Neetel Inside ニートノベル
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 ついにやってきた学園祭当日。
 どんなに一生懸命願ってもこの日を回避する事は出来なかった。
 悲しい事に僕はクラスの出し物の喫茶店の最前線に出されている。
 勿論女装をさせられているし、服もウエイトレスの衣装にしては少々過激な気がする衣装だ。
 どうしてこんなにもスカートが短いのだろうか?
 下手をすれば下着が見えそうなくらいに短い。
 こんな物の何処に需要があるのか実に分からない。
 そして、それに釣られる人間も本気で意味が分からない。

『こ、ここが噂の神がいる喫茶店か』
『ここは天国ですか……?』
『早く! 早く! 席を開けるんだ! 早く俺に彼女を見せてくれ!』
『いやん。あの娘、お持ち帰りしたいわぁ~♪』

 酷い。あり得ないくらいに酷過ぎる。
 お客さんの入りはよく、売上も凄い勢いで上がっているけど素直に喜べない。
「まさかここまでお客さんが優希に群がるとは……」
「いや、感心してる場合じゃないでしょ。このままだとこの店潰れるよ」
 比喩的表現ではなく、本気で喫茶店が潰されてしまいかねない。  
 しかも、売上が悪くて潰れるんじゃなくて、大勢の人が押し寄せて来て潰れそうなんだ。
 場合によっては、病人が出てもおかしくない程の人だかり。
 これは、ある意味では成功しているんだろう。
 しかし――

 僕は完全に損をしている。
 ただの客寄せパンダにされて、大勢の人間に見られる。
 しかも、聞くだけで気持ち悪くなるような事を聞かされる。
 変態。
 変態ばかりが集まっている。
 こんなの健全な学園祭じゃない。僕が望んだ学園祭じゃないんだ!
「うぐぐ……佐藤優希。また貴様は小賢しい事を――」
「ウエイトレス姿……素敵」
「ああっ! 相棒が可愛すぎて生きるのが辛いぜ!」
 どんどん変態が湧いてくる。
 そして、生きるのが辛いなら死んでくれ。今すぐに。
「うむ。先生の思った通りだな。面白いように人が集まっている。そして、佐藤の可愛さ
が素晴らしい事になっているな」
 先生ェ……あんただ。あんたのせいで僕は――

「短いスカートから覗く白い太もも。そして見えそうで見えない下着。しかも見えないから
こそ、彼が穿いているのが男ものの下着なのか、女ものの下着なのか分からないのが更にいい!
 それだけで色々な妄想が掻きたてられてしまう。実に完璧じゃないか」
 うわぁ……今までで一番気持ち悪い表現の仕方じゃないかな。
 あと、あんたは何処から湧いて出てきたんだよ?
 マジで警察とかに連絡してもいいのかな?
 いや、この変態だけじゃなくて他の変態共も含めて消したいから、やはり連絡するべきか。
 携帯。携帯は……と。
「あら優希。仕事をサボって何をしてるのかしら?」
「も、百瀬……さん」
 どうして百瀬さんが此処に? あなたは確かこの場所には居ないはずなのに……
「隠れて携帯を取り出して何をしようとしてるの? ナンパした女のアドレスでも登録するのかしら?」
「いや、そんな事――」
 てか、ナンパなんかしてないし、そもそも僕にそんな余裕はなかったよ。
「じゃあ、早く仕事に戻りなさい」
「…………はい」
 ああ。僕は誰かに助けを求める事すら許されないのか。
 学園祭は生徒全員が楽しむものじゃないのか?
 それなのに僕には不幸しか舞い降りていない。
 こんな、こんな学園祭――

 潰してやる!

 とかほんの一瞬だけ考えてみたけど、無理だね。
 間違った企画とはいえ、皆が頑張って作り上げたものを壊すのは嫌だし、何より――
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?』
 この変共を止める勇気が僕には無い。
 行けば一瞬にして、変態の波に飲み込まれるだろう。
 だから僕は踏みとどまるんだ。
 これは決して逃げているわけじゃない。
 むしろ勇敢に戦っていると言いたい!
 そうだ! 僕は戦っているんだ。
 この辛い現実と!
 
 そんな現実逃避をしながら僕は最前線に立つ。
 怖い。周りの視線が本気で怖い。
 だけど僕は逃げられない。後ろに百瀬さんが恐ろしいオーラを放ちながら仁王立ちしているから。
 は、はは……っ。
 泣かないもん。

       

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