Neetel Inside 文芸新都
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COLLAPSERS
三、COLLAPSER

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 次の日。
 丹下と篠原の二人は、昨日と同じように南体育館の前にやってきた。途中、篠原の頭髪を先生に注意されて少し遅れてしまったのが良かったのか、バド部の人たちがちょうど集まっているところだった。
「これで全員なんですか?」と篠原は北市に尋ねた。
「うん、まあそうなるね。三年生はもう総体が終わって引退しちゃったから。あ、でも先輩たちもたまに遊びに来るかな。とりあえず、自己紹介でもしとこうか。部長からどうぞ」
 北市はそういうと、百九十センチほどはあるだろうか、ひょろりとした大男の方に手のひらを向けた。
「あー……部長の谷川です。よろしく……」
 谷川は頭を上下に動かしながら、しゃがれた声で言った。
「じゃ、次」
「はい、西口です。今年の三月から幽霊になりました」
 幽霊? 何を言っているのだろうかこの人は、と二人は困惑した。
「ああ、こいつの言ってる事は真に受けない方がいいから」
 北市はそうフォローをした。
「じゃ、最後に」
「……木下です」
 眼鏡をかけた、綺麗に髪を切り揃えた女子が言った。極めて物静かそうな雰囲気を漂わせている。
「これで二年生は全員だね」北市は言った。



「それじゃ、練習でも見る? それとも素振りとか教えようか?」
「あ、じゃあ素振りをちょっと」篠原は答えた。
 ずっと見ているだけなんて退屈にも程がある。それならちょっとでも体を動かした方がいい。彼はそう思った。
「それじゃ、俺も」丹下も彼に追従するかたちで言った。
「運動できる服とかはある?」
 今日一組では体育の授業はあったが、三組ではなかった。なので、丹下は部室から運動着を借りることにした。



「うわ、どれもブカブカだ」
「牛乳飲め、牛乳」
 丹下は部室の中でサイズの合うシャツを探しているが、どれも彼にとっては大きすぎる。とりあえず、その中の一つを彼は着ることにした。
「なあ、これってどういう意味?」
 丹下はシャツの胸の部分を指差して篠原に言った。“COLLAPSER”という文字が大きくプリントされている。
「さあ? COLLAPSEが『崩壊する』『失敗する』っていう意味やから、『挫折人』とか、そんな意味やない?」
 なるほど、挫折人か。いろいろと失敗ばかりして、惰性で高校まで上がってきた自分にとってはぴったりの言葉かもしれない。丹下は思った。
 しかし、こいつなかなか頭が良いな、と彼は篠原に対して感心した。
「ラケットも部室のを借りていいって言われたけど、ぶっ壊れてるのばっかりやな……」
 二人はラケットの墓場から、かろうじて息のある物を手に取った。



 最初に二人はラケットの握り方から教えられた。渡されたラケットと握手するように持つ、と言われたが持ち方は二人ともばらばらだった。北市がお手本を見せながら言った。
「まず足を肩幅くらい開いて、右手に持ったラケットと左手で三角形を作るように構える」
 二人は北市を真似て構えた。
「ラケットを振って、面が頭の上まできたら――いい? ここからが大事だ」
 北市は続けて言う。
「とにかく、嫌な思い出や過去の過ちを思い出すんだ。高校生活への期待と実際に突きつけられた現実を。裏切られたっていう気持ちを。かつての友人との軋轢を。新参者たちの腹の探りあいを。フラストレイションを。『やってしまった』っていう気持ちを。ありとあらゆる蹉跌感の類を。思い出すんだ。そしてそれらをぶち壊すように振り抜く――徹頭徹尾、粉すら残らないように粉々にするんだ」
 二人は息を呑んだ。そして同時にあることを悟った。



 “COLLAPSER”――それはまさに、彼のことを言うのだと。
 いや、彼だけではないはずだ。きっとこの部活の他の人も、みんなそうなのだ。と。


 

       

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