Neetel Inside ニートノベル
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 教室に着くなり、見知らぬ人からいきなり宣戦布告された。
 宣戦布告された事も意味が分からないが、一番意味が分からないのがその内容で――

「佐藤優希! 貴様の時代はもう終わりだ! 今からはこの俺が真のアイドルだ!」

 ――て、言われたわけなんだけど、僕は全然アイドルじゃないんだけどね。
 誰か知らないけど、あなたが僕の代わりに女装してくれるのなら、僕は喜んでお願いするよ。
「優希にライバルが登場するとはね。でも言っておくけど、優希はあんたなんかには負けないわよ!」
「百瀬さんっ!?」
 ちょっ、何急に話しを広げてるんですか? ここは彼にアイドルの座を譲って全てが解決する
はずだったのに、どうして話しをややこしくするのかな?
「あんたみたいな男が優希に勝てるはずがないでしょ!」
 いやいや、彼の勝ちでいいと思うよ。てか、勝ちたいとか思わないし。
「ふん! そこまで言うのなら勝負をしてもらおうじゃないか」
 僕は何も言ってませんけどね。
「いい度胸じゃない。あんたと優希、どっちが可愛いか勝負よ!」
 あーあ。本人の意思を無視して話しが勝手に進んでいってるよ。
 しかも可愛さを競うってどんな事を……って、どうせアレだよね。

「皆さんお待ちかねの勝負の時間がやってまいりました! 司会はお馴染みの優希の一番の親友にして、
一度も名前で呼ばれていない不遇の男こと――」
「余計な前振りはいいから早く始めろ。先生だって暇じゃないんだからな」
「あ、あの……」
「それで、今回はどんな服を着るんだ?」
「あーもういいよ! 俺の事なんかより優希達の方が大事だからな。そんなわけで選手の紹介をしよう」

「まずは我らが学校のアイドル。そして男達の理想郷こと佐藤優希だぁー!」
『おおーっ!』
 何だよこの紹介は。それに本気で勝負をする流れになってしまってるよ。
 マジで辞退したいけど無理なんだろうなぁ……
 
「そして無謀にも優希に勝負を挑んで来た本日の勇者はコイツだぁー!」
「ふんっ。この前園和樹がアイドルに相応しいという事を証明してやろう」
 もの凄くヤル気満々じゃないか。
 何でこの人はこんなにもヤル気があるんだろう? 女装が好きだから? 
 ああ。やっぱりこの人も変態ってだけか。
「詳しい説明は必要無し! ただ二人に女装してもらって、その可愛さを競ってもらうだけだ!」
『おおーっ!』
 何でこんな事で盛り上がるのかな。ここは学校なんだから楽しくなくても勉強をしようよ。
 それが正しい学生の形じゃないのかな。
「優希、絶対勝つわよ。あんな変態に負けるなんて許さないんだからね」
「は、はは……」
 帰りたい。本気で帰りたいよ。
 これも全ては――
「佐藤優希。覚悟してろよ!」
 クソが! 全部あんたのせいだよ。あんたさえいなければこんな事にはならなかったのに。
 しかし、いくら僕が嘆いてもこの戦いが終わるわけじゃないわけで……


「おぉーと、これが我らがアイドルの真の力なのか――っ!」
 何が真の力だよ。死ねよ。お前の実況とかいらないんだよ。
 僕の意志を無視した女装対決。
 こんな悲しい戦いに一体何の意味があるというのだろうか?

