に気づかれないように背後に回り、しっぽを抜いた。

「いやぁぁぁぁ!」

敵の女子生徒は悲鳴を上げ、その場で失神した。
女子生徒は白目を剥き、泡を吹いて気絶している。

「むごい・・。」

自分のせいでそうなった女子生徒に心の中で謝罪する。
ごめん、僕だってやりたくってやってる訳じゃないから・・。
ただ、自分を守るために・・。

「ごめんね・・!僕は・・僕は自分が一番可愛いから・・!」

溢れる涙を堪え、その場を後にした。

僕は背後に注意したまま、辺りを見渡す。
そう、自分の班のメンバーの無事が気がかりだ。
必死に走りながらもグラウンド中に視線を這わせる。

春日、明、神無さん、朽木。

皆の姿はある。
まだ、四人とも生きているようである。

僕が安堵した次の瞬間。
朽木の背後に、突如赤いしっぽをなびかせた男子生徒が回りこむ。
赤いしっぽ、A組の生徒である。
奴は朽木のしっぽを狙い、手を伸ばす。

「く、朽木君!あぶなっ・・!」

僕は必死に叫び、朽木に危険を知らせようとする。
朽木が僕の声に気づき、背後を振り返った時には遅かった。

「ぬぼぼぼぁぁぁぁぁぁ!!!」

しっぽを抜かれた朽木を、容赦ない電撃が襲う。
朽木は汚い声で悲鳴を上げると、人形の様にその場に横たわった。
さようなら、朽木弥生・・。

「く、朽木ぃぃぃぃぃ!」

友を想う、春日の悲痛な叫びが聞こえた。

「や・・やりやがったな!この野郎ぉぉぉ!」

春日は怒に身を任せ、朽木を葬った男子生徒の元へと猛ダッシュをする。
男子生徒は軽い身のこなしでターンし、春日を回避する。
そして男子生徒はそのまま、春日のしっぽに手を伸ばした。

もう、だめだ。

誰もがそう思ったであろうシーンだった。
僕は春日がその場に崩れる未来を描いていた。

だが!

春日は持ち前の運動神経で、体を回転させながら宙に舞う。

「ば、馬鹿なぁッ!」

男子生徒は呆然としたまま、華麗に宙を舞う春日に瞳を奪われていた。
そのまま空中で体をひねると、流れ落ちる木の葉の様な動きで、男子生徒の背後に着地した。

「・・!」

背後を取られた事に驚愕する男子生徒が我に帰った時。
音も無く、彼のしっぽは春日によってその体から引き離されたのだ。

「ひでぶぅぅぅぅぅ!」

男子生徒は悲鳴と共に、その場に崩れた。
我が目を疑う動きだったが、春日は見事に友人の仇を取ったのだ。
探検部部長春日翼、まさに男である。

僕が春日に視線を奪われていると、春日の表情が突然変わった。

「・・!和泉!!」

春日の叫びは、僕に危険が迫っていることを告げていた。

「・・まさか!」

猛スピードで後ろを振り返った。
するとそこには、春日の幼馴染である、相坂真波の姿があった。
馬鹿な、気配なんて全く感じなかったのに・・。
完璧に油断していた僕は、彼女の攻撃をかわす事が出来なかったのだ。

「ごめんね、和泉君・・。」

彼女はそう言うと、僕の命を引き剥がした。
その瞬間、轟音とも思える音が頭の中に広がり、体全体に衝撃が走った。

「ひょえええぇぇぇぇ!」

僕は情けない悲鳴を上げながら、息絶えた。
彼女の小さな手に握られた、青いしっぽが風になびく様を見つめながら────。



「はうぁっ!」
「うわ、びっくりした!」

僕は目を覚ました。
どうやらクラスの応援席に居るようである。
隣には、看病してくれていたであろう明の姿があった。
そう、僕はしっぽ取りで敗北した時の電気ショックで、意識を失っていた様である。

「ふぅ、やっと起きたわね。」
「ん・・僕、どれぐらい気絶してたの?」
「三十分ぐらいかしら、もうしっぽ取り終わったわよ。」
「はぁ・・そっか。」
「まぁ、無事で良かったじゃない。」

三十分も気絶して、無事と言うのだろうか?

