Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 ああ。そろそろ。そろそろ来るとは思っていたんだ。
 思ってはいたけど――こうして現実のものになると実に言葉に困る。
 
 プール――どうしてこんな非人道的な物が存在するのだろうか?
 普通にプールで遊ぶのは何も問題は無い。ただ、この学校の授業のプールが問題なんだ。
 もう言わなくても分かっているだろう?
 ここの変態共の事だ。どうせ僕に女子の水着を着せようとするんだろ。もう分かり切ってるよ。
 でも、今回ばかりはそんな愚行を許すわけにはいかない。
 許すわけにはいかないんだ……

「やほーっ♪ 優希。今日は待ちに待ったプールの日だね♪」
「普通の人はそうだろうね……」
 特に泳ぐのが苦手な人以外は、この日を待っていただろう。もちろん僕は待ってなんかいなかった。
 別に泳ぐのが苦手なわけじゃない。ただ――
「ついにこの日が来たか。優希の水着姿を拝むため、俺は一カ月もオナ禁したんだからな!」
「一生禁止してろよ。てか、生きる事を禁止しろよ」
 ただでさえ憂鬱な気分なのに、お前の顔を見るともっと気分が沈むよ。
「それで優希は、どっちの水着を着るのかしら?」
「どっち……って?」
 聞く価値は無いけど一応聞いてみよう。
「旧スクか新スク、どっちがいいかしら? 私としては、旧スクを着て欲しいかな」
「どっちも着たくは無いよ」
 やっぱり女子の水着の話しだったよ。そんなのは着たくないよ。いつもの事だけど毎回選択肢が
おかしすぎるだろ。
「あははっ♪ 優希は一体何バカな事を言ってるのかしら。女子の水着を着ないで優希は何を着る
つもりなのかしらね」
 何をって、普通の男子の水着だよ。男子の水着以外に着る物なんてないでしょ。
「優希。冗談を言うのは嫌いじゃないけど、今はそんな冗談を言っていい場面じゃないのは
分かってるわよね?」
「え……?」
 僕は冗談なんて言ってないんだけど……真剣に男子の水着を着たいと思っている。
 それなのに――
「そろそろ優希も自覚した方がいいんじゃないかしら。みんな優希の女子の水着を着た姿を見たい
のよ。世界がその姿を求めてるの」
 世界は少し言い過ぎでしょ。まぁ、でも皆が期待をしているのは僕にだって分かっている。
 だからといって、女子の水着を着るわけにはいかない。
 さすがにそれはマズ過ぎる。
 そんな物を着てしまったら、もう二度と立ち直れないと思う。
 衆人のねっとりとした視線。嫌でも強調してしまう男の部分。
 元々、男が着るようには出来ていないんだから当たり前の事態だ。
 そして発狂する変態共。
 想像するだけでも頭が痛くなるよ。
 だから、それだけは阻止しなければならないんだ。

「誰がなんと言おうと僕は男子の水着を着る! それが出来ないのなら授業を休む!」
 授業を休むと当たり前のように成績が悪くなるが、僕は成績よりも男としてのプライドを守る。
 まぁ、若干守れてないような気がしないでもないけど、それでも最後の砦だけは守りたい。
 僕が僕であるために……
「優希……そう。そこまでの決意があるのね。だったら私も自分の意地を最後まで通すわ」
 何で百瀬さんまで意地を通すんだよ。その決意は余計な物でしかないよ!
「頼子! 準備は出来てるかしら?」
「問題……無い……」
 いつの間にか現れた頼子ちゃんと一緒に百瀬さんが準備を始める。
 ああ。果てしなく嫌な予感しかしないね。
 適当な理由でも作って、保健室に逃げようかな。
『ディーフェンス! ディーフェンス!』
 何という鉄壁の壁。何でコイツ等は変な所で意志の疎通が出来てるんだよ。
 もう少し違う事で意志の疎通を図れよ!
「さて、優希。覚悟は出来たかしら?」
「準備……は……いい?」
 準備も覚悟も出来てないよ! そんなこと出来るわけないだろ!
「レッツ脱ぎ脱ぎ♪」
「脱ぎ……脱ぎ……♪」
 なんとも嬉しそうな表情。その表情は関係無い人間が見れば可愛らしい笑顔なんだろうけど、関係者
である僕にとっては、悪魔の笑みにしか見えない。
 その悪魔に勝てない僕は彼女達の望むままに着替えさせられ――

「終わった。僕の人生が全て終わった…………」
 なんとかスクール水着は回避出来たけど――
「学校指定の水着じゃないといけないんだが、今回だけは特別措置を取ってもらうように先生が働きかけておこう」
「やっぱり優希は何でも似合うわね♪」
「念の……ために……準備してて……よかった」
 よくないよ。何一ついいことなんかない!
 百歩譲って最後の砦は回避した。そう捉えておくとしよう。
 しかし、女装をしてるのは変わらない。上半身はビキニタイプの水着。そして下半身は、短パンを穿いている。
 短パンの中? それは悲しい事にビキニタイプだよ。
 最後まで僕が抵抗した結果、何とか短パンを穿く事が出来た。
 これである程度は我慢が出来る……はず。
 まぁ、それでも最悪な事に変わりはないんだけどね。

「学校でスクール水着以外の水着を見る事になるとは。しかし、佐藤優希のその姿はまるで砂漠の中のオアシス
のようだな。心に安らぎを与えてくれる。命の泉そのものだな」
 うわぁ……また出たよ変態が。本当にコイツは何処から侵入して来ているのだろうか?
 簡単に侵入出来るほど、この学校の警備は緩いのかな? だとしたら、マジで心配だよ。
 他にもこんな変態が居たら、コイツみたいに勝手に侵入してくるかもしれないし。
 一度校長に直訴した方がいいかもしれない。
 他の変態共の処遇も含めて。

 どういう風に校長に訴えればいいか考えながら水泳の授業は進んでいく。
 本来はちゃんと授業に集中しないといけないんだけど、周りの視線が気持ち悪すぎて何か他の事を
考えていないとやってられないからね。
 気を紛らわすために違う事を考える。
 おかげで授業は短く…………感じるわけがないだろ!
 ずっと視姦されてるのに、時間が短く感じるなんてありえないよ。むしろ普段より長く感じたよ!
 いつものクラスの連中だけじゃない、プールが外にあるから他の学年の人達にも見られたんだぞ。
 しかも、物凄い数の写真を撮られるし。
 マジで何なのここの学校の人間は――
 
 みんな変態かよ!

 …………ま、女装なんてしている僕が言えた義理じゃないけどね。

       

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