~~服屋さんで、見たものは~~
とりあえずぼくたちは、ユーシス君の案内で大きな服屋さんに入った。
そこは、今までみたことないほど大きくて上品なお店だった。
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたお店のひとも、落ち着いて気品のある紳士。
丁重に一礼してもらうとなんだかこちらが恐縮してしまい、思い切り頭を下げてしまった(いや、軽めに頭が下がった時点でアリスに止められたんだけど――お客なんだからもっとどっしりしてなさいって)。
その人に案内され、ぼくたちは奥に入っていく。
途中でアリスがこそっと言ってきた。
『ちょ……ここ、かなりの高級店じゃない?!
ユーシス君ってどれだけお金持ちだったの?!』
肩の上でミューが答える。
『ああ、調べてみたけどやつのうちは、この町で三本の指に入る名家だにゃん。
ユーシスはまさしくぼんぼんだったのだにゃん。
さっきのでびみょーに薄汚れたロビンやみるからにおのぼりさんのクレフや美しく気品あふれているけど猫の我輩をみても拒否らないあたり、この店もそんじょそこらとランクが違うニャ。アリスもクレフも気をつけろニャ』
「わかった。アリス……」
『うん。身体のほうは任せて。うわ緊張する……』
そうして服選びが始まった。
『お姉ちゃん! これなんかどうかな? あっこっちもいい!』
「まあ、どっちも可愛い! 迷っちゃうわ♪
あ、ねえユーシス君、あなたにはこれなんてどう?」
『うーん…… あ、それよりさこれこれ! これ着てみてよお姉ちゃんっ。このワンピースぜったいぜったい似あうから!!』
「そう言ってくれるなら試着してみるわ。すみません」
「よろこんで。こちらへどうぞ、お客様」
ひとつはさんだ通路でさりげなく待機してくれていた店員さんは、静かにすばやく駆けつけるとにっこり笑って紳士的に一礼。ぼくたちを試着室と案内しはじめる。
『あ、ごめんボクちょっとトイレ。試着室そっちでしょ? わかるから行ってて』
そのときユーシス君はぱっときびすを返して走り出した。
しかし、軽快な足取りで角を曲がったそのとき、ぽろっとポケットからハンカチが落ちたのが見えた。
拾ってあげよう。ぼくは静かに走り出す。
しかし、結局ぼくはハンカチを拾っただけできびすを返した。
そこでとても、胸が痛む光景を見てしまったからだ。
ユーシス君は、泣いていた。
大きな鏡の前でひとり。さっきと同じワンピースを、抱きしめるようにして。