Neetel Inside ニートノベル
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ガンダム・ザ・クロスオーバー
第三話「その名はΖ」

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 コーラサワー達がガンダムとそのパイロット、アムロ・レイを鹵獲したことによりAEUでは緊急会議が開かれていた。
 各国の代表、軍の将官たちが集まって円卓を囲んでいる。上座、下座のない円卓を取り囲んでいるのは彼らが協議制による共同体をとっているからである。
 一人の男、老齢の議員が声高にガンダム鹵獲事実の発表とパイロットの処刑式の敢行を呼びかけている。というのも、孫が生まれたばかりの娘夫婦をCBのせいで失ったという個人的な事情があるからであった。
「ギロチンにでもかけてやればいいのだ! テロリストどもがっ」
 当然、彼の過激な発言には非難、抗議の声が飛ぶ。
「そんなことは世論が許さない!」
「そうだ! 中世の王国家ではないのだ!」
「報復を受けたらどうする! たかだか兵器一つで国を失う可能性もあるのだ」
「その一国をも滅ぼし得るガンダムを手中に収めたのだ。有効利用すべきと言っている!」
 なにもガンダムに苦しめられているのはAEUだけではない。ユニオン、人革連、両国も同じようにCBには手も足もでない状況であった。
 その中でガンダムを鹵獲したという事実は使いようによっては大きなカードになる。特に軌道エレベーター建設で遅れをとっているAEUにとってはなおさらのことだ。
 鹵獲したという事実さえあればその中身がどうであろうと他二国の上にたつことができるであろう。
 しかし、これを発表すればCBからの報復を受ける可能性を否めない。ガンダムを実力でくだしたわけではないのだから、そういうことをされれば無様な醜態を晒す結果になるだろう。
 白熱する議論をひとり冷静に見つめる若い男がいた。国民から多くの支持を得て当選した新進の議員である。
 その若い男のもとに部下が寄ってきて、何かを耳打ちした。若い男は目を見開いて、部下のほうを見やる。本当か、と確かめたのだ。それを受けて部下は頷いた。
 若い議員は腕組みをして、今聞かされた事実を思案する。
 彼は立ち上がると、手を叩いた。その場の全員がその音に反応して彼に視線を向けた。注目が十分に集まったことを確認するように場の全体を見渡し、ゆっくりと喋りだした。
「確かにみなさんのおっしゃることはもっともなことです。ガンダムという大きなカードを我々は手に入れた。
 ギロチンは行き過ぎにしても、そのパイロットを処刑することで家族、友人、恋人を失った多くの国民たちに対して示しはつきましょう。
 外を見てもCBに四苦八苦する二国に対してガンダムを手に入れたという事実は大きな力を持ちましょう。が。
 が、です。
 それは初めだからこそ絶大な効果があるものだとは思いませんか?」
「何が言いたい!」
 そう大きな声をあげたのは先程の老齢の議員であった。
「我々がジョーカーという切札をどう切るか考えているあいだにそのカードはジョーカーではなくなったということです」
「具体的に言え!」
「人革連が『自国』のガンダムを用いて、CBのガンダムを撃退しました」
 若い議員のその言葉に会場はざわつく。
 若い議員が指を鳴らすと、天井から巨大スクリーンが降りてきて、そこにニュースが映しだされる。
 CBのオレンジ色の機体、キュリオスと呼称されるそれが、別のガンダムと戦闘をしていた。
 独特の顔を持ったそのガンダムはキュリオスが飛行形態で戦線を離脱しようとしたところを同じく変形して戦闘に持ち込んでいた。
 そのガンダムはニュースの中でこう呼称されている。Ζガンダム、と。
 全世界に向けて発信されているこのニュース映像は人革連が世界で初めてガンダムを使用したという事実を証明するものであった。
 そのことが多くの議員、軍人たちから言葉を奪った。彼らがいまガンダム鹵獲を発表してもそれは後追い、二番煎じほどの効果しか持たなくなったということである。
「人革連はこのニュース上では自ら開発したと言ってはいますが、それはおそらく、いや、確実に嘘でしょう。どうやって彼らがガンダムを手に入れたかは私の部下に調べさせています」
 若い議員の言葉に反応して、まわりの議員たちも部下をはしらせはじめた。それはAEU内での発言力を得るためである。しかし、この場では若い議員の声が最も大きくなっていた。
「どうでしょう。二番目とはいえ、最後よりはましですから、今すぐその事実を発表するというのは。
 人革連が開発と言い切っていますし、我々も開発路線でいきましょう。完成したのはだいぶ前、どれくらいかと言えば人革連よりもということで。具体的には調べがついてから。
 完成したのは我々が先であったが、お披露目の機会に恵まれなかったということで。幼稚ではありますが、そういうところに人間は敏感ですから。ねえ。
 同時に模擬戦でもやりましょうか、いつかのように。イナクト相手に圧倒すれば宣伝にもなりましょう。もちろんCBへのですが」
 CBを呼びこんで人革連と同等のことをしようという魂胆である。
 しかし、鹵獲したガンダムは操縦系が既存のものと大きく違い、技術的にも解析できないものが多く、それを動かせそうなパイロットはAEUにはいなかった。
 こういう反論があがる。
「いるでしょう。一人。アムロ・レイ……とか言いましたか、彼にやらせればいいでしょう」

       

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