Neetel Inside ニートノベル
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「ったく、無茶させるんだからっ!」
 女は、手ごたえのない目前の敵にただひたすら打撃としかいえなくなってしまった斬撃を叩きつける。
この時、流石に女も苦労して買った剣の事を疎ましく思うほか無かった。
「キュイー」
「っち」
 棍棒でも持ってくればよかった。女はそう思いながらスライム間抜けな声とともに飛び散る粘液を少し受け、急いで後ろに下がる。
「っはぁは……やっぱりバーサクとドレインのダブルはきついか」
 本来、バーサクとドレインを二重がけすることは無い。
「もう体力が残ってやしない」
 余程の馬鹿かネタならわかる。なぜなら、このバーサクは術使用者の防御力、素早さを大幅に下げ、攻撃力に特化させる術なのである。そこに、術使用者の体力を攻撃にのせて相手に与えるドレインまで使っているのだから女の体力の減りは小さな攻撃を受けるだけでも致命傷になりかねない。
 言わば、戦車と戦うというのに紙の装甲をまとって戦うとうな状態なのである。
 故に女はヒットアンドアウェーなどという戦い方を強いられていた。
「いつまでぶつぶつやってんのよ、フェンリルは」
 足止めもままならない。そんな自分にイラつきながらもそう呟き、ちらりと男のほうを見て盗み見て状況を確認する。
 しかし、それがいけなかった。
 ゴポっと聞こえたが先か女が気付いたが先か、スライムの体の一部が膨れ上がり、一気に破裂したのだ。
「やばっ!」
 その破裂、飛散した飛沫はあきらかに女を殺せる速度を伴っていた。
「どけ! 紅葉!」
 避けられない。女がそう思った時だった。術の詠唱を終えたのだろう男が女の名前を叫んだ。
「――ッ」
 反射のようなものだった。女は、聞こえた声で最後の力を振り絞りその場からもつれるようにして飛びのいた。
「闇よ、すべてを燃やせ。『ヘル、ファイヤ!!!!』」
 もはや詠唱というより叫びに等しい大きな声に応えるようにし、男の足元で高速回転していた魔法陣から真っ黒な塊が飛び出した。
 それは一直線にスライムに飛び、そして女を襲っていた飛沫ごとスライムを包み込む。
「キシャァァァアア」
 断末魔とも取れるようなスライムの叫び声を聞きながら、男は力尽きたかのように膝からその場に崩れ落ちる。
「や、やるじゃない」
 少し離れたところで男と同じように地面にへたり込んでいた女は、満身創痍といった体調とは思えないほどまぶしい笑顔を男に向ける。
「お、お前こそな!」
 男はやっぱり頬を赤らめながらも親指をぐっと立て、はにかむようにして笑う。
 二人は、轟々と上がる漆黒の炎を背にふらふらしながらも何とか立ち上がり、千鳥足で歩み寄り二人で向かい合う。
「よし、帰るか」
「そうね」
 二人はボロボロになりながらもやりきったという満足げな表情でお互いの肩を貸し合い、その場を離れようと一歩を踏み出した。

       

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