Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 人生で初めてラブレターを貰った。
 差出人は書いてないから誰からの物かは分からない。
 普通なら諸手をあげて喜びたい所なんだけど……

 いまいち素直に喜べない。
 何故なら、この手紙の差出人が男の可能性があるからだ。
 悲しい事に僕は学校でよく女装をさせられている。
 それだけでも自殺ものなんだけど、その女装の受けがいいのだ。
 特に男共の熱狂ぶりが恐ろしい。
 あいつ等の瞳に宿る狂気が怖い。あいつ等は平気で性別の壁を越えてきそうだから。
 性別を無視して、己の欲望を満たしてきそうだから。
 そんな事を考えると、どうしても素直には喜べないのである。
 
「あら優希。その手に持ってるのは何?」
「何ってこれは手が――って、百瀬さん!?」
「手紙……もしかしてラブレターじゃないでしょうね」
 一番見つかりたくない人に見つかってしまった。
 しかも変な所で鋭い。
「は、はは……そんなわけないじゃないですか。何の変哲も無い普通の紙ですよ」
「嘘」
「嘘じゃないですよ?」
 まぁ、勿論大嘘なんだけど、僕の全神経が悲鳴をあげて警告しているんだ。彼女にはこの手紙の
内容を知られてはならないと。
 だから、ここはなんとかして百瀬さんをやり過ごさないといけない。
「嘘は……よくない……と……思う」
「え……?」
 一瞬の隙をつかれて頼子ちゃんに手紙を奪われてしまった。てか、どうして頼子ちゃんが此処に居るんだろうか?
「やっぱり……ラブレター……だ」
「うおっ!?」
 手紙を奪い返す事も出来ず、頼子ちゃんを口止めする事も出来ずにバラされてしまった。
「      」
 うわぁ……百瀬さんが本気で怒ってるよ。本気の無言のプレッシャーを放っている。
 死ぬ。普通に考えたら殺されてしまう。
 そんな錯覚に陥るほど、百瀬さんから迸るプレッシャーが凄いのだ。
「優希」
「は、はいっ! 何でしょうか?」
「これ、誰からのラブレターなの?」
「だ、誰って……差出人の名前が書かれてないから分からないよ」
 出来ることなら女の子であって欲しいとは思うけどね。
「……そう。相手が誰かなんてどうでもいいわね」
 いや、かなり重要な部分だと思う。だって、これがもし男だったら……いや、考えるのはよそう。
「返事は私がしておくから優希はこの手紙の事は忘れなさい」
「ええっ!?」
 いくらなんでもそれは横暴すぎると思うんだけど。
「何? 何か異論でもあるの?」
 むしろ異論しかないよ。
「優希にはラブレターなんて物はまだ早いのよ」
「いや、ラブレターに早いも遅いもないと……」
「確かに……あなたには……少し……早いかも」
 その根拠は一体何なんだろう。
「優希には私が居るから他の女なんて必要ないでしょ」
「一応……わたし……も……いる」
 その言葉は嬉しいような、微妙な感じがするような……
「まぁ、仮に相手が男なら何の問題もなかったんだけど、現状じゃはっきりとしてないからね」
「あなたと……男子の……絡み……すごく……美味しいです」
 全然美味しくも無いし、問題しかないよ!
 何で女の子はダメで男だったらいいんだよ! マジで意味が分からないんだけど!
「そういうわけだから優希は、その手紙の事は忘れなさい」
「早く……忘れる……の」
「う、うん」
 もの凄い重圧を感じる。
 どうせ僕にはこの二人に対して拒否権も発言権も無いだろうし、ここは大人しく頷いておこう。
「あはっ♪ さすが優希。私の気持ちをよく理解してるわね」
 はは……全然理解できてませんよ。
「変な……女には……あなたを……渡さない」
 どうして頼子ちゃんが僕の相手を選別するのかな。
「ははっ。羨ましい状況じゃないか相棒」
「どこをどう見れば羨ましい状況なんだよ」
 こんなドス黒いオーラに包まれる状況なんて嬉しくないんだけど。
「何を言う。こんな恐怖しか感じない状況はドMにとってご褒美じゃないか」
「ははっ。死ねよバカ」
 お前にとってはご褒美かもしれないけど、ごく普通の僕にとっては地獄だよ。
 てか、この状況でご褒美とか言えるとかマジで変態だな。
 まぁ、誰が僕に手紙を送ってくれたのか分からないけど、ごめんね。
 返事をする事が出来なくてごめん。
 本当は返事くらいはするべきなんだろうけど――

「あははっ♪ 何処のクソ野郎が私の優希を取ろうとしてるのかしら?」
「許さない……絶対に……」
 こんな風に恐ろしい人達が居るから動く事が出来ないんだ。
 普段はただの変態だと思ってたのに、嫉妬癖があるだなんてね。
 変態+嫉妬癖。
 最悪の組み合わせじゃないかなこれって。
 うん。マジで酷いと思うよ。しかもそれが二人って何の嫌がらせなんだろうか。
 とりあえず、この手紙を書いた人に忠告をしておきたい。
 
 早く逃げるんだ――
 逃げないと彼女達に殺されるんじゃないだろうか。
 そう思わずにはいられなかった。

       

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