「明、しっぽ取りの結果はどうだったの?」
「制限時間内、春日とあたしと藍ちゃんは逃げ切ったわ。」
「へぇ・・すごいな・・。」
「抜いたしっぽの数も結構多かったみたいで、順位は二位だったわ。」
「二位か・・。」

二位というのは良い結果なのかもしれないが、僕は一位じゃなければ嫌だった。
何故かは解らないのだけれど、今日の体育祭ではどうしても優勝したいのだ。

「現時点で、B組は総合的に何位?」
「それも二位ね、まぁよくやってると思うけど。」
「一位はどこのクラス?」

僕と明がそんな会話をしていると、相坂真波が姿を現した。

「あっ、和泉君~。さっきはごめんねぇ!」

あぁ、そうだった。
しっぽ取りで彼女に倒されたんだっけ。

「え、相坂さんだっけ・・?いや、全然良いよ。競技なんだから仕方無い事だしさ。」
「え~、でも電気ショック痛かったでしょ?マジでゴメンだよ?」

申し訳無さそうに謝ってくるが、どこか真剣味に掛けている。

「相坂さん、わざわざこんな奴に謝らなくても良いのに。」

明は冷たい口調でそんな事を言う。
こんな奴とか、それはちょっとヒドイんじゃないか?

「いやぁ~、やっぱり一応謝っとかなきゃ悪いと思ってー。」

テヘっ、と笑ってみせる相坂さんに殺意を覚えた。
するとそこへ、そっけない春日の声がする。

「真波、お前何でまたここに居るんだよ?」

ジュースでも買いに行っていたのか、春日、朽木、神無さんの三人は、
それぞれジュースを片手に戻って来た。

「あ~、いや。和泉君倒したの私だし。」
「だから何だ?」
「謝りに来たってとこだね。」
「随分お暇なんだなぁ・・。自分のクラスの競技を応援してやらなくていいのか?」
「あはは。別に私が応援しなくても、C組の皆は頑張ってくれるしね。」
「余裕かましてくれちゃって・・。一位の余裕ってやつか?」
「あはっ。まぁ、そんなとこかにゃ?」

二人の会話から察するに、現段階での一位はC組のようだ。

「まーいいや。そろそろ次の競技だから、もう行くねん。」
「ふん・・。次は負けねーからな。」
「あはっ。楽しみにしてるよん、翼。」

可愛い笑顔を残して、相坂さんは自クラスの席へと戻った。
さっきから思っていたのだが、春日の幼馴染には勿体無い気がする。

「さて、俺らもそろそろ行こうぜ。」
「そうね、そろそろ騎馬戦の時間ね。」
「ぬ、ぬん。次は負けないだす。」

僕はまだ万全ではない体を起こすと伸びをし、気合を入れなおした。

「う~っし・・じゃあ行こうか?」

神無さんに向かってそう言うと、彼女は無言のまま、少し微笑んで頷いてくれた。


「次の競技は、騎馬戦~。騎馬戦に参加する生徒はただちにDブロックに集合して下さい~。」

大音量で響くアナウンスの中、僕らはこれから騎馬戦が行われる場所に居た。
今度は一体どんな特殊ルールがあるのだろうか・・。
出来れば、電気ショックよりはレベルの低い物だと嬉しいのだが。

「あ、そうだ。」

春日が突然声を上げた。

「騎馬戦の上に乗るの、誰にするよ?」

そういえば、まだ決まっていなかった。
こんなギリギリになってそんな話が出るなんて、本当に適当である。

「う~ん・・体格的には、明か神無さんってとこだろうね。」

当然、朽木は無理である。
朽木を騎手なんかにしてしまった日には、支える僕らが地獄を見る事になる。
いや、もう地獄を見ている気はするが。

「あたし、上になろっか?」

明が気持ちよく立候補してくる。
言い方がちょっとエロイ。
って、僕は何を考えているんだ!
まぁ、神無さんよりは運動神経が良いし、明が上なら戦えそうな気はする。
だが、僕にはひとつの疑問があった。

「あのさ、明。」
「ん?どうしたの?」
「ちょっと思ったんだけど、また特殊ルールってのがあるとしたら。」
「うん、あるでしょうね。」
「もし特殊ルールがあるなら、騎馬戦だと、ダメージを受けるのは上に乗る騎手じゃないかと思うんだけど。」
「・・確かに。ちょっとプリントよく見てみるわね・・。」

明の表情が曇る。
僕が横からプリントを覗き込むと、そこにはやはり特殊ルールが記されていた。

新都学園、騎馬戦特殊ルール。
しっぽ取りと同じく、騎手に電脳部の制作した特殊なハチマキを装備してもらいます。
敵の騎手にハチマキを取られると、ハチマキ内に設置された爆弾が衝撃に反応して爆破します。
なお、爆弾の威力は大したことはありませんので、心配はご無用です(笑)

