Neetel Inside 文芸新都
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言うならば、僕はモテたことなんてないし、ごくごく普通の中学生だ。

オンナに告白なんてされたことはないし、告白したこともない。
「恋」とか「好き」なんて
そんな話をするのもされるのも、なんだかピンとこない。
同級生のませた連中は、やれ誰が誰を好きだの、
誰と誰はキス以上のことをしているだの騒ぎ立てるけれど、
僕はケラケラ笑うだけで、内心はどうとも思っちゃいない。

あれだ、サッカーなんてしたことないのに、
ワールドカップだけは熱心に観戦する。あんな感じ。

「よぉ、ミツル。朝から元気ないじゃん。」
リュウちゃんが、今にも壊れそうなスカスカの木が作られた下駄箱から
上履きを乱暴に取りだし、床にパコンと叩きつけた。
「別に。お前こそなんかイラついてんの?上履きは大切にしろよ?うん」
リュウちゃんは口だけで笑い、僕をどろりとした目で見た。

よく見ると、学ランの下がパジャマだ。
だっさい字体で「ROCK」というロゴの入った、
首元がクタクタのTシャツ。

いつもは女ウケを気にしてバッチリ赤のTシャツを着るリュウちゃんなのに。
さらに見ると、茶髪の頭はセットされてないし、
いつもしているスカルのシルバーリングも、ない。

泣いたな、コイツ。
何があったのだろう。

「あれ?目ぇ腫れてますけど?」
わざとイヤな言い方をしてしまうのは、僕の悪い癖だ。

「なんだよ。何が言いてぇんだよ。」
少しだけ、リュウちゃんの怒りのボルテージを上げてしまったようだ。

「なんかヤなことあったのかよ。」
「ねーよ。」
「なんだよ。だって今日のリュウちゃん、おっかしーよ。」
ヘラヘラしている僕についてにリュウちゃんがキレたらしく
「関係ねーよ。お前横歩くな」
と言われてしまった。

不機嫌になるともうどうしようもないリュウちゃんと離れて、
僕は少し遅れて教室に入った。

     

いつも登校するのがいっとう遅い僕たち二人は、
グループごとに、すでに話が盛り上がりきっている中を
誰かに挨拶されるかどうかという不安とともに、くぐっていく。

この気まずさを覚えるたびに「明日から学校早く来よう」
と思うが、翌朝アラームが鳴る瞬間に、
その決意はなくなってしまう。

「おう。リュウちゃん、ミツル。おはよ」
この日は挨拶があった。

身長は低いが、色白で、整った顔立ちをしている、
ハルキだ。

「おう。今日あっちーな。マジねえよ」
「窓開けてんのに、このクラスうるさすぎて、
 全然意味ねえのよ。熱気がこもってるっつーかさあ」

ハルキははじめ僕の話に付き合っていたが、
黙ってまっすぐ席へ向かい、音を立てて椅子に座ったリュウちゃんに、
すぐに注意が行ってしまったようだ。

「あれ。リュウちゃん機嫌悪い感じ?」
「ああ。なんかあったみたいよ。」

ハルキは面倒見のいい奴なので、すぐに
目の前にいる僕をひょうと避けて、リュウちゃんの席に向かった。

「おはよ。リュウちゃん、なんかあった?」
「ハルキか。いやあ、ちょっとやべえことになっててよお。」

怒るか落ち込むとすぐに黙りこくるクールなリュウちゃんだが、
ハルキにだけは心を開く。
さすが、小学4年からずっと同じクラスなだけある。

ハルキをリュウちゃんに取られて居場所をなくした僕は、
二人のどんよりとした空気の中へ、勇猛果敢に飛び込んだ。

リュウちゃんの席の前にハルキが座り、
僕は向かって右の席へ腰かけた。
僕が近くに来たのに気づいたリュウちゃんは、
一瞬だけ僕を見やり、またすぐ視線を机に落とした。

「マジ意味わかんねえんだよ。
 今日、ここ来る途中、カイコーの女に
 睨まれたり、軽くアトつけられたり・・・」

カイコー。海原高等学校。
進学校だが、見た目はヤバそうな連中が揃った
県内屈指の「荒れた高校」だ。

「げえ!マジにやべえじゃんそれ。
 リュウちゃん、なんかやらかしたわけ?」

ハルキが本当に心配しているそぶりで身を乗り出した。

「するわけねーじゃんよ。だから意味わかんねえっつってんだろ」

リュウちゃんが深くため息をつくとほぼ同時に、予鈴が鳴った。

       

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