今日は学校が休みで、目が覚めると当たり前のように自分の部屋にいるはずなんだけど。
朝起きると、そこは見知らぬ場所だった。
何故見知らぬ場所に居るのか? どうして現在に至るまでの記憶が曖昧なのか?
辺りを見回すと答えはすぐに出てきた。
「ふんふふ~ん♪ ~♪」
「この……衣装とか……どう?」
「悪くはないんだけど、もう少しパンチが欲しいわね」
「そう……だったら、これ……は?」
百瀬さんと頼子ちゃんが楽しそうに談笑している。
そして二人の前には無数の衣装が用意されている。
それだけで全てを理解してしまった。
方法は分からないが、僕が寝ている間にこっそりとこの場所に移動させたようだ。
何故そんな事を――って、考えるまでもないよね。
それにしても勝手に人の家に侵入するのはどうかと思う。
不法侵入に拉致行為。何処の犯罪者ですか、あなた達は。
「あ、あの~」
とりあえず二人に話しを聞こう。
聞くだけ無駄な気がしないでもないが、このままでは話しが進まないし仕方ないよね。
それに二人の理性が何処まで正常なのか調べないといけないしね。
正常と言っても二人の場合、正常が異常なんだけどね。
「あら、優希おはよっ♪」
「…………おはよう」
「あ、うん。おはよう」
挨拶をするだけの知性は残っているみたいだね。だからといって僕の安全が確保されたわけ
じゃないんだけど……
「えっと……ここは何処なの? そして何で僕は二人に拉致されてるのかな?」
拉致した理由は何となく予想が出来るけど、この場所については全然予想出来ない。
「…………わたしの……家」
「そ、そうなんだ……」
頼子ちゃんって、実はかなりお金持ちだったんだね。
この部屋だけで学校の教室くらいの広さがあるんだけど……
「何も無い……所だけど……ゆっくりしてて……」
「……うん」
本当にこんな所でゆっくり出来ると思ってるのかな? それに何も無いって言ってるけど、
恐ろしいくらいの量の衣装があるよね。
それで何も無いってどういう神経をしているのだろう。
ゆっくりするといっても、ただただ彼女達が衣装を決めるのを大人しく待っているだけでしょ。
そして決められた衣装を着て辱められる。それだけの事。
今回はクラスの連中が居ないだけマシかもしれないけど、恥ずかしいのには変わりはない。
「優希。もう分かっていると思うけど……」
「その衣装を着ろって言うんでしょ?」
「そっ♪」
分かり切っているとはいえ、やはり悲しいものがあるよ。
まぁ、いくら悲しくてもそれが着替えなくていい理由にはならないわけで……
「やぁ~ん♪ 優希可愛いわよ♪」
「確かに……少しだけ……嫉妬……してしまいそう」
今回用意された衣装はセーラー服である。
ついに女子の制服を着る日が来るとは……と、いっても他にも色々と残念な衣装は着て
るんだよね。
しかも今回は強制的にスカートが短くなっている。
「……はぅ……」
これは頼子ちゃんの仕業に違いないだろう。
「うんうん。短いスカートはやっぱりいいわね♪ もう少しで下着が見えそうなのがまた――」
「――――っ!?」
こ、この人は本当何を考えてるんだよ!?
いきなりスカートを捲ろうとしてきたぞ! 男物の下着とはいえ、異性に見られるのは恥ずか
しいんだぞ!
「も、百瀬さん……?」
「ごめん、ごめん。つい出来心で♪」
「つい、じゃないよ」
ただの出来心でスカートを捲られるなんて理不尽過ぎる。
「そして、頼子ちゃんは何をしてるのかな?」
僕と百瀬さんとのやり取りを無視して、何らゴソゴソと準備をしている。
「撮影の……準備」
「ま、また写真に撮るの!?」
この人達は毎回僕の女装を写真に収めないと気が済まないのかな?
「違う……動画に収める……の」
「ど、動画だって!?」
僕のこの恥ずかしい姿を映像に残すだと……?
それはマズイ。非常にマズイ。
写真に撮られるのもどうかと思うけど、映像で撮られるのはもっとマズイ。
「あはっ♪ 可愛く撮ってあげるからね」
「わたしの……技術の……全てを注いで……撮るから……大丈夫」
自信満々に言われても安心できないよ。
「今日は時間にも余裕があるし、たっぷりと時間をかけて撮るわよー♪」
「おー……」
何このテンション。これは、もしかしたら今日は帰る事が出来ないかもしれないな。
レンズ越しに感じる彼女達の視線。
その視線は犯されているような錯覚を覚えるほど鋭くて、
一時も休まる事は無かった。
そしてポーズについても何度も文句を言われた。
僕はただの被害者で、役者やアイドルなんかじゃないんだから棒立ちになるのは仕方ないと思う。
それなのに、色々と注文をつけてくるなんて、ほんとどんな神経をしているんだろ?
ああ。この人達は普通じゃなかったか。この人達はごく普通の――
――変態だったよね。
あと、何気に僕には休みとか関係無いんだね。
学校があろうと、なかろうと結局女装させられるんだね。
ありえないよね。