Neetel Inside ニートノベル
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「そーいや戸田くんて誕生日いつだっけ?」
 英語のノートを写しながら、今西が突然そんなことを聞いてきた。
「え、12月の4日だけど」
「そっか。じゃまだ先だねー」
 そう言って手を止める。背中から何かオーラが見えるので
「今西はいつなの?」
 と聞いてやると弾かれたように振り返って、
「10月の1日!」
 右手のシャーペンを垂直に立てて、左手は0を作る。
「つまりあたしの方が年上!」
「……2ヶ月だけどね」
 そこそんなに誇るところじゃないだろ。
「でも上は上!」
「はいはい」
 正直身長で負けてる以上今更年上だったところで大差ないというか。
 いやでもうーん、なんか腹立つ気もしてきた。
 身長はまだ伸びるけど生年月日は無理だし。
「まあ成績なら僕のが上だけどね」
 ちょっとやり返すつもりで呟いてみる。
「いやそれはしょうがないというか」
「どのように」
「やっぱりノートだけのあたしが遅れを取るのは当然的な」
「でも、上は上だから」
 そしてどや顔。
「……きっさまー!」
 今西が立ち上がって、僕の目の前に立つと
「ふ」
 と見下ろして、いや見下して笑う。
 僕も対抗して――――何しよう?
 なんか咄嗟に今西に勝ってる部分が思いつかないぞ。
 というかこれやられたら何で対抗しても勝てない気すらする。頭一つ分はでかすぎるだろ。
 それでも何か、んーと、あ、そうだ。
「体重なら僕のほうが軽いかもしれっ」
 最後まで言い終わる前にチョップが落ちてきた。
「ざけんなー!」
「お、何自信ない感じ?」
「あるわ! 馬鹿にするな!」
「じゃあちょっと言って――――」
「戸田くん」
 ぞくりとして振り向く。
 パソコンに向かっていた田原先生から、聞いたことのないぞくっとするような声が聞こえてきた。
「確かに最近の子達は体重を気にしすぎだわ。みんなもっと痩せたいと言うけれど、そういう子の大半は十分標準の体重をしているのよ。他の痩せてる子の体重を聞いて羨ましがる必要だって別にないわ。」
 何これ。何も怖いこと言ってないのに怖い。
「でも」
 先生はくるりと振り返って、
「女の子に体重を聞くのは、なるべくしないほうがいいわよ?」
 笑顔でそう言って、またパソコンに向かった。
 数秒間の静寂の後、静かに僕と座った今西は向かい合って、
「み、見たか今の」
「見た」
「死ぬかと思った僕」
「あたしも正直ビビった」
 小声で震える。
「今日は余計なことやめよう、大人しくしてよう」
「だね……」
「争いは何も生まないんだ」
「平和が一番だよね」
 今西がシャーペンを持ってノートに向かいなおして、僕はそれを暇しながら眺める作業に戻った。

       

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