Neetel Inside ニートノベル
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 目を覚ますと、やっぱりだいぶ気分はよくなっていた。
「あ、起きた?」
 あれ、保健の先生が帰ってきてる。
 30代後半ぐらいかな?そこまで若くはないけど、姿勢がいい。背筋がとってもピンとしている。
「大丈夫ー? 3時間目が終わるまで寝ててもいいからね」
 時計を見ると、あと10分ほど3時間目は残っていた。
「大丈夫です。だいぶ気分よくなったんで」
 ベッドから起き上がり、上靴を履く。
 シャトルランの音がまだ聞こえてくる。102回目か、凄いな。
 僕もあれぐらいできたらいいのに。
「はいじゃあカード書くから、名前とクラス教えて」
 この学校では、保健室を利用すると利用カードってものを渡される。
 なんだか図書室みたいだけど、これを担任に渡さないと欠席扱いになるらしい。難儀だ。
「戸田淳平、クラスは1年2組です」
「とだ……じゅんぺいはどう書くの?」
「えーっと、さんずいに……なんだろ」
「あ、さんずいね。これ?」
 一旦ボールペンを置いて、シャーペンで書かれた字は……『潤』だ。
「それじゃないです」
「あら。じゃあ他にさんずいの付く『じゅん』っていうと……」
「こうでしょ?」
 悩んでいる先生の隣から、あの子がペンを取るとさらさらと書いていく。おお正解。
「これです」
「あーこれね。全然出てこなかったわーごめんなさい。
そうか、2組ってことは奈美ちゃんと同じクラスだもんね。分かって当然か」
「……同じクラス?」
 そんな馬鹿な。気づかないはずがないぞこんなでかいの。
 いや待てよ。確か今、奈美ちゃんって呼んだな。
ってことは、
「今西……奈美?」
「そう、だけど」
うちのクラスの出席番号の1番で、入学式からの不登校。
担任の妹尾先生が毎回「今西奈美、は……欠席」と言っているから、なんとはなしに名前を覚えてしまったけど、現物を見たことはなかった。
こんなにでかかったのか。
「えーっと、よろしくお願いします」
 何故か頭を下げてしまった。
「あ、はいこちらこそ」
 今西も返してくる。
 …………なんだこの空気。
「はい、カード」
 くすくす笑いながら、先生がカードを手渡してくれる。
「どうする?もう帰って着替えとく?」
「あー、いいです鳴るまでいます」
 先に着替えちゃうと、みんながわいわい着替えてる中で、なんか気まずいのだ。
 あと4分。なんとなく、時計を見てチャイムが鳴るのを待つ。
「……座れ、ば?」
 今西が声をかけてくる。
 確かに、椅子はひとつ空いている。けど、今西が座っている椅子と割と近いのだ。
 でも、
「いや、いいわ。このまま立ってる」
 そこに座るってのは、ちょっと気恥ずかしい。
 別に教室では普通に女子と隣に座ってるし、今更気にすることでもないんだろうけど……なんか、ね。
「さっきまで寝てたのに?」
「……座ります」
 椅子を引き寄せて、少し距離を取って座る。
 誰も喋らなくて、先生が何かの書類をめくる音だけが部屋に響く。
 これが破られるまで、あと1分、50秒、40秒、30秒、20秒、10秒、5、4、3、2、1、0……10秒後。
 ちょっと遅れているみたいで、21秒後にチャイムが鳴った。
 外がわっと騒がしくなる。
「じゃ、戻ります。ありがとうございました」
「はーい。お大事に」
「……お大事に」
 二人の声を背に、僕は保健室を出た。

       

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