Neetel Inside ニートノベル
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 ――文化祭――
 学校行事の中でも大きな規模の行事の一つである。
 クラスの人間。または、部活仲間。友達同士で色々な企画を立て実行する。
 そんな一種のお祭りのようなものである。
 まぁ、そんな文化祭に向けて僕達のクラスも何か出し物をしようと話が持ち上がったわけで。
 
「我がクラスは文化祭の定番である喫茶店を開こうと思います」
 その決定にクラスから拍手が起きる。
 確かに喫茶店は定番だけど、その分やりがいも十分にあるのだ。
 年に一回のお祭りの文化祭だ、皆で楽しくワイワイとやるのも悪くは無い。
 そんな風に考えていた――

 しかしまぁ、現実はそんなに甘いわけでは無かった。
 準備が上手く進まない? 作業をサボる人間が居る? クラス全体の士気が下がっている?
 そんなどこにでも起きるような現実ならまだよかったのかもしれない。
 そういうような事ではなく、今僕に突きつけられている現実は――
「さぁ、優希。優希はどの衣装を選ぶの?」
 何とも僕にだけ優しくない現実だった。
 最初に誰が言ったか覚えてないが、誰かが『喫茶店といえば可愛い衣装だよな!』なんて事を言い。
 そして、その言葉に触発されたのは他の誰かが『ならまずは佐藤の衣装を考えないといけないな』
とか言い出したんだ。そして、あれよあれよと僕の目の前には無数の衣装が運ばれてきた。
「基本はウエイトレスかメイドだけど、あえて違う衣装を選ぶってのもありだと思うわ」
 何がありなのか教えて欲しい。そして常に過る疑問としては、何故僕なんだろうかという事。
 当たり前のようにこのクラスにも女子はいるし、何気に可愛い子だっている。
 それなのに、何故一番初めが僕なんだろうか。
「先生も百瀬の気持ちも分からないでもないが、ここは王道で攻めるのがいいと思うぞ」
「先生……」
「変に着飾る必要は無いだろう。こちらには佐藤が居るんだ。十分な素材があるんだから、飾り付け
なぞ拘らない方が素材が映えるだろう」
 この先生は一体何を言っているんだろうか。
 何で僕を基準にして考えてるの? どう考えてもおかしいでしょ。
「――先生! 感動しました。今回は先生の考え通りにいきましょう!」
 ええーっ!?
 ちょっ、百瀬さん? 何で先生の戯言に感銘を受けてるんですか?
 今の話。どこも感動する所なんてなかったですよ。いや、わりとマジで。
「優希もそれでいいでしょ?」
「いいでしょ……って言われても……」
 勿論嫌に決まってるじゃないか。でもどうせ、それを言っても聞いてもらえないんでしょ?
 だったら、僕の答えはもう決まってるじゃないか。
「……仕方ないか」
「さすが優希、話が早くて助かるわ♪」
「は、はは……っ」
 泣いていいだろうか……
「お、おぉう。まさか相棒が自分から女装を認めるとは驚きだ」
「認めてなんかいねぇから死ねよ変態」
 全部、全部……仕方のない事なんだよ。だから勘違いするなゴミ野郎が!
「あはっ♪ 腕が鳴るわね。私の全てを懸けて優希に似合う衣装を用意するからね♪」
「はは……」
 そこまで張りきらなくてもいいですよ。てか、むしろ大人しくしていて欲しい。
「俄然盛り上がってきたわ! 女子の皆、私に付いてきなさい! そして野郎共! 力仕事は任せたわよ!」
『ええっ!』
『おおっ!』
 百瀬さんの号令でクラス全体の士気があがる。
 それに引きかえ僕のテンションは急降下である。
「さぁ、皆! 今年の学園祭は最高のテンションでいくわよ!」
『おお――っ!』
 恐ろしいまでの盛り上がり、そして恐ろしいまでの統率力。
 下手したら、何処かの国を潰す事が出来るくらいじゃないだろうか。
 ああ。火事か地震でも起きないかな。
 別に今すぐとは言わないよ。学園祭が始まる前の日までには起きてくれればいい。
 そして、この学校を消滅させて欲しい。
 あ、いや。別に学校を消さなくてもいいかな。ここの変態共を消してくれればそれでも構わない。
 学園祭まであまり日にちが無いな。
 無駄だと分かっていても祈りを捧げよう。

 せめて――せめて、普通の衣装を僕に――

 おかしくない服装を僕に用意して下さい。

       

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