Neetel Inside ニートノベル
表紙

越えられない彼女
迫り来る夏

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 いきなり体にビクッという衝撃が来て、僕の目が覚めた。
「あ、起きたー?」
 軽く頭を振って、机に突っ伏していた体を起こす。
「あー、どんぐらい寝てた?」
「10分ぐらいだけど」
「そんだけなのか……」
 感覚的には1時間ぐらい寝た気分なんだけど。
「そんなにプールではしゃいだのー?」
「ちょ、髪触るな」
 僕の頭に手を乗せてがしゃがしゃとかき回そうとしてくる今西を、頭を振って掃う。
 7月に入ってからはようやく晴れるようになってきて、プールの授業もやる回数が増えた。
 で、木曜は5時間目が体育で、しかもそのまま下校。
 当然、プール後のあのなんとも言えない気だるさというか眠気を背負って保健室に来るわけで、まあつい寝ちゃうわけだ。
 田原先生は「ベッドで寝ればいいのに」って言ってくれるけど、この眠気はなんというかそういうものじゃない。
 ぐったりと、力尽きるようにして寝るから気持ちがいいんだよな。
 と、そういえば。
「田原先生は?」
 いつの間にか姿が見当たらなくなっている。
「どっか行っちゃった。『部活見てくるから』って言ってたから、割と長く帰ってこないパターンだと思う」
「あー、最近暑いもんなー」
 この時期は熱射病が危ないとかで、最近はそう言って出て行くことが多くなっている。
 外は太陽がガンガン照っていて、そんな所にわざわざ行くのは凄いと思う。
「暑いよねー。いいなー、泳ぐの楽しそう」
「んー、まあね」
 確かに半分以上遊んでいいようなものだし、楽しいといえば楽しい。
 ただ、楽しみというものは他にもあるわけで。
 僕が見た限りだと、身長が高い人はまあそこそこ見れるだけのものを持っているというのが興味深い。
 うん、身長の高い人は……。
「な、なんで人をじろじろ見だした」
 まあ例外もあるということで。
 というか今西は上に伸びることに全てを使い果たしてしまったんだろう。
「そしてなぜ頷いた」
「いや、今西はでかいなーと思って」
「うー、割と気にしてたりしてなかったりするんだけど」
「いいじゃん大きいの」
 僕は今まで背の順だと真ん中かそれより前だったから、後ろのほうに憧れがある。
 体育で整列して前倣えの時に、手を伸ばしてみたいもんだ。
「それにしたって限度があるー。というかちっちゃくなりたーい」
「僕は小さいよりかは大きいのが好きだけどなー」
 いろんな意味で。
「えっ」
 固まる今西。なんだどうした。
 何かを考えているのか、目が泳いでいる。
「おーいどしたー」
「……うー」
「うわ、ちょ」
 また頭をガシガシやられる。しかも今度はかなり痛い。
「戸田くん!」
「なんだよー!」
「あたしは、ちっちゃい方が好きだ!」
「それがどうしたんだよ! 離せよ!」
「断る! もうちょっとやらせろ!」
 逃げようとするけど、半分鷲掴むようにされてどうしようもない。
 仕方がないのでずっとそのままにしていると、手付きが変わってきているのを感じた。
 なんか少しずつ頭を撫でるような感じになっている。
「どういうこと?」
 頭の自由が利くようになったので、今西のほうを向いて聞いてみる。
「ん、いやなんでも」
 なぜか今西はすごくいい笑顔になっている。本当にどういうことなんだ。
「というかこれいつまで続く?」
「んー、もうちょい」
 つまり、まだ離す気はないと。
 さて、今なら抜け出そうと思えば抜け出せるな。
 ……んー。
 まあ、いっか。たまには。
 万一逃げようとしてまた掴まれたら、嫌だしね。
 肩の力を少し抜いて、大人しく撫でられるがままにする。
 なんか気恥ずかしいので、今西には背を向けて。

       

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