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賭博神話ゼブライト
03.自殺麻雀

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 自殺麻雀。
 ラスを食った者が半荘終了時に引き金を引く、それだけの死亡遊戯。
 全五回戦で、さっきは三回戦。一回戦ごとに装填弾丸数を増やしていく。
 それ以外にチップがあり、一発裏ドラにつき一枚(赤ドラなし)。
 役満はツモ十枚オール、ロンは二十枚。
 チップは第一回戦から持ち越し。全員五十枚始まり。
 チップがハコテンになったものはその場でロシアンルーレット。
 現在のチップ状況は、烈香34枚、さくみ(虎縞法被)27枚、シマ21枚、シャガ(赤いシスター)14枚。
「つまらんことを聞くが」
 雨宮はにやにや笑っている。
「死んだやつはどうするんだ。ドブにでも捨てるのか」
「にいちゃんアホやなぁ。負けたやつの金を残った三人で山分けにきまっとるやん」
 パタパタとさくみは竜の絵柄が描かれた扇子を出して顔を仰いだ。野球帽からはみ出した二つに結われた髪がぴょこぴょこ跳ねる。
「ふうん――」
 ちらり、と雨宮はシャガを見やる。
 首筋あたりで切りそろえられたショートヘアのシスターはにっこりと微笑みを返す。
 かえってそれが仮面になっているのだろう、内心が雨宮には読み取れない。これも一種のポーカーフェイス。
「あたしは金なんかいらないけどね――」
「烈香ァ、んな嘘はやめときィや。後々後悔するで? 分け前やらへんぞ?」
「べつに嘘じゃない。あたしが死んだらあんたらであたしをバラせばいい……でもそうじゃなかったら」
 がちゃん、と列香は山を積んだ。
「あたしは、そいつの死だけで満足だ」
 虚勢にしては充実した雰囲気。揺れない眼差し。
 ううむ、と雨宮は唸り、傍らのシマのわき腹を突いた。
「面白い面子だな」
 最高でしょ、とシマはサイコロを振った。
 四回戦の始まりである。




 席順はシマから反時計回りにシャガ、烈香、さくみという順。
「自動卓じゃねえんだな」
「うん、自動卓もあったんだけどね。シャガの持ち物だったから、仕掛けがあるとウザイってさくみんが」
 いつの間にかあだ名で呼ぶような間柄になっていたらしい。
 こいつのなれなれしさは変わらんな、と雨宮は苦笑いを浮かべた。
「それなら手積みのオール伏せ牌、サイコロ二度振りの方がフェアかなって」
「どうでもいいが、シマ、切り番だぜ」
「え? あ、ごめん」
 慌ててシマがヤマに手を伸ばす。この一見すると抜けたような態度に騙されると腕がなくなることを雨宮はよく知っていた。
 だがそれも、かつての雨宮に隙があったからだ。この三人にはそんな小手先のポーズは通用しないだろう。
 現にシマは前回、ラストを喰っている。
 案外、この晩に頭を空っぽにして幸せになるのはシマなのかもしれなかった。
「にいちゃん――」
 うん、なんだい、と雨宮はさくみに愛想のいい笑顔を向けた。
「シマにウチの手ぇ通したら許さへんで。ま、そんなことされたかて負けへんけど」
「安心しろよ、そんなつまらんことはしない。誰もビックリしない手品なんか嫌いさ。誰がこんな頭パープリン女なんかと」
「なんやそうなんか!」さくみの頬にぱっと朱が差した。
「なら話はカンタンや。あんちゃんウチと手ぇ組も?」
 珍しくシマが牌を取りこぼしそうになった。
「何言ってんの! ダメ! それダメ!」
「なんで?」
「うん、いいアイディアだ」
「え、ちょ、雨宮ぁ!?」
 慌てふためくシマの額をばしっと雨宮が叩いた。
「うるせえ。――だが、ま、さくみちゃん、そいつは意味がねえよ」
 さくみはそれまでの快活さを一瞬で失い、無表情になった。
「こいつはどうせ、ツモっちまうのさ」
 気を利かせたセリフのつもりだったが、それきりさくみは雨宮の一切を無視し始めた。
 雨宮は嘆息を漏らさずにはいられない。
 こんな役目は天馬の方が似合いだぜ――。

       

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