「いやね、今あなた方が戦っていたアレ。アレのレアドロップを私は探しているんですよ」
「は、はぁ」
 自分達の苦戦した敵をアレ扱いし、しかも指でちょんちょんと指すだけのダークエルフに男はただ呆れたような声を出す事しかできなかった。
「そこで物は相談なんですけどね。アレ、私が“いただいても”よろしいですか?」
「え?」
 男はダークエルフの言葉からは嘘を感じることを二人は出来なかった。つまりはだ、このダークエルフは本気で思っているのだ。自分達が倒せなかったあいつを、いただいてもいいか。だなんて、まるでそこのパンをもらっても良いかと聞くくらい軽く言ってのけたのだ。
「わかりました。俺たちも少しだけサポートなら――」
「あ、いいですよ。お二人は休んでいても」
 提案を一蹴され、またしても混乱する男をフォローするように今度は女が前に出た。
「あ、あいつには斬撃はおろか打撃すら通用しなかったんですよ? 私たちが力を貸したほうが……」
「だから、ゆっくりお休みください」
 そういってダークエルフは振り返り、二人の提案を両断し笑顔を見せた。
「で、でも」
 二人は信じれなかった。打撃は無効化、そして男のレベルでは持て余すほどの強力な魔法を叩き込んでもびくともしなかったあの化物を一人で良いだなんていうこのダークエルフの事が。
 本来、種族には適材適所というものがある。ドワーフは力仕事、ゾンビは生存性の特化、フェアリーは自然との対話、ヒューマンは万能だがどの種族にも力は満たない。代表的にはこうだが、ほかにも種族なんてものはたくさんある。
 しかし、今男の目前にいたダークエルフのように大剣を片手で振ろうとするものはいなかった。
「っしょっと」
 ダークエルフがそう言うと、男たちを守っていた剣が一瞬にして消え去り、冗談のようなブンという鈍い音が響いた。
「ちぇっ、またドロップなしか」
 一閃。ただ一閃だった。技も工夫も魔法の加護も何も無い、ただぶっきらぼうな一閃でスライムはその命を絶たれてた。
「嘘、でしょ?」
 女が驚くのも無理は無い。なぜなら、多種多様な種族の中、エルフの能力と言えば今このダークエルフが見せた剛力とは真逆、魔法の特化だからだ。しかも、エルフといえば総じて運動が得意ではない。というのが一般のイメージである。
「じゃ、私はこれで」
「あ、え、あ、ま、待ってください」
 何事もなかったかのように去って行こうとしたダークエルフを女はつい呼び止めてしまう。
「なんです?」
「お、お名前を……」
「名前? そんなに大したもんじゃないよ」
 おどおどと聞いた女に対して、ダークエルフは恥ずかしそうに頬をかいた。
「い、いえ、ぜひ!」
「あーうん。鉄(くろがね)っていうんだ」
 女の勢いに負けたのか、鉄と名乗ったダークエルフは少し困ったように頭をかいていた。
「鉄さん……」
 女は、鉄の名前を反芻(はんすう)するようにして呟く。
「じゃ」
 そういって鉄は二人に背を向け離れていく。
「い、いつかお礼はきっとします!」
「ありがとうございました!」
 二人の感謝を背中に受けながらも、鉄はぶっきらぼうに手を振っただけでふらふらと次なる獲物を探して歩き始めるのだった。
「ククク……」
 鉄、その名前の通りに冷静沈着にして情熱家。ダークエルフにしてファイター。勿論魔法も使えるが、剣が気に入ったという理由だけで使い続ける一匹狼。クールアンドタフネス。まさにそんな呼び名がふさわしい男。
「ハハハ! 人助けしちゃったよ」
 それが鉄だった。
「哲朗(てつろう)! もうご飯の時間よ」
 ただし、それはネットの中の話しだった。