Neetel Inside ニートノベル
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「疲れた……」
 紙を提出するために職員室へと歩きながら、ため息をつく。
 掃除の後1時間、は行かなかったけど50分ぐらいは韮瀬たちに付き合わされて、身体は楽だったけど精神的には凄く疲れた。
 女子が喋ってるのを聞いてるだけなのに、なんであんなにキツイんだろうか。
 1年の教室にはもう誰もいないみたいで、廊下に僕が歩くキュッキュッという音だけが響く。
 歩きながら予定の紙を見直してみる。おーほんとだ、午後はアスレチックでほぼ時間を潰す気だ。
 結局、金田にも牧橋にも相談せずに決めてしまったけど、これならまあ文句もないだろう。
 階段を小走りで駆け降りて、テニス部が練習してるのを窓から眺めながら、職員室がある棟への通路を通り抜ける。
 僕たちの校舎はまだ新しいけど、こっちの校舎は耐震補強だかなんだかの建て替えが済んでいなくて、古いままだ。
 あっちこっち欠けたり割れたりしているタイルは時々、踏むといきなりずれてバランスを崩しそうになる。
 自動で走る奴を注意してくれる廊下だ、なんて妹尾先生は言っていたけど、要はボロっちいんだよな。
 部活の予定表が書いてある黒板の下に、鞄を放り捨てる。
 コンコン、のつもりだったけどやっぱりボロいせいでガタンガタンになってしまったノックをして、職員室のドアを開けた。
「失礼しまーす」
 1年の先生の机は確か一番前だったはず。えーっと、
「おい、ちゃんとクラスと名前」
 いきなり、眼鏡をかけたいかつい先生に呼び止められる。1組の担任で理科担当の八重先生だ。
「あ、はい、えーっと1年2組――」
「入るところからやり直せ」
「……はい」
 面倒くさいけど、どう考えても逆らわないほうがいいタイプの人だし。
 一旦外に出て、ドアをガタンガタンさせて、
「失礼しまーす。1年2組戸田順平です、妹尾先生いらっしゃいますか」
「先生は今、留守にされてるから用件があるなら聞こう」
 ここまでしてそれかよ。
「いや、この紙を出しに来ただけなんで」
 八重先生は紙を一瞥すると、
「じゃあ、そこの机に置いておけ」
「はい」
 指差された机の上には、大量の書類とらしくない可愛いマグカップ、英和辞典にテキストなんかが積み上げられて大分ごちゃごちゃしている。
 その中でもすっきりしている一帯の、見たことない単語が並ぶ章末テストの上に紙を置く。
 そのままそそくさと扉から出て、
「失礼しましたー」
 なんか文句を言われる前に扉を閉める。さすがに追ってはこないだろう。
「さーてと」
 鞄を拾って時計を見ると、3時40分。
 ……今西も、流石に帰った頃だよな。

 けど一応。
 帰る前に、下駄箱を確認してみる。
 まあいくらなんでも1時間も帰らなかったわけ、
「あった……」
 下駄箱の中に鎮座する靴。
 慌てて、脱ごうとしていた上靴に足を戻して、すぐそばの保健室のドアを開ける。
「遅いー。待ってたのにー」
 机に突っ伏していた今西が、顔を上げることなく文句を言ってきた。
「ちょっと、やらなくちゃいけないことがあって、さ」
「1時間もー?」
「1時間も」
「ふーん。何してたの?」
 うげ。
 今一番聞かれたくないことを。
「いや別に、大した事じゃないし」
 校外学習の話を持ち出して、いい気分がするわけがない。
「嘘ー。校外学習でしょ?」
「えっ」
 なぜそれを。
「うわー、めっちゃ分かりやすく驚いてる。
この奈美様に見通せないことなんてないんだぜー」
 誰かから聞いたわけもないし、いや一人いるな。
 ちらりと田原先生の方を見る。先生はにやりと笑って、
「私じゃないわよ」
 え、違うのか。
「そんなことするわけないでしょ。あたしの超能力で――」
「そこの予定表見てたから、それから推測したんでしょ?」
「あー先生言っちゃダメー!」
「なるほどー。凄い超能力だなー」
「うっ」
 僕ニヤニヤ。今西オタオタ。
 この姿を見ている限り、今西があの時のことを気にしているなんてのは僕の思い過ごしにしか思えなくて、少し気が楽になる。
「で、何教えて欲しいの?」
 待ってたってことは、どうせまた数学だろう。壊滅的に駄目だからな、今西。
「ん? ああ、違う違う。頼みたいことがあって」
「え、何?」
「えーっとね、」
 そこで、今西が言ったのはなんでもない、だけど難問だった。
「よろしく頼める?」
 迷う。頼まれていることそのものは簡単だけど、それには少しばかり問題がある。
 いや、待てよ。
 記憶から、いろんなものが引きずり出される。あれと、これと、それと……よしいける。
「頼まれた」
 ちょっと辛いかもしれないけど、僕はそれを引き受けた。
 今西を喜ばせることができるなら、それでプラスマイナスはゼロ。
 なら乗らない理由なんてないだろう。

       

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