いや笑えないし。

ハチマキが爆発するって、普通に考えたら頭に怪我するじゃないか。
いくら新都学園でも、これは限度を超えている。

「な、何だよこの馬鹿馬鹿しいルールは!」

僕は思わず声を上げた。
流石にいくら明でも、女の子をこんなに危険な目にあわせる事はできない。
というか、本来こんな馬鹿げた体育祭は退場しても良いのではないだろうか。

「確かに、爆発はやばそうだな。」

春日は冷静に話すが、流石に明を気遣っているようだ。
良かった、まだ人間の心がお前にも残っていたんだね。

「う~ん、二人供、あたしを心配してくれてるの?」
「当たり前だろ、流石にこりゃヤバイぜ。」
「春日の言う通りだよ、いくら明でもこれは駄目だ。」
「・・いくら明でも、って言い方はちょっと納得いかないけど、心配してくれた事は嬉しいわ。」

明は不機嫌そうにも少し微笑みつつ、体育祭の運営委員より配布された地獄のハチマキを取り出すと、
何事もないかのように、自らの頭に巻いた。

「お、おい!」
「何よ?」
「何よじゃないって!何で明がハチマキ巻くんだよ?僕が巻くよ!」

一瞬困惑した表情を見せた明だった。
・・だが、彼女はもう騎手になって戦う気は満々のようだ。

「はは、心配してくれるのは嬉しいけどさ。和泉君が騎手になっちゃうと、支える方が辛いんじゃない?」
「そ、それはそうかもしれないけど・・。」
「大丈夫よ!要するに、負けなければいいんだからね。」

明はそう言うと悪戯っぽい笑顔で、親指を立ててみせた。

「それと、あんまり藍ちゃんの前であたしを心配するような事、言わないでよね。」

そう僕にこっそり耳打ちをした。
明にそういう事を言われると、どうも複雑な心境になる・・。


「まもなく、騎馬戦を開始します。選手は陣を組み、スタンバイしてください。」

僕らがそんなやり取りを続けていると、騎馬戦開始のアナウンスが始まった。

「あ、ほら始まるわよ。皆、陣組んで!」
「仕方無いな・・。」
「ぬ、ぬ~・・。で、では陣を組むだすよ。」

明に言われるがままに、僕らは陣を組み、彼女を騎手として上に乗せた。
前を支えるのが、僕と春日。
そして後ろを支えるのが神無さんと朽木だ。
・・少し後ろが片側に傾いている気もするが、まぁ大丈夫だろう・・。
非力な神無さんが実に心配だが。

「それでは、騎馬戦開始します~。3,2,1・・。」

アナウンスと同時に、明は僕の服の肩の部分を掴んだ。
そして皆には聞こえないような小さな声で、

「・・しっかり・・支えててよね・・。」

と言った。

「開始!」

僕は小さくうなずくと、開始の合図で走り出した。
まずはグラウンド内を見渡し、他の騎馬の位置を確認する。

「・・和泉。」
「春日、どうしたの?」
「相坂の騎馬は強敵だぞ、なるべく最後に回せ!」
「了解!」

僕はC組の騎馬の位置を確認すると、春日と足並みを揃えて反対方向にいる騎馬へと向かった。
目指すは緑のハチマキを巻いた騎馬、D組の騎馬に狙いを定める。

「明、緑いくよ!?」
「オーケイ、任せて!」

僕らの騎馬は真っ直ぐにD組の騎馬へ向かう。
すると相手の騎馬は僕らの敵意を感じたのか、真っ直ぐに僕らへと突進してきた。

「うおぉぉぉぉ!」

相手の騎手は雄たけびを上げながら、明のハチマキに手を伸ばす。
明は体をひねってそれを回避する。

「あたらなければ、どうという事は無いわ!」

などと意味不明な言葉で相手を挑発する。
再度手を伸ばす相手の騎手のタイミングに合わせ、僕らの騎馬は朽木に重点を置きながら、その場で急ターンした。
そしてそのまま、相手の騎馬の後ろに回りこんで突進する。

