Neetel Inside ニートノベル
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 それから、嵐のようにこの週は過ぎて。
 土日を挟んだら何か変わるんじゃないかと思っていたら、やっぱり何も変わらなかった。
 今日も今日とて韮瀬は僕の彼女扱いだし、逆も然り。何かするたび視線が痛い。
 と、いうことで。
 2時間目の最中、妹尾先生の声を聞き流しながら(後で今西とやればいいよね)次絡まれたらガツンと否定することに決めた。
 思えば、なんだかんだで僕も韮瀬も否定の仕方が甘かったような気がする。
 特に韮瀬はなんか妙に力が入らない感じでよろしくない。普段のパワーはどこへ行った。
 あ、でもここ1ヶ月ぐらいは前より威勢よくなかった気もするな。
 どちらかと言えば最近のトレンド、は違うな。なんて言ったらいいのかな。
 ……まあいいや。うっさいのは近本さんって印象が強い。
 静かなら静かでいいけど、なんか最初の頃は男子によく突っかかってた印象があるからか、校外学習のときのせいかなんとなく静かな韮瀬というのはしっくり来ない。
 というか今はうるさくないと困る。
 なんで韮瀬はもっと頑張らないのか。この状況を打破したいのは同じだろうに。
 つまりもしかして僕のことが、いやいやいや。
 流石にそれはないだろー。ないよねー。よねー?
 思わず、視線を最近はご無沙汰だった右方向へとちらり。2秒ほど眺めて、すぐに戻す。
 うんまあ、別に悪くはないのだ韮瀬。アリかナシかで言えばアリアリだ。
 それに正直、もうここまでなったんなら別に付き合っても恥ずかしいとかないんじゃ――――いかんいかん落ち着け。
 なぜ今韮瀬が僕を好きな前提でしばらく話を進めた。馬鹿か。
 そもそも僕が韮瀬に好かれる心当たりがない。そりゃまあクラスでは一番仲いい女子だとは思うけど、色々あったし。交換日記のアレとか。
 そうだよなー、思えば僕韮瀬に好かれるような事したことないじゃん。何考えてたんだ。
 えーっとなんだっけ、考えを戻そう。
 そうだそうだ、とにかくこの状況を打破しようと思ってたんだった。
 まずひたすら否定。それも今までみたいな「えー違うからー」じゃない。「違うっつってんだろコラァ!」ぐらいでいく。
 ドスの利いた声が出ればいいんだけどまだ声変わりしてないしなー。
 小5で声変わりした寺門がちょっと羨ましい。声変わりしたら結構いい声になったし。
 とにかく怒りまくって、韮瀬もその流れに乗ってくれれば流石にみんなにも分かってもらえるだろう。
 後はどうやって変な空気にならないようにするかだな。マジ切れしてると思われたら後で面倒だしー。
 筒井が上手いこと茶化してくれないかなー。別に金田でも牧橋でもいいんだけど。
 けどそれじゃこっちの言ってることが本気だって思ってもらえないかもしれないし、うーん。
 なんかいい落とし所ないかなー。
 黒板を見ているふりをしながら円満にことを済ませる方法を考えていると、チャイムが鳴ってしまった。
 一旦考えるのはやめにしてノートと教科書を畳む。
「あー鳴っちゃったか。じゃ明日は6行目からな。日直号令」
「きをつけー、れい」
 古津さんの号令がかかって、教室の空気がざわめきだす。
 いまいちいい手は思いついてないけど仕方がない。
 誰でもいいからかかってきやがれ!

