Neetel Inside ニートノベル
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 赤坂がぬらりと埠頭の首筋に手を伸ばすと同時に、依代の手刀が赤坂の首筋に放たれ、赤坂は数分間気を失った。
「よい子はまねしないでね!」
「誰に言ってんですか」


 昼食をとる余裕もなく、赤坂はモニタとにらめっこをしていた。
 周りには誰もいない。赤坂を除くメンバ全員が昼食をとるため離席している。この異常事態にのんきなもんだと思ったが、よく考えたら自分でさえ昨日までこの状況を知らなかったのだ。
(上中里さんは一度ヒアリングする必要があるけど、この辺は思い切って依代さんにフォローを任しちゃおう)
 一番まずい状況にあったのが上中里が抱えている案件であったため、まずはそれを優先的に対応する。メンバの中で一番信頼できて、なおかつ作業量に余裕がある依代であれば適任だろう、と赤坂は考える。
(残りは海上さんの分と舞浜さんか……。海上さんの分は私が引き取らざるを得ないとして、舞浜のアホをどうするかよね)
 頭をかきながら管理資料に目を通していると、赤坂はあることに気づいた。進捗管理表に埠頭の名前がないのだ。
(そういえばそうでした。彼女はどの程度働けるのかしら)
以前、依代から埠頭の名前を聞いたときに確認したことがあった。彼女は突発的に休むことが多いため、日をまたぐ作業を振られることが少ないらしい。なんだそりゃ、とそのことを聞いたときは思ったものだが、状況がガラリと変わった現在、当時とは異なる感想を赤坂は抱く。
 赤坂が海上の持っていた資料を漁っていた際、現場にいる各人のスキルシートを発掘することに成功していた。どうやら甲本から受け取っていたものらしい。
 目を通すといろいろな発見があったのだが、一番目を引いたのは埠頭のものだ。経験している言語やDBの種類が尋常ではない多さで、中でもWindowsアプリケーションの開発経験は群を抜いていた。生年月日を見ると同い年のはずなのだが、何をどうすればこのような経歴になるのか赤坂には全くわからない。そもそも彼女は会社にこない人間ではなかったのか。
(ともかく、これを使わない手はないよね)
 博打のような采配だと赤坂は思ったが、なんにせよ方針を決めて動かないと仕方がない。舞浜のフォローは、とりあえず埠頭に頼むことにする。問題があったらまたその時考えよう。また、埠頭自身への作業は、自分にふられているパフォーマンス改善の作業を渡すことにする。この案件自体は短期間で終わるものだから、海上の作業案件を渡すよりはリスクが低いだろう。今日まで会社に来なかった人間に、いきなり海上の抱えていた膨大な量の工数を任せることなどできない。
 スケジュール遅延の対応策については目処が立ったが、新規案件の量も依然課題として残っていた。海上サブリーダ就任時に「なんとかする」と豪語していた案件量であったが、全くなんとかなっていなかった。それどころか、少し増えているんじゃないだろうか。
「ウボァー。もうやだ」
 思わず声に出してしまう。海上パルプンテが虚しくあたりにこだまする程度の予想はしていたが、まさか魔物を呼び寄せてしまうとは思っていなかったのだ。
 作業量とメンバの数を比較し計算してみるが、どうしても二人分のマンパワーが足りない。埠頭が能力通り力を発揮して、作業量が計算できれば、とも思うが、それでもひとり分足りないし、そもそもまだ信頼するに足りない埠頭を戦力として考慮できない。赤坂は、与えられたコマだけで勝負出来そうにない現状に歯噛みする。
(やむを得ない。あんまりこういう事はしたくないけど)
 赤坂は二つ折りの携帯電話をジャキンと開き、電話帳の「糞虫」フォルダからとある番号へ電話をかける。
「もしもし、甲本課長でしょうか」

       

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