「もらった~!」

明は余裕綽々の表情と掛け声で、軽やかに相手の騎手から緑のハチマキを剥がし取った。
するとその瞬間、ハチマキの根元の部分が音を経てて、爆発した。

「うきゃぁぁぁぁ!!」

相手の騎手は悲鳴を上げる。
爆発の衝撃で、相手の騎馬はおもいっきり吹き飛ばされて崩れ去った。

「ちょ・・爆発でけぇよ!」

流石の春日も大慌てである。
どう見ても、相手の騎手は顔面火傷である。
吹き飛ばされた騎手を支えていた騎馬の生徒達も、吹き飛ばされた衝撃で皆血だらけになっている。
どう見ても地獄そのものだ。
こんな風景を見ると、ますます明のハチマキを死守しなければならない。
明以外の僕ら全員も大怪我をする事になってしまうのだから。

しかし、どうしてたかが体育祭に命を懸けなければならないのだろうか?
あぁ、普通の体育祭に参加したかった・・。

「あ、あ・・皆さん!」

神無さんの小さな叫び声が僕らに危険を告げる。
僕らがその場でターンすると、まさに桃色のハチマキの騎馬がこちらへ向かっていた。
桃色のハチマキ、E組の騎馬である。

「来たわね、愚か者!」

何故か明はノリノリで、非常に楽しそうである。
僕らの騎馬は相手の攻撃を避けるように、だが明の攻撃はしやすい位置を探す。
騎馬と騎馬での間合いの取り合いである。
後ろで辛そうにしている神無さんの息がちょっと背中に掛かった気がして、ゾクっとしてしまった。
・・嬉しいハプニングかもしれない。

何て事を考えながら、僕がボーっとしていると、

「和泉!右だぁ!右右ぃ!」

春日の掛け声で目を覚ます。
よく前を見てみると、敵の騎手の攻撃はすぐに眼前まで迫っていた。

「おぉっと!」

僕はとっさに右へと移動し、そのまま騎馬を相手の騎馬の真横に移動させる。
朽木の体重が重いおかげで、うまく騎馬全体をひねることが出来るのだ。
ナイスだ、朽木!こんな場面でお前が役に立つなんて思いもしなかった。

「頂きぃ~!」

明はそう叫ぶと、躊躇無く相手のハチマキを奪った。
またもや騎手の頭部は爆発し、騎馬は吹き飛んで崩れる。

「うあぁ~!」
「いってぇ~・・・。」
「せ、せ、先生!血がぁ・・っ!血がぁぁぁ!」

などと様々に嘆きの声をあげているが、同情している暇は無い。
殺られる前に殺る!
これが新都学園体育祭の掟である。
そう、ここは戦場なのだッ!

二つの騎馬を倒した僕らは、次のターゲットを探す。
ここまでは、どうやら順調なようである。
予定では相坂さんの騎馬を最後に残すため、僕はA組の騎馬を探した。
だが、グラウンド内に赤いハチマキの騎馬の姿は無かった。
その代わり、C組の騎馬の近くで無残な姿となっているA組の生徒達の亡骸があった。
・・あれが、現在トップのC組の実力の様である。
C組の騎馬は、相坂さんを騎手とし、中々手ごわそうな様子だ。

「・・あとは真波の騎馬だけだな。」
「え、あぁ・・そうだね。」
「あいつは手強いぞ?何てったって、マラソン部のエースで体力馬鹿の運動馬鹿だからな。」
「・・マラソン少女・・か。」

いつだったかに聞いた事のあるフレーズである。
ランニングで山を越え、新聞を騒がせていた少女が、今僕らの敵として存在している。
何の事だか忘れた人は、是非とも第一話を読んでもらいたいものである。

「う~ん、手ごわいかもしれないけど、あたしが騎手なんだから大丈夫よ!」

自信満々に微笑む明がとても心配だが、もう僕らと相手の騎馬しか残っていない以上、戦うしかない。
まさに一騎打ちである。

「あ、翼じゃん!後は私んとことそっちだけだね~!」

遠くから楽しそうな相坂さんの声が聞こえる。
随分舐められたものである。
彼女に怪我をさせるのは不本意だが、ここは負ける訳にはいかないというもの。

「春日、彼女と戦えるか?」
「・・無論だ。」
「よし、大丈夫そうだな。」
「ああ、絶対負けねぇ!」

春日の掛け声と共に、明はギュッとハチマキを締めなおす。

「さて、じゃああたし達B組の力見せてやりましょうか!」
「了解!」
「ああ!」
「ぬ、ぬぬ・・オーケイだす!」
「がっ、頑張ります!」

それぞれが気合を入れなおした後、僕らの騎馬は相坂さんの騎馬目掛けて突進した。
この戦いは、絶対負ける訳にはいかないから!
まさに一位と二位、命がけの一騎打ちが今始まったのだ。

       

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Neetsha