Neetel Inside ニートノベル
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 あみだくじの結果を伝えたあいつらの行動は、実に統率が取れていた。
 30秒もしないうちに全責任は僕に渡り、金田と牧橋は逃走。
 で、現状僕は女子3人の集まる机の近くで、椅子に座って置物となっている。
「友代、どこ行きたい?」
「別にどこでもいいけどー。あ、待ってここよくない?」
「えー、あたしこっちがいいー。ソフトクリーム食べたくない?」
 騒いでいるのは韮瀬と、不破知代と、小峰綾。
 うちのクラスの卓球部3人で、よく一緒にいる。特に、不破と小峰はいつもべったりでどっちがどっちだか最初分からなかった。
 牧橋に聞いてみたら「眼鏡のほうが不破、頭いいのが小峰」って言われたけど頭いいほうは外見じゃわからないだろ。あのバカ。
 わいわい騒いで、次々と予定を決めていく。
 僕には一切介入させないのに、「ここにいて話聞いてて」って言われてはや10分。
 未だに僕に発言の機会は回ってこない。
「……あのさ」
 耐えかねて声をかけると、3人が一斉にこっちを向く。不機嫌そうな顔で。
「僕いなくてもいいよね、これ?」
「はぁ?」
「うんまあ、そうっちゃそうだよねー戸田くん喋んないしー」
 不破と小峰が二人でくすくす笑う。なんかむかつく、
「駄目、いてよ。あいつらに後で説明するの嫌だし」
 ふざけんな韮瀬。
「いいじゃん、説明すれば」
「なんでよ。女子にばっかり押し付けるなんて不公平でしょ」
「じゃあ僕もやる。それでいいだろ」
「いいよ。じゃあ、どこ行きたい?」
 パンフレットを指差された。立ち上がって、机のパンフレットを覗き込む。
 パラパラと一通り眺めて……大変なことに気づいた。
 この公園に、僕が行きたいと思えるようなところがない。
 渡されたパンフレットによると、この公園のウリは日本でも有数の規模らしいバラ園と、巨大アスレチックに野鳥観察スポット。
 バラ園と野鳥はどうでもいいし、アスレチックは僕がやるには少し不安が残る。
 けど、あいつらは僕と違って体育死ぬほど楽しみにしてるやつらだし、
「アスレチック」
「って言うと思って、もう行くって決めてあるんだけど」
 二の句が継げない。
 また不破と小峰がくすくす笑った。うー、顔が赤くなるのを感じる。
「で、まだなんか言うことはある?」
「……ないけど」
「じゃあそこでおとなしく話聞いてて」
 勝ち誇った顔で韮瀬が椅子を指差す。
 すごすごと椅子に戻って、それからはまた退屈な時間が始まった。
 あいつらに助けを求める視線を送ってみたりもしたけど、そもそもこっちを向いていない。
 逃げたいけど許されそうになくて、時計の針と韮瀬たちを眺めて時間を潰す。
 こうして見ていると、上下関係って奴がはっきり分かる。
 最初は3人がわいわい言い合っているように見えたけど、実際は韮瀬がこの場をほぼ支配している。
 不破と小峰はいつもべったりで、そこまで気が強いわけでもない。
 韮瀬の強い押しがあると、ちょっとは嫌そうな顔をするが最後は押し切られてしまう。
 といっても、基本は韮瀬と仲がいいから極端に意見を違えることもないんだけど……お。
 チャイムが5時間目の終了を告げる。よし、これで帰れる、
「よーしじゃあ、計画の紙を書き終わってないとこは残って出してけよ。
はい戻って、帰りの会やるぞ」
 わけじゃなさそうだ。
「終わってる?」
「まだ。ちゃんと残っててね」
うぇー。
 足取り重く、ロッカーから鞄を取り出して机に戻って、鞄に顔を半分埋めて逃げ出すための方策を練る。
 家の用事、はきっと無理だろう。部活には入ってないし。
 やっぱり誰かと約束がある。これか。けど誰と。
 寺門はサッカー部だし、他に仲いい奴はこの学校に来ていない。
 今西、は名前を出すのはやめといたほうがいい。じゃあどうするんだ。
「戸田」
「ん?」
 金田が突っついてくる。なんだろう。
「早く立てって」
「え?」
 周りを見れば、みんなもう帰りの挨拶のために立っている。
 慌てて立ち上がると、クラス中が爆笑に包まれた。
「戸田何やってんだよー」
 筒井がはやし立ててきて、もう1回大爆笑。
「はいじゃあ日直、号令」
 妹尾先生の苦笑いをこれ以上見ないように、赤くなった顔を勢いよく下げた。
 あーくそ、今日は厄日だ。

       

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