Neetel Inside ニートノベル
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短編(フジサワ)
ある日職場で「目つきが悪い」と言われた後、友人と居酒屋で。

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ある日職場で「目つきが悪い」と言われた後、友人と居酒屋で。


 そう言われても、どうしたら良いんだと思う。正直教えて欲しい。
 人を中傷――言った人は中傷だなんて思っていないかもしれないが、そんなことはこの
際あまり関係ない――することは人の性だと思うんだ。誰しも意図して、或いは自然と、
人のどこかを悪く言う。人を傷つけている間、自分は傷つかない。いつか自分が傷つくこ
ともあるかもしれないのに、そこからは目を背けている。いつまでも向き合って考えてい
ると心の奥底から参りそうになってしまうことが人生にはあまりに多すぎる。
 だからこそ誰のことも悪く言わない人はやたら好かれる。八方美人と思う人もいるかも
しれないが、そこはまあ、色々ひねくれてるのもいるし。個人的には聖人だと思う。自分
はそうなれない、という意味で。
「目つきが悪い」と言われたことは、素直に認めるしかない。打ちのめされることも別に
なかった。あー、まあ、そうだね、と答えた。
 ただそれを指摘することに何の意味があるかが分からない。整形でもすればいいのか?
 目つきは子供の頃から良くはなかった。そのせいなのか知らないが同じことをしていて
も俺だけ廊下にバケツ持たされて立たせられたりした。
 昭和か、と思うかもしれないけど、これ平成の話だ。
 それはまあいいけど、とにかく、もって生まれたものだとは言いたい。拡声器でもカラ
オケのマイクでもスカイプでもツイッターでも何でもいいけど、主張しておきたいと思う。
 勝手にすればいい? うんそうだね。でもその指摘何も産まない。とはいえ、俺も他人
には同じ様に言うだろうな……勝手にすればいいんじゃない? と。それ以外に言葉が浮
かんでこない。
 他人に対して無関心になろうと思えばいくらでもなれる気がするのに、どうして駄目な
んだろうと思うと、答えは一つしか考えつかなくて、それはやっぱり「他人が自分に絡ん
でくるから」だ。目には目を、歯には歯を。関心には関心を。中傷には中傷を。賞賛には
謙虚さを。
 人は一方通行のままじゃいられないということか。アダムがイヴのどこかを中傷したの
か。この貧乳、とか、お前の穴小さくて入んねぇんだよ、とかか。それにイブが怒って。
お前が太すぎんだよみじけぇくせに、とか。そこから歪んだ人間の心の触れ合いが始まっ
たのか、そうか。
「目つきが悪い」と言われて、まず最初に頭に浮かんだ言葉が「お前だって陰毛みたいな
髪の毛しやがって」だった。あんまり汚いので思うだけにしたけど、これは我ながら良い
判断だったと思う。こっちが我慢すれば、とりあえず話はそこで終わる。
 でも、こうしてはけ口探して垂れ流してやらないと、心にたまってっていつかおかしく
なっちゃうんで。こんな下らないことでも、溜まり溜まればうつ病の原因の一つくらいに
はなるかもしれないじゃないか。
 でも、お前もこんな愚痴聞いて、美味くもない酒飲んで五千円とか失うのは嫌だよな。
そんなことない? そんなことないだろ。どうすればこの負のスパイラルから逃れられる
のか……何かいい方法はないもんかな。
 ――え、いやー、それはちょっとキツくね? いやいける? ホントかよ。


「よう吉田、今日も朝から不機嫌そうな目つきだな!」
 出社後すぐに陰毛頭が挑発的な挨拶をかましてきた。本人はそれが陽気だと思い込んで
いそうだからタチが悪い。いつもなら歯には歯を、といくところだ。奴もそういう反応が
来る、と心のなかで思っているはず。
 その常識をぶち壊す。
「おはよう近田。今日もブラジル人みたいな髪型が個性を引き立ててんな」
 言えた。会心の切り返し。特徴的な髪型を中傷せずに、良い個性として認識しているぞ、
と伝えられたはず。さあどうだ。
「…え、個性? 何、気持ち悪ィ!」
 さあ、この先はどうしよう? あいつもそこまでは教えてくれなかった。

       

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