Neetel Inside ニートノベル
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 最終電車はとうの昔に出ており、タクシーに乗って帰宅できるほどリッチな豪族でなかった赤坂や埠頭、依代の三人は、始発まで居酒屋で時間を潰すことにした。赤坂がすすめる、肉じゃががうまいらしい隠れ家的な店である。
「隠れ家(笑)」
「スイーツ(笑)」
「うるさいよ!依代さんまでなんですか!」
 疲れからか、アルコールを飲む前から不思議な言動を始めた依代に、赤坂は驚きつつもツッコミを入れた。
 店員の誘導で座席に通されると、堀ごたつに脚を入れるやいなやだらしなく崩れ落ちた埠頭を、依代がたしなめている。赤坂はビールと肉じゃが、その他適当に注文すると、出された水を一気に飲み干した。
「もうやだ!こんな生活」
 赤坂のこの言葉をきっかけに、蓄積した全員分の鬱憤が爆発しようとしていた。
「飲む前にそんなこと言ってたら、飲んだ後どうなっちゃうのかしら」
「ビル爆破して私も爆発する、とか言うんじゃないですか」
「言う言う!あのビルに飛行機三つくらい喰らわしてやりますよ」
「これはもうだめかもわからんね」
「不謹慎!ふきんしん!」
 程なくして、ビールが運ばれてくる。当たり前のように、埠頭が店員に絡みだした。
「おうにーちゃん、お前も飲むんだ」
「いや仕事中ですので、失礼します」
「仕事中とかそんなのはいい。ビールを飲め。話はそれからだ」
「いやお客さん、勘弁してください」
「おい埠頭てめえ、店員様に迷惑かけてんじゃねえ」
 急に斜め上に平行移動した埠頭は、右方向に振り向いたとき、目の据わった赤坂に胸ぐらをつかまれているんだなあ、と思った。
 運ばれてきたビールのうち、赤坂の前に置かれたジョッキは当然のように空いており、埠頭の前にあるジョッキも何故か空いていた。
 全ての光景を目に収めた上で、依代は言った。
「世の中には2種類の人間がいる。酔わせてもいい人間と、生命を賭してでも酔わせてはいけない人間だ」
 アルコールを摂取することなく、赤坂と依代の相手を続けた埠頭は、後にこう語ったという。

 一番辛いのは、連続して徹夜を続けることでもなく、顧客の無茶に付き合うことでもなく、それをやってきたやつの酒の相手をすることだ。

       

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