 と思ってるときに限ってなぜか絡まれないのはおかしいよなー。
 相変わらず会話の少ない給食の時間を済ませて、昼休み。
 待っていた、というのもちょっと違う気はするけど、ようやくチャンスがやってきた。
 引き金を引いたのは牧橋。
 金田と牧橋は割と席が近いので、昼休みふたりが教室にいる時は僕がふたりの方に喋りにいく感じになる。
 今日も僕は金田と牧橋のおおよそ中間点、昼休みは教室の後ろで黒板にお絵かきしてていない大貫さんの机に座って肘をついていた。
 ちょうど会話が一段落ついたところで、一瞬沈黙が生まれる。
「暇だなー」
 思わずそんな言葉がこぼれ出る。
「じゃあニラんとこでも行けよ」
 すると牧橋は何故かどや顔でこう返してきた。
 本当にただ口から漏れただけだったのでちょっと反応が遅れそうになったけど、来た。
「は? 行かないから」
 まずいつも通りな感じで否定してエンジンをかけ始める。
「あらもう破局? 実はアツアツなんでしょう?」
 そのネタは金曜に松田がやったぞ。
 筒井、松田、牧橋辺りは脳を共有してるんじゃないかと思うような返し方をしてくる。仲がいいな。バカとも言うけど。
「だーかーらー、僕と韮瀬は付き合ってないっつってんだろ!」
 机を小さくドン。大貫さんごめんなさい。
「ちょ、どうしたムキになって」
 笑って見ていた金田が逆に焦り始めた。
 そういや僕あんま人前で派手に怒ったことないしね。けど今日の僕は一味違うぜ。
「最近ずっとそればっかで嫌なんだってば! そろそろ分かれよ!」
「え、や、まあ」
 牧橋がキャパを超えたか反応が鈍くなる。
 早速、クラスの注目はこっちに集まり始めている。というか違うクラスの奴もいくらかいるー。
 これは失敗したら他のクラスにも伝わるわけで、いやもう伝わってるか。言いふらされないはずないもんな。
 だったらもういっそ続けちゃえ。それも大胆に。
「つーか今ここではっきりさせようぜ! 韮瀬!」
 僕が名前を呼ぶと、背を向けていたその肩がビクッとして、こっちを振り返る。
 不破も小峰もこっちをガン見中だから、多分わざと背を向けてたな。
「僕と付き合ってなんかいないよなー!」
 クラス中の目が僕から韮瀬に移動する。それを感じてか、韮瀬の耳がすごい勢いで赤くなる。
 そして顔まで赤くなる前に、ガクンと頷いた。
「なー!」
 キッと牧橋を睨む。
 動揺した牧橋は僕と韮瀬を交互に2度ほど見て、韮瀬と同じようにガクンと頷いた。
「分かったんならお互い好きでもなんでもないんだからほっといてくれよ!」
 もう一度机をドン。
「分かった分かった、だからちょっと落ち着け」
 金田の表情が明らかに戸惑っていていてちょっと申し訳ない気持ちになったけど、まあいいか。
 今日たまたまやってないだけで、こいつも先週はいろいろやってくれやがったからな。
「とりあえずごめんな」
「え、いや、いいよ」
 とはいえ頭まで下げられると流石に申し訳ない。
「牧橋も謝れ。いやもう土下座しろ」
「はぁ!?」
 この一言に、目の前の僕と金田の会話をぽかーんと見ていた牧橋が再起動。
「そうだそうだ、土下座しちゃえよ」
「申し訳ないって気持ち見せろよー」
 山ちゃんと他のクラスの知らない奴がそれをはやし立てる。
「やっちゃえやっちゃえ!」
「どーげーざ! どーげーざ!」
 守口とか加藤とか、積極的に僕をいじってた側まで僕の味方につき始めた。まあこいつらは牧橋で楽しみたいだけか。
 こうなると筒井が体育館にバスケやりにいってるのが悔やまれるな。
「え、えぇー……」
 牧橋はしばらく戸惑っていたけど、バカはバカなりに覚悟を決めたのか狭い通路に膝をつき、
「すいませんでしたぁーっ!」
 土下座。沸くギャラリー。
「牧橋」
 そこへ僕が声をかける。
「韮瀬にも、だろ?」
「えー、そこまですんのかよ俺ー!」
 不平の声が上がって、
「当然だろ!」
「1回も2回も同じだろ!」
 でも悪乗りした外野にはその声が届かない。
「いや、あたしいいから」
「なんだよもったいないぞニラ!」
「一発もらっちゃえよ土下座!」
 まだ耳が赤い韮瀬がそう言っても、聞く耳は持たれない。
 仕方なく牧橋はもう一度韮瀬に向けて土下座。嫌そうな顔されてたけど。
 更にもう理由とか関係なく牧橋が土下座させられそうになっているところで、チャイムが鳴って彼は救われることとなる。
 でもって、僕はそれ以上に救われることとなった。
 バスケから帰ってきた筒井や他数名の耳にもこの話はすぐに伝わり、「まあなんかいじるのやめるか」みたいな空気が全員に行き渡って僕と韮瀬は晴れて自由の身だ。
 僕はメモ帳持ってないけど、どっかに挟んで取っておいてあるやつがあったらそれでメッセージを送ってやろう。
 ちょっとぐらいは感謝の意を示してくれるはずだ。

       

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