Neetel Inside ニートノベル
表紙

俺の見つけた不思議なカメラ
03

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 03

 デジタル媒体の利点は、いくらでもコピーが出来るところにあります。
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 ※但し、あなたの国の法律に反しないよう、ご注意ください。

 04

 ファミレスに入ってから、彼は彼女の事情を聞いた。どうやら彼女の父親は、リストラの憂き目に会ったらしい。まぁ、ありがちである。家族を養えなくなった父親は絶望し、母親と共に自ら命を絶った、そういうことらしい。普段から二人の夫婦仲は健全を極めており、おしどり夫婦もなんその、であったそうだ。
「多分それが、裏目に出たんでしょう」
 赤田は彼女の話をとにかく受身で聞き続けた。昔なにかの雑誌で、女性は人との会話の中で自らの問題を解決していくという話を見たことがあったからだ。どうやらその手法は正しかったらしく、彼女は段々と落ち着きを取り戻して行った。
「私、家を飛び出しちゃって、そのままずっとふらふらしてて……」
 昨日学校から帰ってきて両親の首吊り死体を見た彼女は、気が動転してしまいそのまま家を飛び出した。そして自分も両親の後を追おうという考えに行き着き、先程の踏切突入に至ったそうである。なんとも親思いな彼女に、赤田はすこし心が震える気がした。そして、最近感動してないな、と思った。
「と言うことは、家はそのままなんですね?」
「えぇ」
 この場合、警察はどういう対応を取るのだろう、と彼は考えた。少なくとも数日後にご近所さんが異臭に気付いて警察に通報するのは間違いない。だが、この目の前にいる彼女はどうなるのだろう。やはり親戚に引き取られると言うのがセオリーだろうか、と思案してみる。
「えっと、この後はどうするつもりなんですか」
 言ってから、彼は今ここでそれを聞いてもしょうがないとは思ったが、それでも聞かないわけにはいかなかった。何しろ、そろそろ家に帰らなくてはならない。夕食が彼を待っているのである。
「えっ……と、死ぬつもりだったんで、考えてませんでした」
(ですよね……)
 手元にあったドリアを口に運びながら、彼はわびしい顔でそうですか、と言った。だったらどうだというのだろう。まったく世の中は無常だらけである。ちなみに目の前の彼女はドリアに口をつけていない。なんだかとても勿体無い。
「えっと……その、しばらく家に泊めてもらってもいいでしょうか? 私、お金も持ってないし、家に帰るわけにもいかないし……」
 確かにそうだ。首吊り死体が待っている家に帰りたいなんて思う人間がいるわけがない。怖すぎる。
「図々しいですよね。助けてもらっただけでも、ありがたいのに」
 そう言って、彼女はうなだれた。赤田はとりあえず、はやくドリアを食べて欲しかった。ちなみに彼のおごりである
「いやいや、そんなことないです」
 まぁ、図々しいですかと言われたら、こう言ってしまうのが日本人だろう。もしここがアメリカなら彼女はどうなってしまったのだろうか、と考えながら、彼は言う。
「いい考えがあります」
 彼はポケットから電子端末を取り出した。今日はこれにお世話になりっぱなしである。そしてこれからもお世話になっていくのだろう。そう思ったら、なんだか大切にしなくちゃいけない気がして、彼はそれを少しさすった。
「見ててください」
 目の前にある、手のつけられていないドリアに焦点を合わせてボタンを押す。カシャリと音がして、例に漏れずドリアは消えた。
「えっ!? 消えちゃいましたよ」
 彼女は一瞬何が起こったの分からない顔をしていたが、すぐに人並みのリアクションを起こす。そしてドリアがあった空間を手で探ってみるが、ただ空を切るだけであった。赤田は画面の中のドリアを彼女に見せる。
「この中にあります。今、ドリアはこの中にあるんです。これは帰ってから食べましょう」
 少し冷めてるかもしれないけど、まぁ、電子レンジでも使って温めればOKでしょうと付け加えて、彼は端末をポケットにしまう。
「実は、さっきあなたを助けるのにも、これを使ったんです」
「えっ、すごい」
 そりゃぁ、すごいよ。びっくりだよね、と彼は彼女の反応に十分な共感を示しつつ、ある提案を持ち出す。
「とりあえず、しばらくはこの中であなたをかくまって――――あ、親戚の方とかはいるんですか?」
 そういえば聞いていなかったので、確認はしておこうと彼は思った。
「はい……ただ、地方に住んでいるので、連絡しても明日以降にしか来れないと思います」
 それを聞いて、赤田は胸をなでおろす。
「それならよかった。じゃぁ、とりあえず親戚の方に連絡してもらって、こっち来るまでは僕の家に泊ってくっださい」
「えっ、いいんですか?」
 彼女は意外そうな顔をした。
「迷惑じゃないんですか?」
「困ったときはお互い様、ですよ」
 赤田は今、紳士を演じていた。彼は思った。自分は今、立派な日本紳士であると。
「よろしくお願いします」
 二人はテーブル越しに固く握手をした。
「あっ、僕赤田っていいます。よろしく」
「私、月村っていいます。ほんとに、助けてもらってありがとうございました」
 こうして、赤田は月村に出会い、数日共に生活することになったのであった。

       

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