『ふむ。優希は今回はスタンダードな衣装で攻めてきたか』
『普通な感じがするのに、心がトキメクのは何故かしら?』
『ワンピース姿……悪く無いな』

 各々が感想を述べている。
 ただ普通に感想を述べるならいいんだけど、視線が気持ち悪いのは勘弁してほしい。
 普段から視線は気持ち悪いけど、今回は特に気持ち悪い。
 そんなにもこの、ワンピース姿がいいのかな?
 不快感満載だけど、それよりも今一番気になるのが――

「佐藤優希のワンピース姿。その光景は暗黒の世界に舞い降りた、ただ一人の女神のような美しさだった。
 その姿を目撃した者は、どんなに心が汚れていても綺麗に浄化されていく。そんな錯覚を覚えるほどだ。
 まさに奇跡の姿。神の象徴! ただのワンピースで、ここまで可愛くなるなんて…………」

 え……誰? この人。感想が物凄く気持ち悪いんだけど。
 初めて見る人だし、この学校の人間じゃないよね。
 この気持ち悪るさ――あのゴミ野郎といい勝負をしているかもしれないな。
  
 
「ふんっ! そんな普通の姿で出てくるとは、俺も舐められたものだな」
 もの凄い自信で彼……ええと、前園和樹だっけ? そいつが出てくる。
 あと、一つ言っておくけど、あんたを舐めたつもりもないし、今回の服は百瀬さんが勝手に選んだ服だよ。
 僕は何も関与してないからな。大体僕が口を挟めるのなら、もう少し露出の少ない服にするって。
「おぉーと、自信満々で出てきたのは、チャレンジャーの前園和樹だぁーっ! 
 彼の選んだ服は何なのか? そして、どれぐらい可愛いのか――――!?」
 司会であるバカの言葉が途中で止まる。
 一体何があったのだろうか? アイツ自身には興味は無いけど、あの変態の言葉が止まるなんてどれほど
の事があったのかな?
 とりあえずアイツの方を見てみると、そこには――

「ふふんっ! どうだ佐藤優希。俺の完璧な女装は。これで今日から俺が真のアイドルだな」
 謎の生物が居た。
 声と言葉から相手は前園和樹だと分かるけど、見た目では誰か全然分からない。
 究極的に女装が似合っていない。むしろこれは、警察に通報されてもおかしくないレベルじゃないだろうか。
 もし、この場以外で今の彼に会ったら、僕は迷わず通報するだろう。
 それほどまでに彼の女装は酷い。
 この酷さ、謎の人はどんな感想を抱くのだろう。
「oh……なんてこったい」
 なんという絶望的な表情。
 人生のどん底に叩き落とされたかのような表情をしてるよ。
 さすがに、彼の女装はお気に召さなかったようだ。
「どうした? あまりの可愛さに声も出ないか」
 知らぬは本人だけか。
 彼以外の人間は本気で引いている。あのどうしようもない変態共が引くくらいのものが目の前に居る。
 これは、ある意味では貴重な光景かもしれないな。
「あ、あんたふざけるんじゃないわよ! 何よその格好は!? 全然似合ってないわよ!」
 百瀬さんがキレた。
 まぁ、その気持ちは分からないでもないかも。あそこまで見栄をきっておいて、これはないと思うよ。
「比べる必要も無いくらいに優希の方が可愛いじゃない! そのクオリティでよく出てこれたわね!」
 百瀬さんの怒りの声に皆が同調する。
 さすがに皆も彼が許せないようだ。
「帰りなさい! 帰って今一度自己を見直して修行してきなさいよ!」
 修行って、何をするんだよ。
 しかもその台詞って、この先再戦があるような台詞回しじゃないかな。嫌だよ。これと闘うのは。
「クソッ! 佐藤優希、覚えてろよ!」
 半泣きで教室から出て行く前園和樹。彼の事を覚えておくつもりはないし、出来る事ならもう二度と
僕の前に登場して欲しくない。
 
 意味が分からないままライバル宣言され、
 意味が分からないまま女装させられて、
 
 結局今日一日は何だったんだろう?
 ただ無駄に女装させられただけのような気がする。
 ほんと、意味が分からないな。
 
 そして、前園和樹。彼は初めから存在しなかった事にしたいな。
 あと、変な感想を述べていた謎の人は誰だったのだろうか?

       

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