授業とは、ただ机の上だけでするものではない。
時には外に出て勉強をする事だってある。
更にはペンを動かすのではなく、身体を動かす授業だってある。
そう。体育という最悪の授業が……
僕自身、運動は好きだし体育も嫌いでは無い。
体育自体は問題は無いのだ。問題なのは、体育ではなく授業を受ける時の服装にあるのだ。
「何で……何で、僕の体操服が女子の体操服になってるんだよ……」
おかしいにもほどがあると思うんだ。
百歩譲って、上は女子のでも問題は無いけど、下の方は明らかにおかしいだろ!
「さぁ、相棒。早く俺にお前のブルマ姿を見せてくれ!」
「黙れ! 死ね! 本当に死ね!」
クソッ! 僕の本物の体操服は何処にいったんだよ!
人の体操服を隠して違う物を用意するなんて、苛めどころの騒ぎじゃないよね。
それに何で僕だけブルマなの?
ここの学校の女子の体操服の下はスパッツタイプの物なのに、何でブルマ?
一体何処からこんな物を手に入れて来たんだよ。
「どうだ佐藤。先生からのプレゼントは気に入ったか?」
「先生……」
余計なプレゼントすぎる。そして、かなり迷惑すぎるよ先生。
「可愛い男の子がブルマを穿く。何とも言えない背徳感が素晴らしいな」
ブルマは穿きませんし、背徳感が素晴らしいとも思わないですよ。
「優希のブルマ姿……胸が熱くなるわね♪」
勝手に胸を熱くしないで欲しい。
「佐藤」
「せんせ……い?」
先生が物凄く真剣な表情で僕を見据える。
い、一体何を言うんだろう? 真面目な内容の話しなんだろうか。
「お前がブルマを穿きたくないのならそれは別に構わない」
嘘……でしょ? 先生がそんな事を言ってくれるなんて……
「構わないが――」
変態だ。変態だと思っていたけど、一応は教師としての自覚があったんですね。少しだけ
先生の事を見直しましたよ。
「男子の体操服で体育に出席した場合、お前の体育の成績は0点だ!」
「…………は?」
は、はは……っ。僕のちょっとした聞き間違いかな? 男子の体操服で体育に出席をしたら
0点って、ありえないでしょ。
「これは冗談でも聞き間違いでもないからな。先生をあまりバカにしない方がいいぞ。先生くらい
になると、成績を弄るくらいなんともないんだからな!」
な、なんだって――――っ!?
「成績を弄るなんて教師のする事じゃないですよ!」
しかも、それを利用して僕にブルマを穿かせようとするなんて人の所業じゃない。
「何を言う。体育の成績しか弄らないのだから、むしろ優しいだろ」
「全然優しくないですよ!」
本当の意味で優しいっていうのは、僕に女装をさせないように周囲の人間を説得する事でしょ。
「なら、全ての成績を0点にしてやろうか?」
「勘弁して下さい」
それだけは本気で勘弁して下さい。それだけは洒落にならないから。
「優希。そろそろ諦めたらどうなの? 人生何事も諦めが肝心だったりするのよ」
「いやいや、今諦めたらもう二度と戻れない所に行ってしまうから!」
「それも素敵よ♪」
ああ……最悪だ。こんな時誰か頼りになる人間は――
『ふ……股間が熱くなるな』
『ブルマ! ブルマ! ブルマ!』
『わくわく。どきどき』
ダメだ。頼りになる人間なんて初めから此処にはいなかった。
全員が敵で、全員が変態だ。
ああ。僕は人として完全に道を踏み外さないといけないのか。
僕だけはマトモでいたかったのに、ついに変態の仲間入りをしないといけないのか。
――嫌だ! 嫌すぎるよ! やっぱり変態なんかになりたくないよ!
何で僕がブルマを穿かないといけないんだよぉ……
「優希」
「百瀬さん……」
今度は何を言うつもりですか? どうせくだらない事だと思いますけど。
「仕方ないから今回だけは助けてあげるわよ♪」
「え……?」
今何て言ったの? 僕を助けてくれるだと? あの百瀬さんが!?
何かの冗談でしょ。
「ブルマ姿の優希は正直かなり見てみたいけど、今ここで優希に借りと作るのも悪くは
無いって思うのよね」
借り……ですか。ははっ。ただでは助けてくれないのね。
「どうする? 今度個人的に私のためだけに女装してくれるのなら、助けてあげるわよ」
「どうせ僕に拒否権はないんでしょ?」
「拒否したらブルマを穿くだけよ♪」
「…………お願いします」
考えるだけ無駄なようだね。結局のところ僕にはこの選択肢しかないわけで……
「ん♪ まかせて♪」
僕の意志なんて必要がないんだ。
百瀬さんが助けてくれた結果、確かにブルマは穿かなくて済んだ。
だけど――
「あはっ♪ スパッツも素敵よ♪」
そう。ブルマを穿く事は回避したんだけど、結局女子の体操服を着るのは回避できなかった。
スパッツを穿くのも実際は嫌なんだけど、ブルマに比べたらマシだよね。
うん。絶対にそうだ……だから、
だから恥ずかしくなんてないもんっ!